シギスヴァルト・クイケンとラ・プティット・バンドによる新録の「ブランデンブルク協奏曲」、これからきのはホルン(コルノ)が活躍する第1番です。記事「ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048 [8]」でもふれましたが、この2009年録音の「ブランデンブルク」の新機軸のひとつは、指孔なしのホルン(奏者はジャン・フランソワ・マデゥフとピエール・イヴ・マデゥフ)。
金管を巻いただけのホルン(ナチュラル・ホルン)をふつうに吹くと、自然音列以外の音はでず、自然音列のなかでもいくつかの音は音程がずれてしまいます。昨日きいた「ジャン・クロード・マルゴワールたちの『水上の音楽』」では、音程はずれたままで補正されていませんでした。しかし、現代人の耳にはなじまないようで、やはり、音程を補正して吹くのが一般的です。
音程を補正したり、自然音列以外の音をだすためには、スライト管にする、手をベルに入れて補正するなど、いろいろ考えられるわけですが、バッハをピリオド楽器のホルンで演奏するさいは、ふつう指孔で解決しています(ただし指孔がふえるほど音色が犠牲に)。しかし、マデゥフたちは、唇によって自然音列以外の音をつくるベンディングという技術を使っています。
ピリオド楽器も吹くホルン奏者ティモシー・ブラウンが、1991年来日時のインタビューで、バッハの時代に指孔を開けた楽器がのこされていないにしろ、音色面で「今のところ指穴を使うのが最善だと思います」(「古楽情報誌 アントレ」1991年12月号)と語っていたように、これまで(そしていまでも)指孔による補正が、ピリオド楽器奏者にとって一般的でした。
期待をもたせてくれたのは、同じインタビューで、バッハ当時の「ホルン奏者たちは唇だけで音を補正できたということは考えられませんか」という石川陽一の問いに、ブラウンが「できたかもしれません」と答えたこと。それを実現したのがマデゥフたちで、このBWV1046第4楽章におけるホルン2本(とオーボエのユニゾン)のトリオでも、野趣にとんだ勇壮な響きをきかせてくれます。
なお、ラ・プティット・バンドの編成は、第1ホルン(ジャン・フランソワ・マデゥフ)、第2ホルン(ピエール・イヴ・マデゥフ)、第1オーボエ、第2オーボエ、第3オーボエ、ファゴット、ヴィオリーノ・ピッコロ、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、スパッラ、バス・ヴァイオリン、チェンバロで、すべて1名というもの。クイケンはこの第1番でも、やはりスパッラをひいています。
CD : ACC 24224(ACCENT)