(パキスタンでも活躍している米軍の無人飛行機プレデター こうしたハイテク兵器によって自国兵士の白兵戦による肉体的・精神的脅威が軽減されますが、民間人誤爆などの増加は戦闘行為の正当性を揺るがすことにもなりかねません。
“flickr”より By bryce_edwards
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【米国との安易な妥協は両刃の剣】
9月20日、パキスタン・イスラマバードの米国系高級ホテル「マリオットホテル」での爆弾テロ事件は、チェコの駐パキスタン大使や米国大使館の男性職員ら外国人7人を含む約60人が死亡、約200人が負傷する大惨事となりましたが、おりしも米国がパキスタン領内に地上部隊を越境させる新方針を打ち出し、パキスタン政府がこれに反発する中で発生しました。
このホテルでは、当日に国会議長の主催で、ザルダリ大統領やギラニ首相、更にキアニ陸軍参謀長ら軍幹部らを招いた夕食会が予定されていましたが、直前になって会場が首相公邸に変更されたとのことのことで、政府・国軍の最高首脳がそろってテロに巻き込まれる事態が、間一髪で回避された・・・ということのようです。
(回避は偶然でしょうか?)
“テロ地獄”とも言われるパキスタンにあっても、さすがに首都中枢部で起きたこの事件の衝撃は大きく、パキスタン側にはイスラム武装勢力掃討強化の立場から、米国との協調を探る動きが出る可能性もありますが、ザルダリ大統領にとって米国との安易な妥協は、混乱を加速させかねない両刃の剣となるとも指摘されています。
ザルダリ大統領は21日、国営テレビで「国全体がテロと戦うことになる」と演説。
全国民と全政治勢力に、一致して政府の対テロ策に協力するよう求めました。
しかし、パキスタン政府がテロとの戦いを進める米国に妥協的な姿勢を示せば、アフガニスタンとの国境沿いを拠点とするイスラム武装勢力は一層反発を強め、今回同様のテロ事件がさらに頻発しかねません。
“国民の多くはテロを認めないが、「武装勢力の破壊活動は米国の対テロ戦争に根源がある」との思いも根強い。ザルダリ氏が今回の事件を機に米側と安易な妥協をすれば、逆に反政府機運が高まる危険性もある。”【9月22日 毎日】とも指摘されています。
今回のテロは、「就任から日が浅いザルダリ大統領率いるパキスタン新政権に対し、テロ組織が武装勢力掃討の対米追従をやめるよう警告を発した」(ワシントン・ポスト紙)と解釈されています。
【パキスタン軍、米軍機に発砲】
米国はパキスタン側国境の部族支配地域を「テロの温床」と非難しており、また、対米協調を基軸としたムシャラフ前政権と異なり、ザルダリ新政権の対米姿勢や軍掌握力に対し強い懸念や不満をもっています。
また、国境地帯に潜伏する武装勢力をめぐっては、パキスタンが見て見ぬふりをしているとの批判があります。
このため、ザルダリ政権の発足と前後して、米軍は無人偵察機による対地攻撃や、特殊部隊の作戦行動を部族地域で活発化させおり、こうした米軍の直接関与によって、パキスタンとの不信の溝がさらに拡大する危険が増大しています。
先月21日夜、パキスタンの対アフガニスタン国境の北ワジリスタン地区で、アフガンからパキスタンに越境してきた米軍の攻撃ヘリコプター2機に対し、パキスタン治安部隊が攻撃を加えたことが報じられました。
この件に関しては、米国、パキスタン双方からのコメントは発表されていません。
ザルダリ大統領は23日のブッシュ大統領との首脳会談で、アフガン・パキスタン国境地帯を拠点とするイスラム武装勢力の掃討に向けた両国の協力関係を確認すると同時に、ミサイル攻撃も地上部隊の越境も認めない方針を米側に伝えています。
その直後の25日、アフガニスタン東部のパキスタンとの国境地帯を飛行していた米軍の偵察ヘリOH58「カイオワ」2機が同日、パキスタン軍の国境検問所から銃撃されたと米国防総省が発表しました。
弾は命中せず、米軍ヘリも応戦しなかったが、現場を目撃した米軍とアフガン軍の地上部隊がパキスタン領に向け発砲し、国境を挟み約5分間にわたる銃撃戦が起きた・・・とのことです。
