鹿島春平太チャーチ

「唯一の真の神である創造主と御子イエスキリスト」この言葉を“知っていれば”「天国での永生」は保証です。

Vol.139「18章 日本における自由思考空間」(4)~成功事例の普及は困難・トヨタ方式~

2012年04月20日 | 「幸せ社会の編成原理」

        
      
          
       
トヨタの自由思考空間もまた、発明家の並外れた自由思考精神が隷従土壌にハンマーで
打ち込まれたことによって出来ています。
こういうと奇異に思われるかも知れません。
トヨタ方式の創始者、大野耐一はそんな発明家ではないのでは、と。
      
たしかにそうです。だがこの精神の源はトヨタグループ創業者豊田佐吉の生き様にあります。

ここでは多くを語れませんが、明治維新の年に誕生した彼の、幼少時から死ぬ直前まで続いた
創意工夫と発明に捧げた生涯は感動的です。
途中の成功でなした財に安住することなく、物欲を離れて発明第一に生きて死んだ。
この姿に触れたら、この人を好きにならずに済む人間は少ないのではないかと思います。

トヨタ社の中枢を担う幹部は伝統的にみな佐吉を愛し佐吉精神を深く理解した人物ばかりです。
余談ですが、豊田一族もそういう佐吉に心を打たれた人々の集団です。
それ故この一族はみな佐吉の姿に心を浄化されていて、権力争いなど起こしようがないのです。
      

<ミニ佐吉を造る>
      
トヨタの工場長だった大野耐一も佐吉をこよなく愛する一人でした。
人は他者を深く敬愛するとその分身のようになっていきます。大野もそうでした。

彼は自分の工場の従業員を全員、ミニ佐吉にしようとしたのです。
愛する佐吉のように創意工夫に生きる人物に、生産現場において一人一人を育て上げようと
奮闘努力した。その結果がトヨタQCサークルだったのです。

大野が現場に注いだ精魂は次のエピソードにもうかがえます。

一人の社員にある仕事を、明日までにやってこいと命じた。
翌日、要求通りの製品をもってきた社員を大野は叱りつけました。
言われたとおりの仕事で、「おまえの創意は何処にも入っていないではないか!」と。

叱られる従業員も大変ですが、このように根気よく一人一人に自由思考をたたき込んでいった
大野のエネルギーも常人離れしています。
隷従気質の濃い精神土壌の国ではそこまでやらねばならないのです。
大野はほとんど戦いの日々を送りました。

こうして造られていった精神も含めたら、トヨタ方式は外部者が簡単に模倣吸収できるものでは
ないことがわかります。
      

<共有するは佐吉愛>
      
トヨタ方式も、社内に多くの自由思考空間を形成しています。
その中の人間の任意連携が卓越していることが全社の一体性の鍵になります。
それにはやはりここでも、成員たちが共有する精神的なものがいるのです。

京セラの稲盛は、それに自らの世界観を供給することでもって応じました。
だが佐吉は(従って大野も)世界観を供給する人ではありませんでした。

ここで一般社員が共有するのは、幹部と同じ佐吉への尊敬と愛情です。

静岡県湖西市にある「豊田佐吉記念館」にはその精神が保存されています。
そこには佐吉の幼少時からの生活と生涯や、彼が木製の織機を工夫することからはじめ、
遂に英国の自動織機に勝る織機を作り上げるまで、改善していった製品たちが並べられています。
       
それにさらに夢の飛躍を遂げさすべく途中まで画期的な発明が進んでいて、
突然の死で中断した無念の仕掛品もあります。
トヨタ社に入社した社員は必ずここを訪れます。
その他、幹部たちは折ある毎に佐吉精神を一般社員に説いて回ります。

このようにして社員全員が佐吉精神を共有しているのです。
この側面を経営ジャーナリズムも経営学者もほとんど伝えていません。

だから豊田市にある同社を見学に来る企業人たちは現場で、その一見新興宗教風の雰囲気に
驚くことになります。
案内する広報担当者は「我々は三河の田舎宗教団体ですから・・・」と照れ隠し気味に
応じているようです。
      
+++
       
トヨタ方式全体の導入を希望する企業は国内に多いし、韓国にもあります。
いわゆる伝道師も少なからずいます。だが多くの試みが失敗に終わっている主要原因は、
精神模倣の困難さにあります。

そうしたなかで、トヨタ方式にはその中で編み出された部分的技術に、模倣可能なものもあります。
「ムダ取り」や「ジャストインタイム」手法などはそれです。
それをトヨタ方式と思っているのが世間の実情です。
     
+++

稲盛も大野(佐吉)も物事を自由吟味する精神が並外れて強烈な大才でした。
そういう人物が、企業という限定的な閉鎖空間の中で、ほとんど独占的な決定権を手中にして
実現したのが稲盛方式、トヨタ方式でした。

模倣による広域普及はありえないのです。

だったらどうしたらいいのか、日本は!



