
かつて、といっても30年以上も前になるが、職場を同じくした友人から、冊子が送られてきた。
『国民学校一年生の戦争体験』と題するものであるが、決してどこかの出版社が売らんかなのために作ったものではない。
発行者は、「三重県立津高等学校昭和32年卒業生・戦争の記憶を記録する会」とある。
もうこれだけで感動した。当時、国民学校一年生だった彼らが、61年前の記憶を掘り起こしながら、自分の体験した戦争を書き残したものなのだ。その数、五十数編が、資料などとともに収められている。
もちろん、卒業生の有志によるものだから、特定の立場や視点はない。題材も様々で、文章のスタイルもそれぞれ異なる。しかし、だからこそ、価値がある。そして、だからこそあの戦争の様々な面がトータルに見えてくる。
空襲、疎開、肉親の戦死、食い物、外地からの引き上げ、などなど、そこには往時の少年たちが遭遇した戦争の全てがあるといってよい。被害者としてのそればかりではない。米軍捕虜への集団暴行や虐待の目撃談も載っている。
私の友人も、爆弾投下量が面積あたり全国一であった桑名市の空襲で、幼い兄弟姉妹とともに火の海の中を逃げ回った経験を述べている。
ここに書かれていることたちは、全て私の経験でもある。なぜなら、私もまたそのとき「国民学校一年生」であり、彼ら同様、空襲の恐怖と、空腹と、肉親の戦死や行方不明を経験していたからだ。
私は、これを送ってくれた友人や、これを編纂した「同級生」たちに、賛同と敬意とを惜しまない。よくぞ作ってくれた。
小泉の靖国参拝への賛否は、NHKのデータで見る限りこ拮抗しているようだ。その中で、賛成が多いのは70代と、20代であとはかえって反対が多いのだそうである。
思うに、70代は、皇民教育による洗脳が徹底して行われた世代だから、敗戦をもちゃんと受け止め得なかったのであろうか。20代に関しては、徹底した戦争への無知がある。先頃の靖国でのインタビューでも、「誰がまつられているの?」の問いに、「しら~ん」、「じゃあどうしてきたの?」、「なんか面白そうじゃん」といった具合である。
むろん、20代でも勉強をし、史実としては戦争を知っている人は多いだろう。しかし、ネットなどで見る限り、彼らの戦争はゲーム感覚の観念的なものが多く、そこで具体的に殺し、殺される生身の人間たち、それが他ならぬ自分たちや自分の愛すべき肉親であるという厳然たる事実がすぽっと抜け落ちている。
そんな人達にも是非読んでほしい冊子である。
もし、拙文をお読みになった方で、少しでも興味を持たれた方は、是非、下記からお取り寄せ、実際に目を通して頂きたい。
500円(税込み)プラス、送料300円で、トータル800円であるが、紙質、装丁、それに何よりもその肉声を感じさせる内容に、それを上回る価値がある。
取り寄せは以下のどちらかからです。
〒515-2504 津市一志町高野 160-451 田川敏夫様 TEL/FAX 059-293-0348
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最後に、津高のわが同年配の諸兄姉に、今一度、称賛のエールを送りたい。