(10月15日にブリュッセルで開幕したEU首脳会議でのブラウン英首相 右はバローゾ欧州委員会委員長 会議前にブラウン首相は英銀行への資本注入を即決で発表 一躍「欧州の救世主」となりました。 会議では「IMFなど従来の国際金融システムの改革が急務」と米国主導のシステムの再構築の必要性を訴えました。
“flickr”より By Downing Street
http://www.flickr.com/photos/downingstreet/2944278726/)
【“米国はいつの日か社会主義に向かう。”】
金融不安については、世界はまだその只中にあって、今後の推移(うまく切り抜けられるのか、長期の不況に呑み込まれるのか、恐慌といったパニックに発展するのか・・・)はまだ分かりませんが、いろんな影響をすでにもたらしつつあります。
全体的には、これまでの規制緩和を進め、市場に委ねる政策から、市場の動きを規制・監視する政策への転換が見られます。
****金融危機 米「緩和」一転「規制」へ 「レーガノミクス」曲がり角*****
米政府が大手金融9社などに対する2500億ドル(約25兆円)の公的資金注入に踏み切ったことで、レーガン政権以来脈々と続いた規制緩和時代が曲がり角を迎えたという見方が出ている。金融自由化で発展した高リスクの取引が、結果的に金融システムを崩壊寸前に追い込み、空前の政府介入という“揺り戻し”を招いたからだ。食品安全や温暖化対策など他の分野へ規制強化の波が広がるとの指摘もある。 【10月17日 産経】
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ブッシュ大統領自身は「私は本来、市場介入反対論者だが、今の市場はそれを許すような正常な状態ではない」と、今回の措置が緊急避難であり、本来の規制緩和という原則に変更はない考えを示しているとか。
レッセフェールの自由主義的市場重視経済の“本家”アメリカの変節については、笑えるような反応も。
その1。南米ベネズエラの反米左派の急先鋒、チャベス大統領は、公的資金投入で金融機関を救済しようとしているアメリカの「国家介入」について「(ソ連の)レーニン政権と同じ方策だ」と皮肉ったうえで、「これは人民を救済するものではなく、金持ちと沈没しそうな銀行を救済するためのものだ」「米国はいつの日か社会主義に向かう。」と米政府を批判したそうです。【10月6日 毎日】
チャベス大統領なら言いそうな話です。
その2。アメリカにも共産党があるそうで、最近の情勢に“追い風”を感じているとか。
地区議長の発言。「電話での問い合わせが増えている。わが党に興味を持つ人が増えている。わが党にも出番が回ってきた」「マルクス・レーニン主義の時代がとうとう到来した」「われわれは非常に興奮している。転換点にいると感じるよ」【10月16日 AFP】
“マルクス・レーニン主義の時代”なんて、今どき代々木の方々も口にしないフレーズです。
ある意味、アメリカに時代感覚を持った現実的な左翼思想が育っていないという現実の一面でもあるようです。
なお、大統領選挙には候補者は出していませんが、党事務所の多くのスタッフがオバマ氏の顔写真入りバッジを着けているそうです。
【「ゴードン・ブラウンは欧州の救世主」】
話を本筋に戻すと、今回の各国対応で評価を上げたのがイギリスのブラウン首相だそうです。
金融危機以前は超不人気・低支持率でボロクソ・サンドバッグ状態でしたが、「ゴードン・ブラウンは欧州の救世主」(仏紙ルモンド)と、国内支持率回復はもちろん、国際的な指導力を発揮しているそうです。
****金融危機 英、ブラウン株は急上昇 救済策を即断、人気回復****
(「優柔不断」のレッテルが貼られていた)ブラウン首相は先月、米大手証券リーマン・ブラザーズが破綻すると、英大手銀行の合併に積極的に介入し、中堅銀行の一部国有化に踏み切った。今月8日には最大500億ポンド(約8兆6700億円)の公的資金による銀行への資本注入を柱とする銀行救済策を発表。同首相の呼びかけに対し、13日にはフランスとドイツが同調、14日には米国も2500億ドル(約25兆円)の公的資金注入策を明らかにした。 公的資金注入は「銀行の一部国有化」との批判を招きかねないため、ブッシュ米政権は当初、注入をためらっていた。ブッシュ批判で知られる(今年のノーベル経済学賞を受賞した)クルーグマン教授は米紙で「ゴードンはよくやった」と称賛。不良債権処理を優先させた米国に比べて、公的資金の資本注入を真っ先に行った英国は「金融危機対策を方向付けた」と評価した。 【10月17日 産経】
