原題:『Cerrar los ojos』
監督:ビクトル・エリセ
脚本:ビクトル・エリセ/ミシェル・ガスタンビデ
撮影:バレンティン・アルバレス
出演:マノロ・ソロ/ホセ・コロナド/アナ・トレント/ペトラ・マルティネス/マリア・レオン/マリオ・パルド/ファン・マルガージョ
2023年/スペイン
ビクトル・エリセの決着のつけ方について
本作の冒頭は1947年のパリ郊外を舞台にした『別れのまなざし』という映画の冒頭なのだが、1990年に撮影が始まったその映画は主演を演じたフリオ・アレナスの失踪により制作が頓挫してしまう。それから22年が経った2012年になって『未解決事件』というテレビ番組のディレクターからの要請でフリオの行方を追うために『別れのまなざし』を撮った映画監督のミゲル・ガライが出演することになり、ようやくメインストーリーが動き出す。フリオにはアナという娘がいるのだが、それはかつてビクトル・エリセが撮った『ミツバチのささやき』に出演していたアナ・トレントである。ミゲルは修道院が運営する高齢者施設でフリオを見つけることができたのだが、フリオは記憶を失っていた。
クライマックスはフリオの記憶がよみがえるかもしれないという期待を持って、フィルムを保管していたマックスに頼んで既に撮影済みだった『別れのまなざし』のラストシーンを廃業したばかりの村の映画館を借りて関係者で観ることになる場面である。既に本作の観客は冒頭で『別れのまなざし』の粗筋を知っている。主人公の「悲しみの王」がフリオが演じていた「ある男」に頼んで、中国人の女性との間に生まれた娘を探して欲しいと依頼し、ラストシーンは男が娘を連れて悲しみの王に面会するシーンから始まる。王は病臥しているのだが、娘は扇子を使って母親から学んだ中国式の所作を披露し、王は娘に抱かれながら亡くなるのである。
アナ・アレナスは『別れのまなざし』を、まるで映画『フランケンシュタイン』を観るアナのように観ている。そして『ミツバチのささやき』においてフランケンシュタインの下で気を失う(=瞳を閉じる)アナとは対照的に、フランケンシュタインのような悲しみの王は娘の下で亡くなる(=瞳を閉じる)のであるが、そうなると悲しみの王は『ミツバチのささやき』における脱走兵であり、娘を連れてきた男は長い間行方をくらましていたビクトル・エリセ自身ではないのか? エリセはフランシスコ・フランコの独裁政権におけるスペイン内戦に対する「弔い」を50年かけてようやく果たしたのである。現実とフィクションの織りなし方が秀逸としか言いようがない。
ディーン・マーティンの「ライフルと愛馬」を和訳しておきたい。
「My Rifle, My Pony And Me」 Dean Martin 日本語訳
太陽が西に沈んで行く
牛が群れと共に行く
ワキアカツグミが巣で休む
カウボーイが夢を見る時間になる
渓谷の紫の光
そこは俺が三つの「連れ」と共にいたい場所
俺のライフルと俺の子馬と俺自身
俺は俺の麦わら帽子(ソンブレロ)を木の枝に掛ける
恋人よ、家に来いよ
俺のライフルと俺の子馬と俺自身
俺のライフルと俺の子馬と俺自身
柳の中のホイップアーウィルヨタカが
甘いメロディーを奏でる
アマリロまで馬で行こう
俺のライフルと俺の子馬と俺自身
縄で縛る乳牛はもういない
もう浮浪者も目にすることはない
あの曲がり角で彼女は待っているだろう
俺のライフルと俺の子馬と俺自身を
俺のライフルと俺の子馬と俺自身を
Don Williams - My Rifle, My Pony And Me (Official Audio)
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