はらだたけひで『放浪の聖画家 ピロスマニ』(集英社新書、2014年)を読む。
ニコ・ピロスマニ。19世紀後半から20世紀初頭までを生きたグルジアの画家である。
その素朴かつ透徹した画風は、一度観ると魅せられ忘れられない。わたしももちろん以前から知っていたものの、なかなか実物に接する機会がなかった。そんなわけで、2008年に渋谷Bunkamuraで開かれた『青春のロシア・アヴァンギャルド』展において何点も目の当たりにできたことは嬉しかった。
本書の著者は、まさにピロスマニの絵に魅了され、グルジアにも足を運び、研究し続けてきた人である。美術の専門家ではなく、愛情を向けてきた人なのだ。それゆえに、作品のひとつひとつに入り込み、それらが描かれた背景やピロスマニの心情に思いを馳せることができるのだろう。これが滅法面白く、また興味深い。
絵だけに執着したピロスマニは、プライドが非常に高く、決して周囲とうまくやっていたわけではなかった。そのため、終生不遇であった。その一方で、生活圏内のひとびとに愛された存在でもあったようだ。そして、自民族の生活文化や歴史や宗教をとても重んじた(というより、それがかれの世界であったというべきか)。
中世グルジアの詩人ショタ・ルスタヴェリも敬愛の対象であったというのだが、ここで思い出すのは、ニキータ・ミハルコフ版『12人の怒れる男』だ。オリジナルのアメリカ映画とは異なり、映画で冤罪を着せられるのはチェチェンの少年。陪審員のひとりは、少年の属性(チェチェン、貧困)に起因する偏見から自由になれない他の陪審員の発言に対し、「それではカフカス出身だからといって、ショタ・ルスタヴェリも、セルゲイ・パラジャーノフも、ニコ・ピロスマニも、能無しだったというのか!」と怒ってみせる台詞がある。ピロスマニ、ルスタヴェリ、パラジャーノフといった名前は、どのくらい民衆のものなのだろうか、知りたいところだ。
●参照
ニキータ・ミハルコフ版『12人の怒れる男』
フィローノフ、マレーヴィチ、ピロスマニ 『青春のロシア・アヴァンギャルド』
来月の帰国時に買ってみよう。
その上映に合わせて帰国しょう。
情報ありがとうございます。
http://www.iwanami-hall.com/contents/lineup.html