Sightsong

自縄自縛日記

モスクワ・コンポーザーズ・オーケストラ feat. サインホ『Portrait of an Idealist』

2016-02-16 22:51:37 | アヴァンギャルド・ジャズ

サインホ・ナムチラックをフィーチャーしたモスクワ・コンポーザーズ・オーケストラ『Portrait of an Idealist』(Leo Records、2007年)を聴く。

Sainkho Namchylak (voice)
Vladimir Miller (p)
Vladimir Makarov (cello)
Aleks Kolkovsky (vln)
Vladimir Volkov (b)
Alexander Alexandrov (bassoon)
Yuri Parfyonov (tp)
Sergey Letov (sax, bcl, fl)
Vladimir Tarasov (ds)

これより後のサインホ・ナムチラック『TERRA』においてもはっきりとわかることだが、サインホのヴォイスには、一聴して耳を覆わないと危険だと思ってしまうような恐怖感はすでにない。円熟してエッジが丸くなり、随分と聴きやすい声になっている。

それは衰えたということではないのだろう。冷たい肌で突然触られるような感覚もある。語り部のような声が鼓膜をいつの間にかふるわせていることもある。ホーメイを唸りはじめ、背後でウラジーミル・タラソフのブラッシュワークが入ってくる見事な時間もある。そして最後の曲では、歯を剥き出した獣と化す。

この盤は、ソ連崩壊後の苦しい時期に、あくまでも理想主義者として、ロシアのジャズを鼓舞し続けた、ニコライ・ドミトリーエフに捧げられたものだという。歴史と文化と有象無象を取り込んでいった底知れぬ面白さのようなものは、やはりあって、演劇的であったり、祝祭的であったり、ロシアの民謡的であったり、ジャズ的でもあったりする。ウラジーミル・ミラーのピアノも、セルゲイ・レートフのサックスやバスクラも、そんな猥雑さの中で浮かび上がっては闇の中に姿を消していく。

●参照
サインホ・ナムチラック『TERRA』(2010年)
「KAIBUTSU LIVEs!」をエルマリート90mmで撮る(2)(2010年)(セルゲイ・レートフ)
サインホ・ナムチラックの映像(2008年)
現代ジャズ文化研究会 セルゲイ・レートフ(2008年)
ロシア・ジャズ再考―セルゲイ・クリョーヒン特集(2007年)
セルゲイ・クリョーヒンの映画『クリョーヒン』(2004年)(セルゲイ・レートフらも出演)
テレビドラマ版『クライマーズ・ハイ』(2003年)(大友良英+サインホ)


テリ・リン・キャリントン『The Mosaic Project: Love and Soul』

2016-02-16 07:22:33 | アヴァンギャルド・ジャズ

テリ・リン・キャリントン『The Mosaic Project: Love and Soul』(Concord Records、2015年)を聴く。

Terri Lyne Carrington (ds, etc.)
and Many femail musicians
vocalists: Natalie Cole, Chaka Khan, Oleta Adams, Jaguar Wright, Valerie Simpson, Nancy Wilson, Chante Moore, Lalah Hathaway, Paula Cole, Ledisi, Lizz Wright

女性ミュージシャンばかりを集めた豪華なセッション集。各曲でフィーチャーされるヴォーカリストたちは、数人を除き、ほとんどソウル/R&Bのフィールドの面々である。そちらはあまり知らないので、はじめて耳にする何人もの歌声。とても新鮮で面白い。

1曲目、ナタリー・コールの歌う「Come Sunday」におけるテリ・リンの疾走するドラムスにいきなりやられる。ナタリーはこの後ほどなくして亡くなったのだが、それを感じさせない深みのある声である。

獣性さえ感じさせるジャグアー・ライトの声。喉を絞り、揺れ動き、ぶち切れる。低音が伸びるレイラ・ハサウェイの声も魅力的(昨年末に来日したときに聴きに行きたかったのだが、クリスマスで恋人がどうのと宣伝されていて嫌になってしまった)。

ベースにおおっ誰だと思うとミシェル・ンデゲオチェロ(2曲に参加)、やはり彼女のアウラは特別。ティア・フラーのアルトサックスも気持ちよく浮かび上がってきている。

2014年に、NYのThe Stoneにおいて、テリ・リンが、ジェリ・アレン、イングリッド・ジェンセン、リンダ・オー、カーメン・ランディと行ったセッションを観た。この盤には、そのときの面々も参加している(カーメン以外)。ジェリ・アレンもテリ・リンも、女性ミュージシャンで結集することにあえてこだわっているようである。

●参照
ジェリ・アレン、テリ・リン・キャリントン、イングリッド・ジェンセン、カーメン・ランディ@The Stone(2014年)
デューク・エリントンとテリ・リン・キャリントンの『Money Jungle』(1962、2013年)