チコ・フリーマン久しぶりの新譜、『The Essence of Silence』(Celf Recordings、2010年)を聴く。フリッツ・パウアーのピアノトリオと組んだ2枚組である。自分の方にも以前のようなチコ熱がなくなってしまって、発売されてからしばらく経ってしまっての入手だ。
『Project Terra Nova』(1996年)、『Oh, By The Way...』(2001年)、『Out Of Many Comes The One』(2006年)と、最近の作品は多種多様な要素を取り入れようとした結果生煮え感が強いものだった。それに対し、この新作は、拍子抜けしてしまうようなストレート・アヘッドな4ビート・ジャズである。フリッツ・パウアーのピアノも上品な和音を聴かせて主張し、この枠をはみ出してしまうことはない。
どこを聴いても、チコのテナーサックス(と、ソプラノサックス)の音である。音色にも、コード進行の中で端正なフレーズをテクニカルに積み上げていくインプロヴィゼーションにも、待ってましたというような印象を持つ。
過去に吹き込んだ曲もいくつかある。「Dark Blue」は『Tales of Ellington』(1987年)で演奏している。「To Hear a Teardrop in the Rain」は『Focus』(1994年)ほか数枚で演奏している。ドン・プーレンに捧げた曲かと思い込んでいたが勘違いで、かつて殺された女友達に捧げた曲のようだ。新しい曲に対峙するような緊張感はなく、またバックのピアノもパウアーの上品な和音よりも『Focus』におけるジョージ・ケイブルスのシングルトーンのほうが好みではあるが、悪くない。「Angel Eyes」は名作『Spirit Sensitive』の続編『Still Sensitive』(1995年)での抑えめの演奏とは異なり、イントロでベースとドラムスとが作りだすビートに乗って展開している。それでも、やがてチコのサウンドに耳が奪われる。
チコは、もはや若いころのような野心と破綻がないために飽きられてしまった存在なのかもしれない。しかし、チコの唯一無二の個性を聴くことができるなら、それでいいのだ。
『Focus』(1994年)
『Still Sensitive』(1995年) チコにサインを貰った