
《まえおき》
二月の終わり頃、ふとしたことで自信喪失のような自己嫌悪のような気分に襲われ、一週間ほど何も書けず、その後も、仕事上の文書や何かへの応答としてはともかく、積極的に「私は」で始まる文章が書けなくなりました。
そこで考え出したのが「モルバランとメルリッチェル」という架空の人物を登場させてのメルヘン風のお話でした。しかし、いつまでもこの二人のお世話になっているわけにはゆきません。そろそろ自力で表現できるようにしたいと思います。
そんなわけで、この二人のお話は今回が最終回です。
もとよりこの二人は、電脳空間に私が仮に置いたアバターのようなものですが、その二人にずいぶん助けられました。
モルバランとメルリッチェルに感謝します。
そしてこの二人が、今後とも、どこかの仮想空間で元気に過ごすことを祈りたいと思います。

モルバランがいつものように駆けてきた。
「アラ、どうしたの、なんか複雑な表情をしているわね」
と、メルリッチェルが訊ねた。
「そうかもしれない。事実、複雑な心境なのだ」
「何かあったの」
「何にもないといえば何にもない。ま、もとへ戻るということだ」
「なによそれ、さっぱりわからないわ」
「つまり、もう俺の出番はなくなったってこと」
モルバランはメルリッチェルをしっかりと見据えていった。
「もうここへは駆けてこないの」
と、メルリッチェル。
「そういうことだ。でも、ここへは来ないが駆けることはやめない」
「じゃ、どこへ駆けてゆくの」
「これからも俺を必要とする人や場所へ」
そういうと、モルバランは駆け始めた。
「待って、私も一緒に行くわ」
とメルリッチェルもあとを追った。
一陣の風に散り始めた桜が舞った。
*写真はいずれも名古屋市東区にて 四月三日