原題:『黒薔薇の館』
監督:深作欣二
脚本:深作欣二/松田寛夫
撮影:川又昴
出演:丸山明宏(美輪明宏)/小沢栄太郎/田村正和/内田良平/城アキラ(ジョー山中)/松岡きっこ/川津祐介/西村晃
1969年/日本
「本物」の可能性について
前作『黒蜥蜴』を踏まえた上で論じてみたい。『黒蜥蜴』において「偽物」にこそ可能性があるというヴァルター・ベンヤミンばりのテーマが展開されたと思うが、『黒薔薇の館』において試されているものは再び「本物」の可能性なのではないだろうか。
主人公の藤尾竜子は佐光喬平が経営する「黒薔薇の館」で専属歌手という立場で毎晩歌を披露しているのだが、彼女のプライベートは付き人のジョージ以外は謎のままだった。佐光には妻がいるのだが、彼女は十年前に駆け落ちしたものの事故に遭遇し、相手は死んでしまい妻は生き残っているが半身不随になってしまっている。
竜子がいるということで「黒薔薇の館」に次々と関係者が訪れる。横浜のキャバレー「ナポレオン」で歌っていた竜子を見た津川は竜子と交際していたということで彼女に会いに来たのだが、竜子は憶えていないと素っ気ない態度を取られて帰宅途中にあった墓場のそばで自殺してしまう。ついに竜子の夫で考古学者である大友がやってくる。大友は「黒薔薇の館」へ通い続けるのだが、竜子は冷たい態度を取り続ける。やがて別の男が現れ竜子を守ろうとするジョージと共に討ち死にしてしまう。竜子は自分が持つ黒薔薇が赤くなった時にその愛が本物であると信じているのである。
そこへ現れたのが佐光の次男の亘である。亘はある組織から脱走しヤクザと警察の両方から追われる身となっている。亘は竜子を連れて船で国外に脱出しようと試みボートで外国船まで行くのだが、ボートが転覆してラストは二人の亡骸が海岸にたどり着くのである。
しかし竜子が亘との愛が「本物」であると思ったかどうかは微妙で、確かに黒薔薇は赤く染まるのだが、それはあくまでも血によって染まっているだけで、竜子は「偽物」と分かった上で命を賭して亘についていったのであるならば、要するに本作は失敗作というよりも、そもそも難儀な問題を扱っていると捉えるべきであろう。実際に佐光の妻は「本物」の愛を追った果てに失敗し、今は佐光との「偽りに愛」で生きているはずなのである。
しかしそうなると問題なのは「本物」か「偽物」かということではなく、「本気」かどうかの問題になってくるのだが、それは「中身」がないことが美しいとされた『黒蜥蜴』の話に戻ってしまうことになる。このような無限ループに耐えられず三島由紀夫を自死したのだろうか。
因みに本作の撮影は『青春残酷物語』(大島渚監督 1960年)と同じ川又昴である。
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