Sightsong

自縄自縛日記

寺井尚之『Yours truly,』

2018-11-23 09:44:36 | アヴァンギャルド・ジャズ

寺井尚之『Yours truly,』(Flanagania Records、2001年)を聴く。

Hisayuki Terai 寺井尚之 (p)
Masahiro Munetake 宗竹正浩 (b)
Tatsuto Kawahara 河原達人 (ds)

寺井氏はトミー・フラナガンを師と仰いできたピアニストだが、やはりこれを聴いても、異なる独特の個性が伝わってくる。

確かに俊敏なフレージングはある。しかしトミフラよりも、その場に居ることへの歓びが溢れているように聴こえる。「The Way You Look Tonight」、「I Only Have Eyes For You」、「Will You Still Be Mine?」など名曲が渋く嬉しい寺井色。

●寺井尚之
寺井尚之『Dalarna』
(1995年)


木村聡『消えた赤線放浪記』

2018-11-23 09:12:59 | もろもろ

木村聡『消えた赤線放浪記 その色町の跡は…』(ちくま文庫、2005年/2016年)を読む。

「赤線」は戦後まもなく誕生し、売春防止法の施行とともに、1958年には姿を消した。もちろんそれは形を変えた風俗となった。風営法の規制にも左右されてきた。姿を変えたのは欲と商売だけではない。街の形もそれによって変貌した。

著者は、北海道から鹿児島まで、赤線跡を探し当て、そこがどのような街と化しているか、また近くの風俗街はどのような様子なのかを見て歩いている。毎回体験してもいる。読みながら、なんだ「歩いた、ヤッた」だけじゃないかと思っていたのだが、最後まで付き合ってみると、人のはかなさや情が沁みてくるような。


吉見俊哉『トランプのアメリカに住む』

2018-11-23 08:42:06 | 北米

吉見俊哉『トランプのアメリカに住む』(岩波新書、2018年)を読む。

なぜトランプが大統領になりえたのかについては、金成隆一『ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』において説得力のある報告がなされている。すなわち、人びとの目に留まりやすい大都市の住民ではなく、「ラストベルト(錆びついた工業都市)」など、もはや興隆を誇ることのない産業によって引っ張られてきた地域の住民の動きがあった。中流から貧困層へと滑り落ちてしまうことへの抵抗だった。著者はこの金成氏にもインタビューしつつ、この現象を構造問題としてとらえながらも、複雑骨折の様子についても見出している。

それは「出口のない恐怖」であり、トランプが「彼らの喪失感や恥辱を『敵』への攻撃に転化させる」詐術に気付いてはいても気付かないふりをするという、大きな現象であった。「気付いてはいても気付かないふりをする」とは、日本の社会形成の方向に重なってきてちょっと恐ろしさを覚える。

塊としての動きに抗するものとして個人としての動きを対置するならば、本書で報告されている「#MeToo」や「#ChurchToo」、さらに「#BoycottNRA」、「#NeverAgain」に至るまでのSNSを通じたムーヴメントは、やはり希望にみえる。「性」、「暴力」、「オカネ」はきっと三大「見て見ぬふり」の対象であるから。

●参照
金成隆一『ルポ トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』(2017年)
渡辺将人『アメリカ政治の壁』(2016年)
佐藤学さん講演「米国政治の内側から考えるTPP・集団的自衛権―オバマ政権のアジア政策とジレンマ」(2014年)
室謙二『非アメリカを生きる』(2012年)
成澤宗男『オバマの危険 新政権の隠された本性』を読む(2009年)
尾崎哲夫『英単語500でわかる現代アメリカ』(2008年)
吉見俊哉『親米と反米』(2007年)


ドン・プーレン『Milano Strut』

2018-11-23 01:58:58 | アヴァンギャルド・ジャズ

ドン・プーレン『Milano Strut』(Black Saint、1978年)を聴く。

Don Pullen (p, org)
Famoudou Don Moye (ds, perc, congas, bells)

ファマドゥ・ドン・モイエとのデュオである。

プーレンにとってもモイエにとっても、おそらく、特別にすぐれたプレイではない。だが、プーレンは鍵盤をかきみだすし(オルガンでもそうなのだ)、モイエの音はひとつひとつのパルスが持つプロファイルが綺麗で、それが流れるように連なってゆく。かれららしいから良い。

