孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  有権者登録制度にみる日米社会の差

2008-10-20 16:33:02 | 国際情勢

(10月19日行われたFayettevilleでのオバマ候補の集会の参加者 熱い視線が羨ましくも思えます。 “flickr”より By Barack Obama
http://www.flickr.com/photos/barackobamadotcom/2956494813/

【変革の風が全米に吹いている】
昨年の早い頃から争われている“異常に長い”選挙戦、アメリカ大統領選挙。
この長い選挙戦を制するということは、単に有権者をひき付けるというだけではなく、多くのバッシングにも耐え、失言・ミスが許されない戦いを続け、巨額の資金を調達し・・・そういう心身ともにタフなリーダーである証なのでしょう。
(常識人の神経では、選挙が終わる頃には燃え尽きてしまいますが。やはり長すぎます。)
そのアメリカ大統領選挙は11月4日の最終決着を控え、民主党オバマ候補の上げ潮ぶりが伝えられています。

18日は、前回、前々回の大統領選で共和党のブッシュ候補を選んでいるミズーリ州に乗り込み、米国内遊説で最高の10万人以上が集まる集会を行いました。
“共和党が優勢な同州で、オバマ氏は、セントルイスやカンザスシティーなど都市部を遊説し、「変革の風が全米に吹いている」と訴えた。オバマ氏は、「風は、カンザス州でも、ミズーリ州でも、そしてノースカロライナ州、バージニア州、オハイオ州でも吹いている」と、2000年と04年の大統領選でブッシュ氏を選択した州の名前を呼び上げた。”【10月19日 AFP】

また、オバマ陣営は19日、9月の献金額が1億5千万ドル(約152億円)を超えたと発表。
オバマ氏自身が今年8月につくった約6600万ドル(67億円)の記録を2倍以上も上回り、大統領選史上で過去最高となりました。
この巨額の選挙資金を使い、投票日直前に集中的な全国規模の広告キャンペーンを行うことが可能になったとのことです。

更に、マケイン陣営に痛手となりそうなのが、パウエル前国務長官がケイン候補を批判し、オバマ支持を明確にしたことです。
ジャマイカ移民の両親を持ち、総合参謀本部議長として湾岸戦争を率いたパウエル前国務長官は、共和党穏健派を中心に国民的信頼・人気が高く、92年大統領選挙ではパパ・ブッシュが副大統領に起用しようとし、更に、1996年の大統領選挙に向けての世論調査では幅広い層からの圧倒的な支持を示し、もし出馬したなら当選は確実とも言われていました。
出馬しなかったのは、「黒人が大統領になったら暗殺される」とする妻の反対があったとも言われています。

本人にその気があれば、初の非白人大統領にオバマ候補より近い位置にいたとも思われるパウエル氏ですが、“米統合参謀本議長としてイラク侵攻を推進する立場にあったパウエル氏が、オバマ氏を支持したことは、マケイン氏への辛らつな批判になるとともに、態度を決めかねている有権者や退役軍人などに大きな影響を与えるものとみられている。”【10月20日AFP】と言われています。

【ブラッドレー効果】
パウエル氏が断念し、オバマ候補が今突き進んでいるのは、本人の思い以外に、アメリカ社会を取り巻くものの変化もあったのでしょうか、それとも、オバマ候補の強固な意志によるものでしょうか。
そのあたりはわかりませんが、オバマ候補の“非白人大統領”の可能性に関連して、「ブラッドレー効果」という言葉が囁かれます。

1982年のカリフォルニア州知事選で、最有力だった黒人のトム・ブラッドレー候補は、選挙前の世論調査でライバルだった白人のジョージ・デュークメディアン候補に大きな差をつけていました。
しかし、結果はブラッドレー候補敗北と、世論調査と逆の結果に終わりました。
“人種差別”ととられることを恐れ、表向きは黒人候補を支持すると言っていた白人有権者が、投票所では白人候補に一票を投じたためです。
白人有権者の本音と建前が選挙に表れた歴史的な事例とされています。

