Sightsong

自縄自縛日記

クルドの歌手シヴァン・ペルウェル、ブリュッセル

2008-09-13 23:57:55 | 中東・アフリカ

土曜日はいつも週の疲れが出て、テレビを見たり、音楽を聴いたり、雑誌を読んだり、居眠りをしたりとグータラに過ごすことが多い(今週は、中国で移動ばかりしていたので特にクールダウンの必要がある)。今日は、久しぶりに、シヴァン・ペルウェル(Sivan Perwer)のCD『Min beriya te kiriye』(daqui、2003年)を聴いた。クルド人の歌手である。タイトルは、「I miss you」の意味で、虜囚の身にあってなお「あなた」を恋焦がれているということのようだ。

とにかく声の魅力があって、悩ましくこぶしを効かせている。クルド人としてトルコに生まれ、クルド人の抑圧された状況を唄っているため、トルコでもしばしば政治的とみなされ禁止されている。シリアやイランでは怪しいものとみなされている。そして、サダム・フセイン統治下のイラクにあっては、ペルウェルの音源を持っているだけで死罪に処せられた、とある。ペルウェルは1976年にトルコを離れ、欧州で活動している。

「Helebce」という唄では、1988年に化学爆弾の使用により5千人以上が亡くなったことを唄い、唄の前のことばの中には「ヒロシマ、ナガサキ」も引用される。

哀愁のあるメロディは、変わった音階にもよるようだ。ペルウェルが用いるオリエンタルコードは「maqams」と言って、D majorからはじまり、あがるときは、例えば 3/4 - 3/4 - 1 - 1 - 1/2 - 1 - 1 という並びとなる(他にもいろいろあるみたいだ)。つまり半音の半分の1/4音階を使っている。この場合、DとFとの間がドリアンスケールなら全音-半音となるのに対し、maqamsでは3/4 - 3/4と同間隔ということになる。

2004年の秋に仕事でブリュッセルを訪れていたとき、偶然同じ場所を旅していた私の楽器の師匠・松風さんに誘われて、シヴァン・ペルウェルのライヴを観に行った(それでこの歌手の存在を知った)。客席は前に1列パイプ椅子があるだけで、あとは立ったりしゃがんだりしていた。ペルウェルは、ヴァイオリン2本、膝の上に置く弦楽器、ダブルリードの木管楽器、大きな薄い太鼓を従えて朗々と唄った。PAを多用していたがすばらしかった。


シヴァン・ペルウェル(2004年) Leica M3、Summitar 50mmF2、スペリア1600


シヴァン・ペルウェル(2004年) Leica M3、Summitar 50mmF2、スペリア1600

その途中で、たぶんこのCDにも収録されている「Cane, Cane」(Darling, Darlingの意味)だったとおもうが、後ろで若者たちが楽しそうに踊り始めた。とおもうと、横に座っていたお婆さんが、あきらかにうずうずしはじめて、矢も盾もたまらない雰囲気で踊りの中に乱入していった。踊りというのが変わっていて、両手を下に下げたまま両横のひととつなぎ、つないだ手を上下に揺らしながら(ちょうど、ドリフのヒゲダンスの感じ)、前後に行き来していた。あれはクルド独特のものなのか何なのか、いまだにわからない。『バックドロップ・クルディスタン』という映画の予告編でそれらしきシーンが出たが(音楽はペルウェルを使っていた)、観逃してしまった。


踊るひとびと Leica M3、Summitar 50mmF2、スペリア1600

ところでブリュッセルには安いバーが沢山あって、数え切れないくらい種類が多いベルギービールも、バケツに入ったムール貝も、とても安く楽しむことができる。仕方ないとはおもうが、東京の高いベルギービールとは天と地ほどの差がある。「シメイ」などの修道会で作られてきたトラピストビール、「ベルビュー・クリーク」などの自然発酵のランビックなど非常に旨い。それだけでもブリュッセルを訪れる価値があるに違いない。もういちど訪れたいがなかなか機会がない。

ペルウェルと同じ時間に近くで演奏していたスティーヴ・コールマンは観逃したが、翌日、港町のアントワープまでセシル・テイラーを観に行った。


シメイとムール貝 Leica M3、Summitar 50mmF2、スペリア1600


バー Leica M3、Summitar 50mmF2、スペリア1600


マグリットの家 Leica M3、Summitar 50mmF2、シンビ200