私達は山を下りて、「絵かきのまち」大王崎に向かった。てっちゃんが波切漁港の駐車場に車を停めている間に、私は港の方にテクテク歩いてゆき、干物を物色していた。
ところが、友人がなかなかやって来ないので、これはおかしい、と思い引き返した。案の定、灯台は全く逆方向だった。

小振りの大王崎灯台に登り、太平洋の海原を見渡した。時より強い風が吹きつけるので顔が強張る。大きなゴツゴツした岩に波が当たり、白い飛沫を上げる。瀬戸内海とは様子が全然違う。
「流石太平洋だ。波が荒い」
「今日は波が穏やかな方だよ。海が荒れると真っ白くなるから」
「ほ~ぅ。そうなんだ。北の海みたいな感じになるんだろうかね。ちょっと想像できんが」
「どうだ。絵になる風景だろう」
「あぁ。大空を悠々とトンビが飛んでる。気持ちよさそうに」

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港の前で干物を売っている婆さんに私は単刀直入に聞いてみた。
「ウツボの干物は美味しいんですか?」
「‥‥‥。(しばし無言)私はあんまり‥‥。小さいウツボを開いてよく干してから、油でカリカリに揚げる。それを細かくして田作りの要領で甘辛いタレを絡めるとご飯のおかずになる。これは好きよ」
「頭の薄くなったおっさんの精力剤のようなもんですな」
「ムフッ。まあそうね」
「どうもありがとう。勉強になりましたわ」
考えた末、スルメの束は止めてウルメを土産に買い求め、漁港を後にした。

