
(昨年9月、イングランド銀行に支援を要請したことから取り付け騒ぎを起こしたイギリスのノーザン・ロック。同社は住宅抵当証券による資金集めにより住宅金融で急成長をとげたが、サブプライムローン問題で新繰りが悪化。特別融資を受けた後、今年2月イギリス政府は一時的に国有化することを発表。“flickr”より By Dominic's pics
http://www.flickr.com/photos/dominicspics/1381505612/)
先行きが見えない金融不安が世界を覆っていますが、事態の推移を伝える多くの記事のなかでも、下記の毎日の記事がEUへの影響と、レッセフェールの経済運営の帰結を指摘して目を引きました。
****グローバル・アイ:金融危機と「国の復権」 新自由主義、曲がり角に=西川恵*****
この金融・経済危機で注目される視点を二つ紹介したい。一つは、この危機が欧州統合に打撃を与えるとの見方だ。
金融機関の救済方法をめぐって仏独が鋭く対立している。欧州レベルで米国のような救済基金を設立し、不良債権を分離しようとのフランスに対し、ドイツは「危機は各国それぞれが解決する問題。他国の救済に税金を使うわけにはいかない」と全面拒否だ。
欧州連合(EU)の諸規則を緩める動きも出ている。EUは正当な競争維持のため国の財政支援を禁じているが、欧州委員会のバローゾ委員長は「賢く運用されるべきだ」と、この規則の一時棚上げを示唆した。財政赤字を国内総生産(GDP)比で3%以下に抑えるユーロ参加国の義務も、柔軟適用される方向だ。
EU各国の対立、欧州中央銀行の弱体化、EU諸規則の事実上の棚上げ……。2日の仏ルモンド紙は「危機にあるのは金融機関という以上に、欧州統合そのものである」と指摘した。
第二の視点は、今回の危機のよって来るところはサブプライム問題ではなく、80年代初頭のレーガン、サッチャーの新自由主義的な経済政策、つまり市場至上主義にあるとの議論だ。底の見えない危機に「ここ数十年のレッセフェール(自由放任)という過度の自由主義が危機の元凶」との見方が広がっている。
興味深いのは、これが市場への国の介入に論拠を与えていることだ。サルコジ仏大統領は先月25日の演説で、国による金融システムの堅持、投資企業に対する規制などを明らかにしたが、ルモンド紙は「マーケットの失敗と国の復権」とトップ見出しで打った。
「国の復権」はフランスだけでなく、欧米各国で見られる。レッセフェールの元締めだった米国では、国有化という考えられない動きが進行中だ。欧州統合の危機も「国の復権」と裏腹の関係にあると言えるだろう。
80年代からの新自由主義が転機にあることは間違いない。日本も無縁でなく、特に小泉改革路線を継承する市場経済派にとっては難しい時期である。(専門編集委員)【10月4日 毎日】
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【各国が自分の責任で・・・】
先月29日にはベネルクス3国がベルギー最大の金融グループ、フォルティスの一部国有化を決定。
アイスランド政府はグリトニル銀行を事実上国有化し、ドイツ政府も不動産金融大手ハイポ・リアル・エステート救済を発表。
30日にはフランスのサルコジ大統領もフランスとベルギーの金融グループ、デクシアへの64億ユーロ(9600億円)公的資金投入を決定。
アイルランド政府も4000億ユーロ(60兆円)分の銀行預金を保証する方針を発表。
「この危機の終点は見えない」(英金融監督当局者)というヨーロッパ金融市場への不安が広がり、各国政府はその対応に追われています。【10月1日 産経】
ブラウン英首相は3日、世界的な金融・経済危機に対応するため、経済関係閣僚や閣外相らで構成する「国家経済会議」を政府内に設置し、最新情勢に応じた経済対策の策定や省庁間の調整に当たることを発表しました。
アメリカ同様、イギリスの住宅市場も崩壊しつつあります。
ブラウン英首相は従来の市場重視の立場から、市場介入に舵を切ったと見られています。
なお、ハイポ・リアル・エステート(HRE)については、4日、救済策が撤回されました。
HREはドイツの金融機関が資金調達の手段として利用する抵当証券の有力発行体。
HRE関連抵当証券はドイツの抵当証券市場の5分の1を占めており、その破綻はドイツおよび欧州市場の混乱を招きかねない懸念が指摘されています。
こうした状況を打開すべく、4日パリで、英、仏、独、伊の欧州4カ国による緊急首脳会議が開催されました。
この会議で、EUに欧州の金融機関の監督と国際協力を担う機関を創設すること、貸し渋り対策のため、EU加盟国に長期資金を貸し出す欧州投資銀行(EIB)を活用して300億ユーロ(約4兆3000億円)の中小企業支援も行うことなどが決められました。
サルコジ仏大統領は、各国の共同出資による銀行救済基金の設立を提案する意向を示していました。
国家予算の数十倍の資産を持つ銀行があり、銀行破綻時の預金者保護などを一国の財政負担では賄いきれない恐れもあるためと言われています。
しかし、これに独、英が強く反対。
メルケル独首相は「各国が自分の責任で、国家レベルで対応しなければならない」と指摘し、欧州全体としての救済策には改めて難色を示していました。
結局、基金設置は首脳会議で議題に上らなかったようです。
預金保険についても、保護額が2万ユーロ(約290万円)までの国がある一方、アイルランドやギリシャが独自に全額保護を決定するなど、EU各国の金融政策の足並みの乱れが目立っているなかで、また、冒頭記事にもあるように「マーケットの失敗と国の復権」が言われるなかで、国家の立場の違いを超えてEU域内の政策を調整できるのか、EUにどこまでの機能を持たせるのか・・・EU統合の理念は厳しい試練に直面しています。
【レッセフェールのもとでのマネーの暴走】
80年代初頭のレーガン、サッチャーに始まる規制緩和・市場重視の新自由主義的な経済政策の帰結として今回の危機がある・・・確かにそのように思えます。
かつてのレッセフェールの時代が世界恐慌を経験し、ケインズ的な財政・金融政策による経済誘導が世界経済の常識になったと思われたのですが、いつのまにか新自由主義とかサプライサイド経済学とかが主張され、またレッセフェールがよみがえっていました。
アメリカ経済は80年代から軍事費拡大などで財政赤字が膨張する一方、結局民間投資は低迷を続けて実体経済の空洞化が進み、マネーは企業買収、株式、更には様々な金融商品に向かいました。
今年問題になった食糧・原油価格の上昇、そして今回の金融危機は、利益を求めて規制のなくなった世界で暴走するマネーの結果のように思えます。
“マネー”と言えば無機的ですが、その背後にあるのは人間の欲望です。
今回の危機は、そんな人間の欲望が従うべき“秩序”“ルール”の確立を求めているように思えます。