『おかしな男 渥美清』(小林信彦著、新潮文庫)を夢中になって読んだ。
小林信彦には『日本の喜劇人』(新潮文庫)や、多種多様なエンタテインメントに関するコラム集があり、それらも読んではいるが、土着的・人情的な「寅さん」と都会的な「小林信彦」とのイメージはダブらない。
実際にこの本も、『男はつらいよ』がヒットするまでの渥美清のエピソードに力が注がれている。
著者の見出していた渥美清の魅力は、「その道」の過去がなせる迫力と異形、それらとつり合わない美声などにあって、『男はつらいよ』では魅力の半分も出していないのだとする。つまり、枠にはまらない「おかしな男」ということだ。
それはそうかも知れない。『男はつらいよ』の最初の数作品で渥美清が見せていたような野蛮さ、乱暴さは次第に影を潜めていく。テレビで見るこちらにとっては、そんな粗暴な姿は不快なものだった。しかし、ほとんど『男はつらいよ』でしか渥美清を知らないわけで、本来のアナーキーな姿を見てみたい気もする。
最近、『男はつらいよ』での浅丘ルリ子との共演作(『寅次郎忘れな草』、『寅次郎相合い傘』、『寅次郎ハイビスカスの花』、『寅次郎紅の花』)を、この数年間のNHKでの放送で見て、本当に良いなあなどと感じている。これを、日本人に受ける情緒的な路線とされてしまうと、情緒的でもベタベタでもいいじゃないかと言いたくもなる。
ずっと疑問に思っていたことが解消した。『八つ墓村』(野村芳太郎)で、渥美清が金田一耕助を演じているが、「寅さん」しか知らない目には違和感しかなかった。実は、渥美清がほかの路線の可能性を模索していたこと、それから松竹と角川書店との衝突により渥美金田一は一作のみに終わること、が明らかにされる。改めて想像してみると、渥美金田一も悪くはないのではないかと思える。
渥美清は、共演を重ね、「ごぜん様」こと笠智衆の人格を尊敬するようになっていたとのことだ。それから、三國連太郎は渥美清の弔辞で、次のように語っている。
「(略)いくら笑っておられても目だけは冷厳に一人一人を見つめておった。そのことが私のように気弱な精神の持ち主にとっては耐えられなくなりました。(中略)私の方で、実はあなたに見透かされないように逃げて歩いたというのが正直な告白だったんです。」
冷たい風の中で屹っと立っていそうな三國、一本筋の入った人格者・笠、そしておかしな男。役と商売と実生活はぜんぜん違うのだろうが、まるで違う世界に居そうなこの3人の姿を想像するだけで面白い。あらためて、三國の写真集『Cigar』(沢渡朔、パルコ)や笠智衆の写真集『おじいさん』(小沢忠恭、朝日新聞社)を出してきて眺めたりしている。とくに『Cigar』は、沢渡朔がPENTAX LXで「個人的に向き合って」撮った作品であり、三國の精神妖怪ぶりが表現されている。



小林信彦には『日本の喜劇人』(新潮文庫)や、多種多様なエンタテインメントに関するコラム集があり、それらも読んではいるが、土着的・人情的な「寅さん」と都会的な「小林信彦」とのイメージはダブらない。
実際にこの本も、『男はつらいよ』がヒットするまでの渥美清のエピソードに力が注がれている。
著者の見出していた渥美清の魅力は、「その道」の過去がなせる迫力と異形、それらとつり合わない美声などにあって、『男はつらいよ』では魅力の半分も出していないのだとする。つまり、枠にはまらない「おかしな男」ということだ。
それはそうかも知れない。『男はつらいよ』の最初の数作品で渥美清が見せていたような野蛮さ、乱暴さは次第に影を潜めていく。テレビで見るこちらにとっては、そんな粗暴な姿は不快なものだった。しかし、ほとんど『男はつらいよ』でしか渥美清を知らないわけで、本来のアナーキーな姿を見てみたい気もする。
最近、『男はつらいよ』での浅丘ルリ子との共演作(『寅次郎忘れな草』、『寅次郎相合い傘』、『寅次郎ハイビスカスの花』、『寅次郎紅の花』)を、この数年間のNHKでの放送で見て、本当に良いなあなどと感じている。これを、日本人に受ける情緒的な路線とされてしまうと、情緒的でもベタベタでもいいじゃないかと言いたくもなる。
ずっと疑問に思っていたことが解消した。『八つ墓村』(野村芳太郎)で、渥美清が金田一耕助を演じているが、「寅さん」しか知らない目には違和感しかなかった。実は、渥美清がほかの路線の可能性を模索していたこと、それから松竹と角川書店との衝突により渥美金田一は一作のみに終わること、が明らかにされる。改めて想像してみると、渥美金田一も悪くはないのではないかと思える。
渥美清は、共演を重ね、「ごぜん様」こと笠智衆の人格を尊敬するようになっていたとのことだ。それから、三國連太郎は渥美清の弔辞で、次のように語っている。
「(略)いくら笑っておられても目だけは冷厳に一人一人を見つめておった。そのことが私のように気弱な精神の持ち主にとっては耐えられなくなりました。(中略)私の方で、実はあなたに見透かされないように逃げて歩いたというのが正直な告白だったんです。」
冷たい風の中で屹っと立っていそうな三國、一本筋の入った人格者・笠、そしておかしな男。役と商売と実生活はぜんぜん違うのだろうが、まるで違う世界に居そうなこの3人の姿を想像するだけで面白い。あらためて、三國の写真集『Cigar』(沢渡朔、パルコ)や笠智衆の写真集『おじいさん』(小沢忠恭、朝日新聞社)を出してきて眺めたりしている。とくに『Cigar』は、沢渡朔がPENTAX LXで「個人的に向き合って」撮った作品であり、三國の精神妖怪ぶりが表現されている。


