Sightsong

自縄自縛日記

アラヴィンド・アディガ『グローバリズム出づる処の殺人者より』

2013-10-21 23:56:07 | 南アジア

アラヴィンド・アディガ『グローバリズム出づる処の殺人者より』(文藝春秋、原著2008年)を読む。

原題は『The White Tiger』(何というダサい邦題をつけたことか)。主にデリーバンガロールが舞台である。

ジャングルの中でひときわ珍しい動物は白い虎。主人公バルラムは、極貧の家に生まれたが、耳学問の意欲と野心だけはあった。彼らを見下す者から、バルラムは白い虎だと褒められる。そして、バルラムは、地主の家の運転手になり、やがて、主人の都合で大都会デリーで暮らすようになる。

教育の欠如とカースト社会の習慣により、バルラムは、生まれながら限られた領域から逃れ出ることができない。扉が開かれていても、そこは哀しい「籠の鶏」であり、それをくぐる智恵も意識も何もない。バルラムは、ついに主人を殺すことにより、扉の向こう側へと歩み出る。

ひとりひとりなど何でもなく圧殺してしまえる社会は、「閉塞感」と単純に片づけられないほどの巨大な敵である。活路を見出したところで、その巨大な敵の一部になるだけという恐ろしさ。単にインド社会の実状を描いた小説というだけではない。この物語は、がんじがらめの近代社会、日本社会も捉えている。

本作はブッカー賞を受賞しており、さすがの面白さと完成度。それでも、最新作『Last Man in Tower』の方が優れている。他の作品も含め、ぜひ邦訳してほしいところ。


オリッサ州の動物園にいた白い虎

●参照
アラヴィンド・アディガ『Last Man in Tower』
2010年10月、バンガロール
2010年10月、デリー
2010年9月、ムンバイ、デリー
PENTAX FA 50mm/f1.4でジャムシェドプール、デリー、バンコク


ペーター・ブロッツマンの映像『Concert for Fukushima / Wels 2011』

2013-10-21 08:11:36 | アヴァンギャルド・ジャズ

ペーター・ブロッツマンのシカゴ・テンテットによるライヴDVD『Concert for Fukushima Wels 2011』(Trost、2011年)を観る。タイトルの通り、東日本大震災のあと、オーストリアにおいて、チャリティー目的で開催されたコンサートである。

Peter Brötzmann (reeds)
Ken Vandermark (reeds)
Mats Gustafsson (sax)
Joe McPhee (tp)
Johannes Bauer (tb)
Jeb Bishop (tb)
Per-Åke Holmlander (tuba)
Fred Lonberg-Holm (cello, el-g)
Kent Kessler (b)
Paal Nilssen-Love (ds)
Michael Zerang (ds)
Guests:
近藤等則 (el-tp)
八木美知依 (17 & 21 string koto)
大友良英 (el-g)
坂田明 (reeds)

このきら星のごとく並ぶメンバーを見よ。ひとり、ふたり来日するだけでも駆け付けていくほどの、一騎当千の面々である。よほどの企画がなければ、日本でこのコンサートを開くのはまず難しいだろう。

演奏は、日本側のゲストをひとりずつ迎える形で行われている。つまり、4曲である。

近藤等則はエレクトリック・トランペットを吹く。かすれたような音色とエコー。ジョー・マクフィーのポケット・トランペットの鮮やかな音色と、明らかに対照的に響くのが面白い。ヨハネス・バウアーは、相変わらず、踊るようにトロンボーンを吹く。

八木美知依は大音響での集団即興に負けじと加わるというより、静かな中で、一音一音を大事にする箏の音色を響かせる時間を、存分に持たされる。轟音との対比がとても効果的で、また、フレッド・ロンバーグ・ホルムのチェロやエレキギターとのコラボレーションが、意外なほど美しい。

大友良英はエレキギターだけでの勝負。もはや、彼の音色を皆が固唾を呑んで見守る印象がある。

トリの坂田明は貫禄そのもの。唐突に鈴を鳴らし、物凄い勢いでアルトサックスを吹きはじめる。ペーター・ブロッツマンとのアルト・ブラザーズ対決には笑ってしまった。マッツ・グスタフソンも俺が俺がと主張する。

ただひたすらに愉快な105分。演奏者たちがお互いの演奏を観てにやりとする、エクスタシーの時空間でもある。

●参照 
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』
ペーター・ブロッツマン@新宿ピットイン(ニルセン・ラヴ、ロンバーグ・ホルム、八木美知依参加)
ペーター・ブロッツマン+佐藤允彦+森山威男『YATAGARASU』
ペーター・ブロッツマン
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(ブロッツマン参加)
セシル・テイラーのブラックセイントとソウルノートの5枚組ボックスセット(ブロッツマン参加)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(ブロッツマン、坂田明参加)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(ブロッツマン参加)
ジョー・マクフィー+ポール・ニルセン・ラヴ@稲毛Candy
ジョー・マクフィー『Sonic Elements』
『Tribute to Albert Ayler / Live at the Dynamo』
ウィリアム・パーカー+オルイェミ・トーマス+リサ・ソコロフ+ジョー・マクフィー+ジェフ・シュランガー『Spiritworld』
ジョー・マクフィーの映像『列車と河:音楽の旅』
ジョー・マクフィーとポール・ニルセン・ラヴとのデュオ、『明日が今日来た』
ザ・シング@稲毛Candy(マッツ・グスタフソン、ニルセン・ラヴ)
マッツ・グスタフソンのエリントン集
大友良英+尾関幹人+マッツ・グスタフソン 『ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置展 「with records」』
ポール・ニルセン・ラヴ+ケン・ヴァンダーマーク@新宿ピットイン(坂田明、八木美知依参加)
4 Corners『Alive in Lisbon』(ヴァンダーマーク、ニルセン・ラヴ参加)
スクール・デイズ『In Our Times』(ヴァンダーマーク、ニルセン・ラヴ参加)
浅川マキ『幻の男たち』 1984年の映像(近藤等則参加)
浅川マキ『ふと、或る夜、生き物みたいに歩いているので、演奏者たちのOKをもらった』(坂田明参加)
嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』(近藤等則参加)
坂田明『ひまわり』
大森一樹『風の歌を聴け』(坂田明出演)
ジャン・ユンカーマン『老人と海』(坂田明参加)
ジョン・ブッチャー+大友良英、2010年2月、マドリッド
井上剛『その街のこども 劇場版』(大友良英参加)
テレビドラマ版『その街のこども』(大友良英参加)
テレビ版『クライマーズ・ハイ』(大友良英+サインホ)
サインホ・ナムチラックの映像(大友良英参加)
『鬼太郎が見た玉砕』(大友良英参加)