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児童数が6割増!今井町町並み保存会の44年/奈良新聞「明風清音」第78回

2022年08月27日 | 明風清音(奈良新聞)
毎月1~2回、奈良新聞「明風清音」欄に寄稿している。今月(2022.8.18)寄稿したのは「今井町のまちづくり」、橿原市今井町の町並み保存会などの約半世紀にわたる活動を『交流まちづくり』(学芸出版社刊)から抜粋する形で紹介した。

本書で今井町を紹介(第3章第4節)されたのは、建設技術研究所に勤務する今泉ひかりさんだ。今泉さんは千葉大学の学生・院生時代から、当時、保存会会長だった若林稔さん(現相談役)宅に滞在し、今井町を学んで来られた。まずは記事全文を紹介する。

今井町のまちづくり
国土総合研究機構観光まちづくり研究会編『交流まちづくり』学芸出版社刊(税別2500円)という本が出たと聞いて、早速買い求めた。17人が共同執筆している。

版元の紹介文には〈いま従来の観光地とは異なる地域が実践する、関係人口・交流人口を増やすコミュニティツーリズムが注目されている。スポーツ/空き家/インフラ/環境再生/農業/美しい村等のコンテンツ開発を通してサステイナブルな地域をデザインする国内外の実践を紹介〉とある。

奈良県からは唯一、橿原市今井町の事例が〈3章 空き家活用から交流を生む〉で〈歴史的町並みを活かした、まちを学ぶ交流〉と紹介された。執筆者は建設技術研究所に勤務する今泉ひかりさんだ。千葉大学工学部の学生だった頃、当時今井町町並み保存会会長だった若林稔さん(現相談役)宅に滞在し今井町を学んだ、いわゆる「今井の子」である。以下、本書の要点を抜粋して紹介する。

▼住宅調査から町並み保存
〈町内にある約750軒の建物のうち約500軒が伝統的な建造物であり、その数は全国で最も多い〉。同町の町並み保存の取り組みは、東京大学の伊藤鄭爾(ていじ)氏らによる住宅調査(1956~57年)が契機になった。

〈この調査により、今井町では室町後期からの町割りと江戸時代初期近世の民家が密集して建設されてきたことが確認された。また、当時、民家研究の課題とされていた「編年法」の確立につながる成果を上げ〉た。

▼重伝建、街なみ整備事業
1993年には「重要伝統的建造物群保存地区」の選定を受け、94年からは国の「街なみ環境整備事業」が開始。〈「今井町の骨格である旧環濠内の道路は原則として拡幅しないこと。歴史的な街区、敷地割はできるだけ保存する」ことと、「防災上必要と考えられる公園や生活広場を区域内に整備する」という二つの大きな目標が立てられた〉。

▼町並み保存運動の半世紀
これに先立ち今井町では、住民による町並み保存運動が展開された。1971年、稱念寺住職だった今井博道氏らが「今井町を守る会」を結成、74年には妻籠、有松と連携して「町並み保存連盟」が結成された。のち「今井町町並み保存会」が発足。同会会長を務めた若林さんは〈住民の意識高揚と、単なる保存からの脱皮を試み始めたもう一面でのパイオニアであろう〉。

若林さんは「今井町並み散歩」「今井灯火会」の開催、「町家の芸術祭はならぁと」への参加など歴史的町並みを活用したイベントを数多く構築し来訪者、特に学生や子どもたちに学びの場を提供してきた。さらに2020年には自費で「阿伽陀屋(あかだや)若林亭」という交流施設を整備された。

▼量を追わず質の高い観光
粘り強い活動が実り、町内の空き家の数が減った。また今井小学校も、2013年には全校生徒が211人に減少していたが、以降は徐々に増え始め、22年には338人!9年間で127人、6割も増えたというから、すごい。

若林さんは〈人数に頼る観光から、少数の観光であっても来てくれてありがとう、来てよかったと言える質を重視した観光へシフトすることを考えて、「観光・視察・教育で来町→リピーターになる→住人・商いにつながる」という長いスパンのまちづくりを画策〉して来られた。

この「今井モデル」が、少子化・高齢化に悩む各地のお手本になることを願ってやまない。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


最近、マスコミなどでの今井町の紹介のされ方を見ていて、少し違和感を覚えることがある。以前ほど「報道の事前チェック」が十分に行われていないようなのだ。若林稔さんは近畿日本鉄道で広報を担当されていた経験があるので、このあたりの目配りは徹底していた。

例えば「江戸時代の町並み」という言葉などは、決して使わせなかった。正確には「中世末期に寺内町として成立」であり、文化庁のHP(執筆=橿原市)にもそのように出ている。若林さんが会長職を退かれたのは今年の6月、まだ2ヵ月しか経っていないのに…。

余計なことを書いたが、今後、軌道修正され、素晴らしい町並みが全国・全世界に発信されることを期待している。

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