バンコクのDVDショップで見つけた映画、チャートリーチャルーム・ユコン『象つかい』(The Elephant Keeper)(1987年)を観る。それにしても、この映画監督のことまでまとめられているのだから、Wikipediaは凄い(>> リンク)。
英語字幕が入っているもののジャケットはすべてタイ語、アユタヤ時代の象を使った戦争ものでもあろうかと思った。実際には、タイの森林伐採問題を訴えた作品であり、タイだけにとどまらない現代性を持っている。
法律で禁じられていても違法伐採が横行するタイ。森林が少ないデルタ地帯であるバンコクを見ていたら実感できないが、かつては現在よりも森林に覆われており、水田も森林伐採後に広がった歴史があるという(ヴェトナムに追い上げられてはいるが、いまだタイは世界一のコメ輸出国)。ヘリで監視し取り締まりを行うレンジャーたちも無力感を覚えているばかりか、その中にも、伐採に加担する者がいる状況である。すぐにオカネが手に入る換金商品であるからだ。
借金をかたに伐採を手伝わされている象つかいの男は、「伐採なんて昔からやっていたことじゃないか」と呟く。しかし、機械の導入による伐採速度の増大こそがバランスを失わせているのだということが示される。映画の最後にメッセージがある。森林を人間だとして、片手が失われても治癒できるかもしれない、しかしどんどん傷ついていったならその人間はどうなるか、と。象のスピードはエコロジカルなのだ。
ドラマはちゃちでメッセージ性が強い。その意味で大した映画でもないが、スリランカのコロニアル社会を無邪気に描いた映画『巨象の道』(ウィリアム・ディターレ)などに比べれば、遥かにすぐれた象映画である。
ところで、象つかいが竹の口琴を使うシーンがあった。そうか、タイにも口琴があった。バンコクで見つけられるかな。