ふと久しぶりに、元ちとせ『ハイヌミカゼ』(Epic、2002年)を取りだして聴いたところ、自分でも意外なほどに刺さってしまった。
実は、これをはじめて聴いたのは、大ヒットして何年か経ってからだった。「何年に一度の声」といったコピーを目にして、どうせ商売で煽っているだけだろうと決めてかかっていた。実際に、テレビで歌声を聴いて、何だか下手だなあと思っていた。
そんなことはなかった。
奄美のこぶしが過剰である。それまでの上手い歌とは違う。録音であれば、多少操作もしているだろう。しかし、これは本物だった。やがて聴き惚れて彼女の歌を集めはじめるのに、時間はかからなかった。
このCDは、何しろ良い曲が揃っている。ヒット曲「ワダツミの木」だけではない。山崎まさよしが作曲した「ひかる・かいがら」のしっとりした情感。切々とした気持を前に吐き出しまくる「初恋」。静かな抑制から哀しさに転じる「ハイヌミカゼ」。そして、ハシケンが作曲した「君ヲ想フ」では、まるで天に音で挑戦したかのような「Groovin' High」(ディジー・ガレスピー)よろしく、あり得ないようなメロディーに乗って、血管が切れそうな勢いで、想いを繰り返し天に叫び続ける。
ずっとファンではあるのだが、その後、声量が落ち、鼻から抜けるような発声に違和感を覚えるようになっていた。ところが、最近のライヴをテレビで観たところ、声がもとの力を取り戻しているように聞こえた。本人のブログを読むと、新たなレコーディングを行っているらしい。期待。
●参照
○元ちとせ『Orient』
○元ちとせ×あがた森魚
○『ウミガメが教えてくれること』
○元ちとせ『カッシーニ』
○元ちとせ『Music Lovers』
○元ちとせ『蛍星』
○『ミヨリの森』、絶滅危惧種、それから絶滅しない類の人間
○小田ひで次『ミヨリの森』3部作