
モルバランが相変わらず駆けてきた。
「今日はどこへ行ってきたの」
と、メルリッチェルが訊ねた。
「街の中へ行ってきた」
と、モルバラン。
「へ~、珍しいわね。それで何を見たの」

「《ゴシニミール》」
「なに、その《ゴシニミール》って」
「ほらこれさ」
といって、モルバランは数枚の写真を見せた。
「え~と、え~と、確かに街の写真だけど・・・」
メルリッチェルはその共通点を探した。
「そういえば、みんな窓越しみたいな写真ね」
「だから、《越しに見る》といったろう」
「うそ、少しアクセントをつけて《ゴシニミール》っていったじゃない」
「どちらでも一緒だ。春だから格好つけてみた」

「春は関係ないわよ。で、窓越しだとどう違うの」
と、メルリッチェル。
「いつもの景色と違って見える」
「そういえばそうね」
「でもこれは特別なことではない」
と、モルバラン。
「どうして」
「誰もが何かを見るとき、○○越しに見ているからさ」
「○○越しの○○って」
「そう、この写真のように実際の枠の時もあるし、目に見えない気持ちの時もあるし、 考え方の時もある」

「それが○○越してこと」
「そうさ、だから同じものを見てもみんなが同じように見ている訳じゃない」
「それはそうね。それがひどくなると、ある人には見えて、あるひとには見えないこともありそうね」
と、メルリッチェルが問題の枠をぐっと広げた。
そして、いたずらっぽくいった。
「ちょうどあなたが私を見るようにね」
「そんなことない。ちゃんと見てる」
と、少し慌ててモルバランがいった。
「アラ、ちゃんとかしら。本人がそう思っててもやはり《ゴシニミール》でしょ」

モルバランは一本とられた表情で立ち上がって駆けだした。
「今度はどこへ行くの」
「いろいろな《ゴシニミール》を探してみる」
そんなモルバランの後ろ姿をメルリッチェルは春の陽射し「越しに」見送っていた。