茅場町のギャラリーマキにて、大津幸四郎『大野一雄 ひとりごとのように』(2005年)を観る。暗黒舞踏の異端者・大野一雄は、2010年に亡くなった。この映画は、2000年から車椅子での生活を余儀なくされた大野一雄の姿を、その翌年、捉えたものである。
私は一度だけ、1998年に世田谷パブリックシアターで公演された『天道地道』を観た。車椅子生活の前、もう90歳を超えていた。大野一雄の周りは明らかに異空間と化していた。予約するとき、大野一雄舞踏研究所に電話したところ、「はい大野です」という返事があった。それが本人だったのかどうか、いまだにわからない。その後、同年に再演された『わたしのお母さん』がNHKで放送された。録画したVHSを取っておけばよかった。
『大野一雄 ひとりごとのように』では、椅子から降りて床に這いつくばり踊る大野、息子に後ろから支えられながら踊る大野の姿をたっぷり観ることができた。幻惑するような右手の動きは、ユーモラスを超えて、観る者の眼を釘づけにする。2001年の『花』の公演では、花を草原に撒き、そして何ものかを空中から捉える姿が恐ろしいほど執拗に繰り返されていた。この割り切れない情念を、情動を、どう人に説明すればよいのか。
そして織部賞の授賞式では、大野一雄は多くの人に花束を貰い、感極まる表情を見せる。この顔も芸だ。つい私の両目から涙が溢れてしまった。上映後、会場からは拍手が起きた。