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Vol.138「18章 日本における自由思考空間」(3)~成功事例の普及は困難・稲盛方式~

2012年04月20日 | 「幸せ社会の編成原理」

        
 
      
       
京セラもトヨタも日本においてだけでなく、世界的にも超優良会社です。
これらの事例を見るにつけ、筆者は
「人間集団の活力は、そこに形成される自由思考空間に比例する」
という觀を深くします。

国家についてみれば~
「国力はそこに許容される自由思考空間の大きさによって決まる」
~との印象すら抱きます。

そしてこの日本の優れた知的資産である京セラやトヨタの方式が多くの企業や
その他の組織機関によって模倣される事態を期待したくなります。
かく普及すれば聖句主義土壌のない日本でも幸せ社会に向けての力強い前進が起きるでしょう。
      
だがそれは難しいのです。この二大事例は非常に特殊なケースです。
これらはともに、隷従意識の濃い日本の土壌にハンマーでくさびを打ち込んで、
そこから四方八方に自由精神液を注射するという難事業の結果現れたものです。
並の才能とエネルギーで出来たものではありません。

      
<「精神」の体得が必須>
        
まずこれをなすには並外れて強靱な自由思考の精神、ものごとを自由に吟味する精神を
もっていなければなりません。
こういう人物の代表は発明家です。発明とは未知の領域に自由に創意を巡らす作業です。
また発明家の自由思考精神は何度失敗してもめげない、不屈の強さをもっています。

そして稲盛は発明家なのです。
彼は経営者としての側面が前面に出ていますが、発明の大才でもあります。
現時点においてすら京セラが特許をもっている発明品の八割は稲盛が発明したものです。

また現在では彼はすでに会長でもなく、名誉会長という文字通り名誉だけの会長で、
経営に関与する法的権限は保持していないのですが、それでも社内で発明される
新技術に関するすべての会議に稲盛は出席を要請されています。
   
この強靱な自由思考精神があるから、全くの素人状態から経理部長に経理知識を学び、
その知識を社員の自由思考空間実現に焦点を当てて簡素な損益計算書に再編成する
ということができています。
並の経営者には出来ないことです。

このできあがった「稲盛会計学」は模倣できるでしょう。
だが模倣は技術の外枠をなぞるだけでなく、そこに込められている作成者の精神を
吸収しないと完成しません。

でないと社内にシステムが一時的に出来あがって効力を発揮しても、長期的に持続することはない。
それだけでも稲盛方式の模倣吸収が容易でないことがわかります。

      
<世界観の共有も必要>
      
稲盛方式の場合、吸収すべきものがもう一つあります。世界観がそれです。
   
稲盛は会社を自由思考小集団に分けてしまいました。
これらの連携が効率よく行われることによって、京セラとしての一体性は保たれます。
聖句主義史で見てきたように、世界観は全体観となって個々の出来事の理解の仕方や
実践の仕方を決めていきます。

自由な状態で成員に効率的な連携が成り立つには、世界観の共有が必須条件なのです。
      
稲盛はその世界観も供給できたのです。彼は著書『哲学』などでそれを示しています。

「宇宙には善が成長すべしという創造主の意志が働いている」
「この世で善をなすという意識を持てば長期的には必ず成功する」
「その心を保つには魂を磨かねばならない」
「人生の究極目的はこの、魂を磨くことである」
~等々がその骨子として含まれています。

京セラのアメーバ方式は、この稲盛世界観の共有によって一体性を保っています。
だがこの理念の共有は、 京セラの成員ですらひと仕事です。

稲盛世界観は他にも多くの出版物に発表されていますので、習得機会は広く与えられていますが、
それでもやはり十分な習得には絶えざる努力が必要になっています。

社員は稲盛の世界理念をポケットに入るような小冊子にまとめた「京セラ手帳」を
常時身近において、折あるごとに読み直しています。
それでやっと京セラ内部では稲盛方式は機能しているのです。

<盛和会>

だから他の経営者が自社にそれを導入して生かすのは容易ではありません。

稲盛には彼の経営を学ぼうと集まった若手経営者から始まった「盛和塾」という
学びの会があります。
1983年の発足以来全国各地に広がり、2011年3月現在国内に54塾ある。
海外にも9塾(米国5塾、ブラジル3塾、中国1塾)あって、塾生総数が7000名を数えるという
大所帯です。

そのうちにはアメーバ方式の導入を試みる経営者もおおいのですが、十分な成功の報を
筆者は聞いたことがありません。おそらくないでしょう。
稲盛方式の日本での広範な普及は不可能なのです。


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