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★★★★☆
【Amazonの内容紹介】
阿倍女帝こと孝謙天皇に寵愛され、
太政大臣禅師や法王などの高職に就いていた頃の面影は、
もはやない。
女帝の死後すぐに下野国薬師寺別当に任ぜられた道鏡は、
空ばかり見て過ごしていた。
そこに行信と名乗る老僧が近づき「憎い相手はおらぬか―」と囁く。
そう問いかけられたとき、道鏡の心に浮かんだ顔は…。
奈良時代、治世の安寧を願った人々の生き様を描いた珠玉の短篇集。
【収録作品】
「凱風の島」命懸けで荒波を乗り越えた遣唐使たち
「南海の桃李」西海道整備に尽力する吉備真備
「夏芒の庭」大学寮の若者たちと橘奈良麻呂の乱
「梅一枝」石上朝臣宅嗣と門人の賀陽豊年との絆
「秋萩の散る」左遷された道鏡と行信の苦悩
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奈良時代を舞台にした短編集。
吉備真備を主人公にした「南海の桃李」が、特によかった。
遣唐使船での航海の経験があるがゆえに、少しでも航海を安全にしようと、
島々に石碑を立てることを思いつく真備と牛養。
石碑を立てるためだけに中央での栄達を捨て、
大宰府での任務に就いた牛養は、
石碑を立てたと便りをよこすが、
再び遣唐使船で島にたどり着いた真備が見たのは朽ちた木の痕跡。
なぜ友は石碑ではなく木の札に替えたことを知らせなかったのか?
石碑をたてるための費用を着服したのではないか?
疑惑が生じる中、奈良に戻った真備は大宰府に向かう。
この時代の南西諸島について書いたものを初めて読んだ。
世の中をよりよくしようという若者の夢と、現実の前で挫折する切なさ、
そしてそこから生まれるさらに壮大な夢。
いいねいいね。
大学寮の学生たちから見た橘奈良麻呂の乱を描いた「夏芒の庭」も、
若さゆえのまっすぐさ、素直さ、
それを簡単に打ちのめす政治の世界の惨さ、
かすかに残る希望を描いていて切なくもまぶしい。
真面目で小心者の道鏡が、女帝の重すぎる寵愛とその結末に苦しむ表題作もいい。
女帝への愛憎半ばする思いにしんみり。