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「即断即決」型に豹変したブラウン首相(従前は市場を重視した規制緩和推進の立場だったようですが・・・)の与党・労働党は、政党支持率で一時は保守党に26ポイントもリードされていましたが、その差を10ポイント前後に縮めているそうです。
望ましい指導者に関する世論調査でも、41歳の若さと歯切れのいい弁舌で、労働党ブレア前首相の「後継者」とも言われる保守党キャメロンを逆転しました。
なお、ブラウン首相は労働党大会でキャメロン氏を「未熟者の出る幕はない」と批判、これに対しキャメロン氏は保守党大会で、「難題に立ち向かう時、『経験』以上に大切なのは個性と判断力だ」「『経験』とは、年老いた現職の言い訳だ。変化を止めたい時に使う言葉だ」と応戦したそうです。
【誰が明日アンクルサムを助けるのか】
一方、“大国”としての存在感を増す中国は、チャベス大統領のようにはしたないことは言いませんが、自信を深めているようです。
****中国、世界の信用危機を受けても金融改革を減速させない=金融当局者*****
中国の金融当局者は15日、世界的な金融危機を受けても、中国は金融改革・革新の速度を落とさない、との見通しを示した。
上海金融工作委員会副書記のWu Jianrong氏は銀行関係者の会合で「今回の危機は、将来の成長への明確なビジョンをわれわれに与え、これによりわれわれの銀行システムへの自信が深まった」と述べた。
同氏はさらに、オフショアの人民元取引センターを創設し、今後12年間で上海をアジアの金融中心地に発展させるという政府計画を強調した。
「中国は米国の危機から学び、強固な金融システムを築くべきだ」と述べた。
主に政府による厳格な資本規制のため、中国の銀行は、多くの欧米銀行が損害を受けた世界的な金融危機の影響をほぼ免れた。
中国人民銀行上海支店長のHu Xiping氏はこの会合で、世界の危機によって中国の金融改革は抑制されない、との見通しを示した。【10月16日 ロイター】
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もちろん、中国首脳は今回危機を軽視している訳でもなく、他国のことと浮かれている訳でもありません。
アメリカが金融安定化法案の下院採決でもたついていた頃、天津で開催された世界経済フォーラム(WEF)主催の「ニューチャンピオン年次総会」(9月27日~28日)での講演に先立ち、温家宝首相は中国有力企業の一部首脳らと非公式の会合で「米国の金融危機が実態経済に波及し、世界経済の鈍化を招いていることに対して、多大な注意を払う必要がある」と危機感を示していたそうです。
中国の首相が自国の成長企業のトップの面前で、経済の見通しについて語るのは珍しいことだとか。
また、この時期には、アメリカの公的資金による資本注入はなかなか進まないのでは・・・という世間の雰囲気でしたので、「ニューチャンピオン年次総会」への他の参加者同様に中国の参加者も不安を感じており、朱民・中国銀行副行長(副頭取に相当)は「米政府が投入する公的資金は最終的に1兆8000億ドルを超える可能性がある」と指摘したうえで、「アンクルサムはウォール街を助けるだろうが、誰が明日アンクルサムを助けるのか」と懸念を表明したそうです。【10月10日 DIAMOND online】
アメリカは金融機関救済に必要とする資金を国債発行で調達、その国債の購入先は結局中国・・・という構図で、実際、アンクルサムを助けるのは中国しかないと見られています。
また、中国は15日開かれた経済産業省との日中高級事務レベル会合(次官級)で、「今の状況でドルの保有比率を下げるという考えはない」と述べ、米国発の金融危機によるドル安傾向が続いても米国債などの残高を維持していく方針を示しています。
この高級事務レベル会合で中国側は09年の経済成長率については、9%台を目標に経済政策運営を進める方針を示しています。
先進各国が不況に脅えるなかでの9%成長。
乳製品のメラミンの問題、先日の冷凍インゲンの問題・・・問題は山積してはいますが、その経済の力強さは圧倒的なものがあります。
中国と並ぶ新興国代表のインドでは、外為市場でインドルピーが2002年9月以来の安値に下落。
インド株の急落を受け、海外資金の流出加速に対する懸念が強まっています。
インド国営銀行は16日、ルピーが下落を受け、ドル売りを実施したもようと報じられています。
こちらは、中国と比較して、大波による揺れが激しいようです。
“製造業”という経済の基盤の強さの違いでしょうか。