●ドン・プーレン
サム・リヴァースをしのんで ルーツ『Salute to the Saxophone』、『Portrait』(1992年、1995年)
ドン・プーレンのピアノトリオとシンディ・ブラックマン(1988-92年)
ジョージ・アダムスの甘甘作品(1979-84年、1988年)
ドン・プーレン『Plays Monk』(1984年)
ドン・プーレン+ジョセフ・ジャーマン+ドン・モイエ『The Magic Triangle』(1979年)

●ファマドゥ・ドン・モイエ
生活向上委員会2016+ドン・モイエ@座・高円寺2(2016年)
ババ・シソコ『Jazz (R)Evolution』(2014年)
ワダダ・レオ・スミス『Spiritual Dimensions』(2009年)
ライトシー+モイエ+エレケス『Estate』(2000年)
アーサー・ブライス『Hipmotism』(1991年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴの映像『Null Sonne No Point』(1997年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴ『カミング・ホーム・ジャマイカ』(1995-96年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴの映像『LUGANO 1993』(1993年)
ドン・モイエ+アリ・ブラウン『live at the progressive arts center』、レスター・ボウイ・ブラス・ファンタジー『Serious Fan』(1981、89年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴの映像『Live at the Jazz Showcase』(1981年)
ドン・プーレン+ジョセフ・ジャーマン+ドン・モイエ『The Magic Triangle』(1979年)
ジュリアス・ヘンフィルのBlack Saintのボックスセット(1977-93年)
チコ・フリーマン『Kings of Mali』(1977年)
ファマドゥ・ドン・モイエ『Sun Percussion』(1975年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴ『苦悩の人々』(1969年)


Poem of a Cell Sound / Film Installation & Concert in Tokyo@ドイツ文化センター

2018-11-23 00:51:36 | アヴァンギャルド・ジャズ

ドイツ文化センターにて、「Poem of a Cell Sound / Film Installation & Concert in Tokyo」(2018/11/21)。

Fumio Yasuda 安田芙充央 (p, melodica)
Nobuyoshi Ino 井野信義 (b)
Joachim Badenhorst (cl, bcl, ts)
Akimuse (vo) 
Fanny Mulay Winter (vo)

「Winter & Winter」レーベルを立ち上げたステファン・ウィンターによる映像『Poem of a Cell』を上映しながら、演奏を行うという趣向。

映像は3面の連なる画面によって構成されている。詩的で幻想的なものも徹底すれば魅入られるものになる。そこには血が流れ腐敗もする有機体としての生命が登場し、彩度の高い色の数々がぶちまけられる。メッカのカーバ神殿や、パレスティナあたりだろうか、金色のモスクも登場する。自然と一体化し自然に還っていく女性。

映像作品のサウンドがあり、それとは体感的な距離が異なるように演奏が行われる。井野信義のはじく弦の音で、映像の彼岸から此岸に引き戻される。安田芙充央のピアノもメロディカもその往還を行い、見事だ。そして世界に溶け込むようなヨアヒム・バーデンホルストのクラとバスクラとテナー。これが聴きたかった。

演奏後にヨアヒムと話した。近いうちに出る新譜が2枚、今回の滞在期間での録音、それから、2019年4月の上旬には、「Equilibrium」で来日する予定があるという(スカンジナビアのヴォーカル、ギターとのトリオ)。これまでリリースされた3枚のうち、新しい1枚を注文した。楽しみだ。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●ヨアヒム・バーデンホルスト
Spontaneous Ensemble vol.7@東北沢OTOOTO(2017年)
LAMA+ヨアヒム・バーデンホルスト『Metamorphosis』(2016年)
ハン・ベニンク『Adelante』(2016年)
安田芙充央『Erik Satie / Musique D'Entracte』(2016年)
ダン・ペック+ヨアヒム・バーデンホルスト『The Salt of Deformation』(-2016年)
ヨアヒム・バーデンホルスト『Kitakata』(2015年)
カラテ・ウリオ・オーケストラ『Garlic & Jazz』(JazzTokyo)(2015年)
カラテ・ウリオ・オーケストラ『Ljubljana』(2015年)
パスカル・ニゲンケンペル『Talking Trash』(2014年)
ヨアヒム・バーデンホルスト+ジョン・ブッチャー+ポール・リットン『Nachitigall』(2013年)
ハン・ベニンク『Parken』(2009年)