ザルダリ大統領は「ヘリはパキスタン領空を侵犯していた。我が軍が撃ったのは照明弾に過ぎない」と強調。
一方、米軍当局は「領空侵犯はしていない」と主張しています。
パキスタン軍広報官は「明らかな領空侵犯」と発砲を正当化しています。
なお、パキスタン軍が米軍機に発砲するのは、01年に対テロ戦争が始まって以来初めてことです。
テロとの戦いの徹底を求めるアメリカと、対米追随にテロで対抗するイスラム過激派、“テロ地獄”に不満を募らせる国民、必ずしも政府のコントロール下になく独自の動きをする国軍・・・こうした関係のなかでパキスタン政府が非常に困難な舵取りを求められていることは以前からみなが指摘しているところで、個人的には、ザルダリ大統領がなぜこんな火中のクリを拾うような形で大統領に就任したのか不思議なくらいです。
今日また、パキスタン北西部の部族地域にある民家に対して、米軍の無人機とみられる航空機からミサイルが発射され、4人が死亡、9人が負傷したとの記事が報じられています。
【「三軍統合情報部(ISI)」も改革?】
ところで、パキスタンで大きな力を持っているのが国軍であり、その中枢に位置しているのが三軍統合情報部(ISI)という軍情報機関であると言われています。
そのISIに関して注目される記事がありました。
****パキスタン軍情報機関長官ら一斉交代、背景にタリバンとの関連疑惑*****
パキスタン政府は9月29日、アフガニスタンの旧政権タリバンへの地下支援を疑う声も欧米であるパキスタンの情報機関「三軍統合情報部(ISI)」の長官ら上層部の交代を発表した。
ナディーム・タジISI長官の後任には、パキスタン軍の元作戦司令官アハメド・パシャ中将が任命されたのを始め、上層部14人が交代した。今回の人事はパキスタン軍上層部の大規模な改革の一環。
米国、アフガニスタン、インド当局は最近、アフガニスタン政府に抵抗を続けるイスラム原理主義勢力タリバンとISIが隠密に共謀していると非難を強めていた。(中略) ISI上層部の交代について、パキスタン軍は定例の人事だと強調しているが、同軍とその情報機関を詳細に監視している米国ら同盟国は、パキスタンの安定の度合いと「テロとの戦い」への意志を示すものと受け取っている。
2001年、ムシャラフ政権が「テロとの戦争」に合流して以来、9.11米同時多発テロ事件の主犯格の1人とされるハリド・シェイク・モハメド被告など、パキスタン国内に潜伏する国際テロ組織アルカイダの幹部戦闘員多数の拘束や殺害に、ISIは大きな役割を果たしてきた。
しかし欧米各国関係者の多くは、1996年から2001年までアフガニスタンを支配したタリバン政権の成立に力を貸したISIが、現在も「裏表」で2つのゲームをプレーしていると疑っている。【10月1日 AFP】
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記事にもあるように、三軍統合情報部(ISI)がタリバン政権の背後にあったことは周知のところです。
その後もイスラム過激派とのつながりが取りざたされており、アフガニスタンやインドでテロが起きるたびにISIが背後で関係しているとの批判がなされています。
もっとも、敵対国アフガニスタンはなんでもかんでもパキスタンのせいにする傾向がありますし、インドも最近では国産テロで社会が揺れていますが、先日まではテロは外国、つまりパキスタンから持ち込まれたものというのが基本スンタンスでしたので、両国の言い分がどれだけ正しいかはわかりません。
それにしても、テロの温床とされる部族支配地域でパキスタン政府・軍はどこまでイスラム武装勢力と対決するのか、あるいはしないのか・・・非常に分かりづらいパキスタン情勢にあって、「一体国軍はどちらを向いているのか?」、ISIは更に分かりにくくする存在でもあります。
今回の人事でそのあたりがクリアにされるということであれば、少しは分かりやすくなるのではと思われます。
ただし、“ザルダリ大統領は7月、エリート集団であるISIを内務省の管轄下に収めようと動いたが、強大な力を持つ軍部の強い抵抗に遭い、方針撤回を余儀なくされた。”とも言われていますので、どうでしょうか・・・。