澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

広島市立大学・浅井基文氏の驚くべき主張~「朝鮮の人工衛星打ち上げ計画、日本の異常な反応をどう見るか」

2009年03月20日 18時36分22秒 | 社会

「朝鮮新報」(3月19日)に掲載された浅井基文氏の「朝鮮の人工衛星打ち上げ計画、日本の異常な反応をどう見るか」という一文には驚かされた。
浅井氏といえば、外務省のキャリア官僚を経て、東京大学教授、日本大学、明治学院大の教授を歴任し、現在は広島市立大学広島平和研究所長という役職にある。
輝かしいキャリアなのだが、東京大学教授を短期間で辞職するなど、何か事情があったのではないかと思わせる節も感じられる。一時期、岩波書店、朝日新聞系列のマスメディアで「護憲派」的な「平和論」を主張し、一般にもよく名前を知られている。

だが、この一文を読むと、北朝鮮の主張をほぼそのまま受け入れているのがわかる。
日本国内に、政府の異常な行動を批判する健全な世論が存在していないことも問題を増幅している。むしろ伝統的なアジア蔑視、なかんずく朝鮮蔑視の感情が根強い。そして、自らの歴史(負の遺産)をふり返ろうとしない国民感情も存在する。」と記しているが、こんな粗雑な論理は、果たしてまともな国際政治学者が書くことだろうか、と思った。

広島市立大学で浅井氏は、こういう持論を展開しているのだろうが、教わる学生達も可哀想だと思わざるを得ない。
同じ分野の学者である武者小路公秀氏(大阪経済法科大学教授)も、晩年、北朝鮮擁護に転向し、反米的な主張をしていると聞く。その根拠は、浅井氏と同じように民族的、人種的感情に根ざしている。そうした感情を露わにさせることなく、冷静な分析を行うのが政治学者の役目ではなかったか。
確かに「市民」の目線から国際政治を語れば、彼らのような見方も成り立つのだろうが、浅井氏は素人ではないのだ。自らの発言が誰を利するのか、誰に損害を与えるのか気づかないはずはない。いまどき、こんなふうに北朝鮮を支援する人がいたとは、驚きだ。

 

朝鮮の人工衛星打ち上げ計画、日本の異常な反応をどう見るか


 朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の朝鮮中央通信は3月12日に、朝鮮が最近いわゆる宇宙条約に加盟したことを報道した。これは、朝鮮が計画している人工衛星の打ち上げに対して、日本、韓国、米国が軍事目的の弾道ミサイルの打ち上げとして過剰反応し、日本政府にいたっては、朝鮮がロケットを発射する場合には迎撃して打ち落とすとまで言いだしていることに対抗する行動であることは明らかである。

 宇宙条約第1条は、宇宙の平和利用は「全ての国がいかなる種類の差別もなく…自由に探査し及び利用することができる」権利であることを認めており、宇宙の平和利用の権利はこの条約に加盟するか否かに関わらず、全ての国に認められる。しかし、この条約に加盟すれば、朝鮮の予定している人工衛星打ち上げが条約上も反論しようのない平和目的のものであることを明らかにすることができる点で、賢明な行動と言えるだろう。

無理がある「安保理決議違反」

 これまで日米韓は、国連安保理決議1718が朝鮮に対して「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」を停止することを求めていることを根拠に、人工衛星打ち上げもミサイル計画に関連があり、この決議に違反すると主張して、朝鮮の計画に反対してきた。

 しかし、「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」という文言が宇宙の平和利用の条約上の権利をも奪いあげる、と読むことにはどう見ても無理がある。そもそも安保理に、すべての国家に普遍的に認められる権利の行使まで禁じる権限があるとは思えない。

 すでに米国のブレア国家情報長官は、10日の上院軍事委員会の公聴会で、「北朝鮮が発射しようとしているのは宇宙発射体(space-launchvehicle)」「北朝鮮が宇宙発射を行うと発表したことを私は信じようと思う」と述べた、と韓国の聯合ニュースは伝えている。

 日韓の強硬姿勢に歩調を合わせてきた米国だが、そろそろ軌道修正を図ろうとしている可能性を窺わせる。中国、ロシアが共同歩調を取る可能性も極めて低いので、米国としても落としどころを考える必要に迫られているはずだ。

国内事情から「悪者論」振り回す日本

 そもそも、日韓がこのように強硬な対応に固執するのには国内事情がある。

 日本について言えば、「北朝鮮脅威」論を言いつのらないと、1990年代から推進してきた日米軍事同盟の変質強化を正当化する口実を失いかねない(日米同盟の真の狙いは台湾問題がある中国なのだが、日米とも「中国が脅威だ」とはおおっぴらに言えない事情があり、朝鮮は身代わりにされてきたのだ)。だから、朝鮮の人工衛星打ち上げを何としてでも弾道ミサイルと言い張りたいわけだ。

 また、朝鮮半島の非核化の問題を扱う6者協議においては、「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化はなし」という議論にしがみつく日本が、朝鮮に対する20万トンの重油提供の約束をまったく履行していないために事態は膠着状態に陥っている。

 このままでは、日本は「拉致問題」に固執することについて、国際的批判にさらされかねない。その批判をかわすためには、「北朝鮮=悪者」論を振り回す必要に迫られている。そのためにも、人工衛星打ち上げをそのまま認めるわけにはいかないのだ。

 「拉致問題」について一言すれば、2002年の平壌宣言で約束されたことは、朝鮮が二度と拉致をしないということだ。朝鮮はその約束を守っている。日本政府の言う「拉致問題」とは被拉致者の返還だが、それは平壌宣言からは出てこない。もちろん生存者がいて、帰国したいものについては、朝鮮は応じるべきだ。

 しかし、日朝国交正常化はあくまでも平壌宣言に基づいて行われるものだから、被拉致者の返還は切り離して扱うべきだ。ましてや、朝鮮半島の非核化を妨げるための口実にしてはならない。

健全な世論の不在、煽るマスコミ

 日本国内に、政府の異常な行動を批判する健全な世論が存在していないことも問題を増幅している。むしろ伝統的なアジア蔑視、なかんずく朝鮮蔑視の感情が根強い。そして、自らの歴史(負の遺産)をふり返ろうとしない国民感情も存在する。しかも、マスメディアが日本政府の言い分を丸呑みし、朝鮮バッシングをあおり立てる役割しか果たしていない。

 しかし、宇宙条約に加盟した朝鮮が国際ルールに従って人工衛星を打ち上げることになれば、日本がいつまでも悪あがきを続けることは無理になるだろう。国際的に日本の異常さが際だつことになりかねない。

 もっとも突き放してみれば、その方が客観的にはいいのかもしれない。国を挙げて「北朝鮮バッシング」にふけっていることの異常性を否応なしに気付かされたときにはじめて、国民的な反省が起こるかもしれない。とにかく「外圧」には弱い国民性だから。(中見出しは編集部)

(浅井基文、広島市立大学広島平和研究所所長)

 プロフィール 1941年愛知県生まれ。東大中退後、外務省条約局国際協定課長、アジア局中国課長、駐英公使などを歴任。東京大学、日本大学、明治学院大学の各教授を経て現職。

[朝鮮新報 2009.3.19]