孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

原子力ルネサンスの今、日本は何を主張するのか

2008-10-19 13:18:45 | 国際情勢

(独自の原子力開発を進めるイランの核施設Natanz 二重のコンクリート壁に保護された地下8mに作られているとか “flickr”より By Hamed Saber
http://www.flickr.com/photos/hamed/237790717/)

【中パ 原発建設援助で合意】
パキスタンのクレシ外相は18日の記者会見で、ザルダリ大統領訪中の成果として、国内で計画中の原子力発電所2基の建設に中国政府が協力することで合意したことを明らかにしました。
先にインドがアメリカと結んだ原子力協力協定に対抗する動きと見られています。

*****パキスタン、中国の援助で原発2基新設へ 米印に対抗*****
パキスタン政府は18日、中国の援助で原発2基を新設するなどとした、両国間で合意した経済協力の内容を明らかにした。米国とインドが今月初め、原子力協力協定を結んだことに対抗する動きだが、パキスタンはインド同様、核不拡散条約(NPT)に加わっておらず、条約の枠外で核協力が進む懸念が、また広がった形だ。
パキスタンのザルダリ大統領が17日までの4日間、原子力分野での協力を求めて初訪中し、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席らと関係強化を確認した。
クレシ外相は会見で、中国の援助で新たに2基の原発を建設し、680メガワットの発電能力を得ると説明。パキスタンはすでに、パンジャブ州北部に中国の支援で原発1基を稼働させ、もう1基を建設中で、新たな2基は既存施設に増設される見込みだ。

ただ中国は04年に、NPT加盟国以外への核技術や資材の供給を規制する原子力供給国グループ(NSG)に参加しており、パキスタンへの核協力はNSGの承認が必要。だが、両国とも具体的な方策は示していない。【10月18日 朝日】
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長年対立関係にあるインドがアメリカと原子力協力協定を締結したことで、パキスタン側は“インドが軍事用核施設で核兵器を増産させるのではないか”との懸念を抱いており、ギラニ首相は「わが国も同等の権利がある」と主張しています。
しかし、アメリカは、パキスタンの科学者カーン博士による「核の闇市場」を通じ、北朝鮮やイランに核技術が流出した経緯を踏まえ、パキスタンに対する核協力を拒否しています。

こうした背景で、訪中したザルダリ大統領が原子力技術の協力を中国に求めていたことは周知のところでした。
ただ、共同声明には原子力協力に関する明確な言及はなく、「エネルギーの開発強化」とあるだけで、中国が“印パ間の核軍拡競争につながり地域が不安定化する”との判断で、原発の核燃料や技術供与などに消極的対応をとったのではないか・・・とも一部報じられていました。
今回のクレシ外相の発表は一応中国側がパキスタンの要請に応じたことを明らかにしたものですが、共同声明に入れなかったことに何らかの意味合いがあるのかも。

記事にもあるように、NPT非加盟のパキスタンへの原子力援助は、原子力供給国グループ(NSG)に参加している中国にとっては相当のハードルがあります。(実際、06年の中パ首脳会議では原子力援助は見送っています。)
アメリカが“世界最大の民主主義国”インドへの協力で随分苦労したことはつい先日のことですが、“核の闇市場”疑惑のパキスタンに関して中国がこのハードルを越えるのは、あまり現実的ではないような感じもします。
(もちろん、そうなった場合、“なぜアメリカ・インドが許されて、中国・パキスタンがだめなのか?”という、アメリカのダブル・スタンダード批判を行うのでしょうが。)
今のところ現実性はあまりないが、パキスタンの顔をたてて、パキスタン側が一方的に発表することについては中国側も了承した・・・、アメリカへの牽制にもなるし・・・といったところでしょうか。

【原子力ルネサンス時代の核国際管理】
一方、世界は今、「原子力ルネサンス」の時代。
エネルギー需要の拡大、温暖化対策などを受けて各国が原子力開発に乗り出しています。
国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ議長は16日、発展途上国など50を越える国が原子力発電導入を検討していることをIAEAに通告してきているとOECDで報告しています。
そのうえで、核不拡散に向けてウラン濃縮・再処理などの核燃料サイクルを国際管理下に置く構想を検討するようにあらためて国際社会に求めた・・・と報じられています。

