先日池谷裕二さんの『脳はなにかと言い訳する』(新潮文庫)の一部を紹介しましたが、さらに全体をかいつまんで紹介したいと思います。
・脳の活動の大部分は、実は無意識の部分であり、「意識」はむしろイレギュラー。「意識」が生まれると、脳の柔軟性があがり、適応能力があがる。
・記憶に重要な役割を果たすのが「海馬」で、その神経の強化には、マンネリを避け刺激ある日常生活を送ること、適度のランニング、食べ物をよく噛む、社交の場に積極的に出る、ストレスを避ける、幼児なら母親の愛情をふんだんに受けるなどが効果的。
・脳の仕組みが解明されるにつれ、「心」を含めて脳がもっとも重要で高次なものを考えがちだが、脳が外界と接触できるのは体というインターフェイス(接触面)があってこそ(体がなければ脳は何もできない)。それに関連する「作業興奮」については、別に述べたいと思います。
・ストレスは脳に影響を与え、それが体にも深刻な影響を与えるが、ストレスホルモンの上昇を抑えるためのポイントは、「予測」と「回避」。ストレスが生じる可能性があることをあらかじめ知っており、それが耐えられなくなったらいつでも回避できることを知っていると、相当に強いストレスも克服できる。そして、重要なのは、実際にストレスを解消することではなく、解消する方法を持っていて、自分はこれでストレス解消を出来ると信じていること。
・人間が選択しているように見える行動にも、ほとんど自由意思や根拠はなく、神経細胞の「ゆらぎ」(電気信号を伝えるイオン濃度のノイズ)の結果(たまたまそうなっただけということで、何と身も蓋もない…)。しかし、アイデアなどはこの「ゆらぎ」に中で生まれてくるので、あまり根を詰めるのではなく、ゆらぐ状況を作ることが必要(アイデアを必要とする人には、散歩をする人が多いのもそんな理由なのでしょうね)。
・記憶された内容を再生し、整理するためには、外部情報をシャットアウトした睡眠が欠かせない。記憶力を高めるためには、最低でも6時間の睡眠が必要との研究もあるが、睡眠がとれない場合でも、目を閉じてリラックスしただけでも睡眠と同じ効果が得られる(ただし、睡眠と同じように、外部情報をシャットアウトすることが必要。テレビをつけていたり、騒がしいとダメ)。
・シナプスの柔軟性をあげて学習しやすい状態を作り出すのがシータ(θ)波。年をとって記憶力が落ちたというのは間違いで、海馬の機能には問題がなく、年をとってシータ波をあまり出さなくなることが原因。シータ波は、知的好奇心や探索心など注意力や興味に関係していて、最大の敵は「マンネリ化」。
・アルツハイマー病は、脳にβアミロイドという毒が発生することにより発症することが解明されており、この毒をつくる酵素をブロックすることや、この毒を分解するアプローチによる治療法の研究が進められているが、日常生活の中でも「ドコサヘキサエン酸(DHA)」を多く含む食品摂取、運動などが効果的。カレー成分のクルクミンもアルツハイマーに効くというデータがある(インド人にはアルツハイマー病が少ないことから研究された)。
・人間も動物の一種であり、動物と同じ機能がある。つまり常に生命の危機にさらされる中で生きていた中で獲得された脳の機能として、危機的な状況にある時に注意力や記憶力が促進されるということ。食物を獲得するということは、生命維持に何より重要なことで、「お腹が空けば記憶力が高まる」。
などなどです。部員たちの指導に少しでも役立てばという思いもありますが、自分の脳にはどうかなあ…。