若い頃の関東での暮らしは不満を言い出すときりがなかった。初めのうちは愚痴をこぼしてばかりだったが、やがて口にするだけ無駄だと思うようになった。
私は気分転換をはかるために旅に出ることを覚えた。頻繁に遊びに行ったのは当然東京である。「金さえあればこれほど楽しい街はない」と評した同級生がいたが、私は「あまり金を使わなくても面白い所だ」と感じた。
新宿、渋谷、神田神保町はとりわけ刺激的で知的好奇心を大いに満たしてくれた。食事は築地でとることが多かった。そこで人肌の酢飯と本マグロの美味しさを初めて知ったのである。この体験が食文化の違いを研究するきっかけとなった。
旅の範囲は首都圏から東北、北陸、信州、東海へと広がっていった。私があらゆる面で高い点数をつけたのが石川県、次点は鯉・そば・馬肉・ネマガリダケといった食材のすばらしさを教えてくれた長野県になる。
淡水魚料理で卓越した技を見せる島根県(松江市)や滋賀県はもっと評価されるべきだと思う。両県から私は以下のことを学び取った。
一見地味だが、自己主張し過ぎることのない街は眼力あるリピーターをつかむ。資金力だけに頼ったワンパターンな戦略がもろに裏目に出た広島県西部の都市とは対照的である。やはりポイントで球に緩急をつける勘こそが最も重要なのだ(笑)