アメリカ・インドの原子力協力協定によって、現在のNPT、NSGによる管理体制は大きくほころびを見せています。
現行体制の一層の形骸化を踏まえて、新たな構想が必要なことは十分に理解できるところですが、一部の核保有国がその“特権”を認められたままという不合理な現実世界にあっては、あまり期待できません。
今回の中国・パキスタンの動きも、こうした形骸化を加速させるものですが、“どうせ有効な管理体制などはありえない”との見通しが背景にあるのでしょうか。

【IAEAの次期事務局長に日本立候補】
ところで、核・原子力国際管理の要となるIAEAの次期事務局長に、日本の天野氏が立候補するという話があります。
しかし、米追従外交の日本出身事務局長選出に懸念の声もあがっているとか。

****天野大使、次期IAEA事務局長選に出馬表明****
ニューヨークの国連総会の基調演説の中で麻生太郎首相が25日、「日本はウィーン駐国連機関担当日本代表部の天野之弥大使(61)を国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長選に立候補させる」と表明したことを受け、ウィーンで天野大使が同日、正式に出馬を表明した。
天野大使は2005年8月に大使就任以来、IAEA年次総会議長、理事会議長などIAEA内の要職にも選出されてきた。日本では外務省軍縮不拡散・科学部長など、軍縮畑を歩んできた。

3期目のエルバラダイ現事務局長の任期は来年11月で終わるが、それに先駆け、今年の年次総会後に開催される理事会で次期事務局長選の立候補届けがスタートし、来年6月の理事会までに候補者の一本化を進め、同年9月の年次総会で正式に後任事務局長を決める運びとなる。これまでのところ、天野大使のほか、南アフリカIAEA担当のミンティ大使が候補の意思を明らかにしている。

天野大使は次期事務局長選レースでは一歩先行してきたが、ここにきて加盟国内で米追従外交の日本出身事務局長の選出に懸念の声が強まってきた。欧州理事国の関係者は「米印原子力協力協定の承認問題で明らかになったが、原子力供給国グループ(NSG)臨時総会で唯一の被爆国の日本が最終的には米国の意向を支持したのには、失望させられた」と指摘、日本出身のIAEA事務局長選出に懸念を明らかにした。 【9月26日 世界日報】
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【日本は何を目指すのか?】
イランを抑えて安保理非常任理事国に選出された日本ですが、国際社会での応分の活躍・貢献をしたい・・・というところでしょう。
それはいいですが、問題は何をしようというのか・・・という点です。
安保理非常任理事国選挙でも、イランは日本のポスト独占とあわせて“日本は米国の傀儡”との批判を行っていました。
先の常任理事国拡大の議論でも、アメリカから“アメリカに楯突くドイツはダメだが、素直に言うことを聞く日本ならいい”との“評価”を頂戴している日本が、国際社会の中でどういう働きをしたいとしているのか、私を含め日本国民全体も充分に整理できているようには思えません。

IAEA事務局長ともなれば、北朝鮮の核開発問題についても重要な位置をしめますが、それだけでなく世界の原子力・核開発についての見識が求められます。
日本国内では核武装の議論は“表”で語られることは殆どありませんが、アメリカなどでは“常任理事国の条件は核武装しないことだ”とか“北朝鮮問題で日本を置き去りすると核武装の方向へ追いやる”といった、日本の核保有願望にかかわる議論もあるようです。

唯一の被爆国としてこれまで“非核”を一枚看板にしてきた日本、現実にはアメリカの“核の傘”の下で生きている日本が米印原子力協力協定を容認し、今後世界の「原子力ルネサンス」・核拡散にどのように向き合うのか・・・そういう議論も国内的にもう少しあってよいのでは。
国内での議論もないまま、アメリカと同じことを代弁するだけなら、別に日本が手を上げることもないように思えます。それは世界にとっても不幸なことです。



コメント
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