世論調査でマケイン候補をリードするオバマ候補ですが、実際には白人票はマケイン候補に流れるのでは・・・というのが「ブラッドレー効果」ですが、先述のようなオバマ候補の“上げ潮”ぶりを見ると、このままなだれをうってオバマ候補が圧勝するのでは・・・という雰囲気も感じます。
82年のブラッドレー氏からパウエル氏を経て、アメリカ社会が変わったのか、変わらないのか・・・興味が持たれるところです。

【有権者登録制度】
人種がらみの「ブラッドレー効果」、女性に言われる「ガラスの天井」(田中真紀子流に言えば“スカートのすそを踏みつけるもの”でしょうか)・・・差別の心理は興味深いのですが、今日取り上げたいのは次の記事です。

****米大統領選:市民団体の虚偽登録問題で波紋 FBI捜査*****
米大統領選への投票のため、事前に必要な有権者登録などを支援する全米最大規模の市民団体「エイコーン」の虚偽登録問題が波紋を広げている。米連邦捜査局(FBI)は詐欺などの疑いで捜査を開始し、人権団体は共和党に配慮した「政治的な捜査だ」と反発。エイコーンのスタッフの8割は黒人や中南米系で、事務所には人種差別的な脅迫電話やメールが殺到している。
エイコーンは貧困、低所得層の生活向上を目指し70年に設立された。40州に支部があり、選挙では未登録の有権者に登録を勧め、本人が記入した用紙を役所に提出している。
国勢調査によると、白人の有権者登録率は7割、黒人は6割、中南米系は5割強にとどまる。米国では「個人の問題」とされ、行政機関は積極的には登録を呼びかけていない。(後略)【10月19日 毎日】
**********************

「そうなんだ・・・・」と思ったのは、市民団体「エイコーン」の虚偽登録問題ではなく、アメリカの選挙制度、有権者登録制度の話です。
日本では当たり前のように投票の通知がきますが、アメリカでは「住民登録」制度がないため、法律上選挙権があっても、本人が選挙人登録をしなければ選挙をすることができない仕組みだそうです。
その結果、“白人の有権者登録率は7割、黒人は6割、中南米系は5割強にとどまる。米国では「個人の問題」とされ、行政機関は積極的には登録を呼びかけていない。”とのこと。
知りませんでした。何回かTV等で聞いたのかもしれませんが、全く認識がありませんでした。

【“寝ててくれたらいい”社会と“国家に対して何ができるかを自問”する社会】
このことは、日本社会とアメリカ社会の差を感じさせます。
日本では戸籍制度があって、更に住民登録制度があり、多くの場合、個人は意思とは無関係に日本国民、日本社会という組織のメンバーになります。
多くの日本人にとって、国とか社会というものはすでにそこに成立しているもので、自動的に自分が組みこれている存在です。

そのためややもすると、国民は国の政治や社会の運営について、他人任せの無責任・無関心になってしまうこともあります。
為政者のほうも、国民はうるさいことを言わずに決まったことに従ってくれればいい、「無党派層が『関心ない』と言って寝ててくれたらいいが・・・ 」といった発想にもなります。

これに対し、アメリカでは自ら手をあげないかぎり選挙にも参加できません。
逆に言えば、選挙に参加する人々には、自らの意思で社会を作っていこうという意思が存在します。
そのような有権者の社会参加意識が前提となっていますので、為政者の側からも「わが同胞、アメリカ国民よ。国家があなたに何をしてくれるかを問うのではなく、あなたが国家に対して何ができるかを自問してほしい。」という呼びかけが出てきます。
日本のように、国家が個人の意思とかかわりなく存在し、個人とはかかわりないところで政治が行われ、国民に対する国による一律的な最低保障が当然のものと前提されている・・・そういう社会ではピンとこない言葉です。

しかし、“白人の有権者登録率は7割、黒人は6割、中南米系は5割強にとどまる。”ということは、その他の人々にとって、“アメリカ”というのはどのような存在でしょうか?
参加もしない、期待もしない、ただの生活の場・・・これも、日本に生まれた者には想像しづらい世界です。

アメリカというのが、そういう人々の存在を前提とした国家・社会だからこそ、統合のために国家への忠誠というものがいろんな場で強調されもするのでしょう。
しかし、非白人移民の増加にともなって、そうした統合も困難になってきています。
その意味でも、今回非白人大統領が誕生すれば、そのような社会統合に向けての新たな対応・・・ということにもなるのでしょう。

コメント
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