(中国・深セン 路上にチョークで身の上話を書いて物乞いする老人 いかにも中国的と感心すべきか 中国・社会主義の厳しい現実を嘆くべきか “flickr”より
By trey.menefee
http://www.flickr.com/photos/trey333/293027916/)
【農民の土地請負経営権(使用権)の自由取引を促進】
「2020年までに農民の1人当たりの収入を08年の2倍にする」ことを目標に掲げた中国共産党第17期中央委員会第3回総会(3中総会)については、胡錦濤政権が農業規模の拡大・農業所得水準の底上げを狙って農地使用権の流動化を認める方向で検討していたこと、そうしたことが会議で決定されたようではあるが、12日に発表されたコミュニケには具体的には記されていなかったこと・・・などは13日のブログ「中国 3中総会で実質的な土地「私有化」、農村の市場経済化に踏み出すか?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081013)
で取り上げたところです。
土地の請負経営権(使用権)の譲渡を認める流動化策についてコミュニケへの明言がされていないこともあって、“市場経済化に踏み出すか?”と疑問符つきにしたのですが、公表された全文によると、やはり土地の請負経営権の取引が認められたようです。
*****中国、農民の土地使用権取引を促進 3中全会で決定*****
新華社通信は19日、北京で12日まで開かれていた中国共産党の第17期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で採択された「農村改革を推進するための若干の重大な問題に関する決定」の全容を公表した。農民の土地請負経営権(使用権)の自由取引を促進することを柱にしており、農村の土地制度は大きな節目を迎える。
決定は、土地の請負経営権の取引について「農民が貸し出し、譲渡などの形で移転させることを認め、さまざまな形式での適度な規模化経営を発展させる」と明記し、党中央として正面から認めた。
もともと03年に施行された「農村土地請負法」などで農村での請負経営権の取引が認められていたが、実際には農地の集約化が進んでいなかった実態をふまえ、「移転のための市場を確立する」とも明記し、取引を促していく方針を明確に示した。
一方で決定は、食糧確保のための耕地保全の重要性も強調。「請負経営権が移転しても、土地の用途は変更してはならない」「建設用地の総規模は厳しく抑制する」などと述べ、農地をむやみに建設用地に転換することは禁じた。
3中全会の最終日だった12日にも新華社通信はコミュニケを発表したが農民の土地請負経営権については直接言及していなかった。 【10月19日 朝日】
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農地の流動化は実質的な土地私有制の方向にあるとも解釈でき、「土地はすべて国家のもの」という社会主義の原則との関係が問題になります。
運用次第では“大地主”的な存在や多数の離農者・失地農民が出現します。
そのため党内部に抵抗があるようで、上記の記事では“今回の決定が採択から1週間後に公表されたことについて、「さまざまな意見が共産党内にあったことを示している。まず胡錦濤指導部が中央突破を図り、その後に全員を納得させる時間を取ったのだろう」(北京外交筋)との見方が出ている。”と報じられています。
【今回農地改革の行き着くところは?】
大規模農場など多様な経営方式を可能にするための農地流通化策の一方で、記事にあるように建設用地への転用の制限、また、「土地の集団所有という性質は変えてはならない」と社会主義の原則を維持することも併記されています。
この「土地の集団所有という性質は変えてはならない」という意味がわかりません。
こうした農地流動化策の結果、農村を離れる者が多数出現することが予想されますので、中小都市で安定した職に就いている出稼ぎ農民に都市住民としての戸籍を付与するかたちで、現在の都市と農村の二元管理となっている戸籍を一元化し、社会保障などの受け皿をつくっていくことも決定されています。
更に、出稼ぎ農民の報酬や子供の教育なども都市住民と同等の条件にしながら統一的な労働市場を整備し、都市・農村の格差是正、都市と農村の一体化を進めていく方針です。
中国政府の狙いは、これまでは30年だった土地請負経営権(使用権)を70年に延長して農民の権利を保護し、更に、農民所得を倍増さることで農民の不満を和らげていこうとするものでしょうが、どうでしょうか?
地方政府による強制収用などで5000万人を超える失地農民を生み出しているように、地方政府の権力乱用・腐敗という土壌があります。
また、ややもするとモラルを欠いた拝金主義的な行動も中国社会には見られます。
地方政府の権力と拝金主義が結びついたところでは、やむなく土地請負経営権を手放し都市に流入するような農民を大量に生み出すことが危惧されます。
現在問題になっている乳製品のメラミン混入問題では、モラルなき拝金主義、監督機関の無責任な管理体制、地方政府の隠蔽体質が明らかになっています。
こうした問題を抱えた風土での今回の農地改革が、どういう結果をもたらすのか・・・。
【相次ぐ幹部更迭】
中央政府もこうした体質の是正に無頓着な訳ではなく、深セン市長時代の不正疑惑が取りざたされ于幼軍・中央委員の解任、山西省で9月上旬に発生した土石流災害では、鉱山会社の違法採掘を摘発できなかったとして孟学農省長らの解任、メラミン入り粉ミルク事件でも、発端となった「三鹿集団」本社がある河北省石家荘市の党委書記や市長が解任、閣僚級の幹部も食品検査態勢の不備を指摘されて事実上更迭・・・と、綱紀粛正のための中央や地方政府の幹部更迭が北京五輪以降相次いでいます。
劉志華北京市元副市長も、北京五輪施設周辺などの土地開発問題に絡み、不動産業者から多額のわいろを受け取ったとして、執行猶予2年付き死刑判決(2年後に無期懲役に減刑される可能性のある死刑)という、これまでに比べ非常に厳しい処罰を受けています。
こうした中央の方針がどこまで地方末端まで浸透していくのか・・・。
【中国実体経済にも翳り】ところで、17日ブログでは世界を覆う金融危機のなかで自信を深める中国金融当局の発言などを取り上げましたが、中国の実体経済も世界の景気減速の影響を受け初めているようです。
*****金融危機、「世界の工場」にも影 突然解雇7千人怒る***
おもちゃや靴、パソコン周辺機器などの工場が集積する中国広東省東莞市。「世界の工場」の中核を米国発の金融危機が襲う。市の東部にある政府前に17日午前、おもちゃ工場の従業員約500人が集結していた。2日前に工場が突然閉鎖になり、失業した人たちだ。目の前には、ヘルメットと盾、警棒で武装した約300人の治安部隊が壁をつくって立ちはだかる。 (中略)
中国最大級のおもちゃ工場を抱える「合俊」(本社・香港)。香港株式市場に上場し、米大手玩具メーカー「マテル」など世界の有名ブランドに、OEM(相手先ブランドによる生産)で供給する。米国経済の減速で注文が急減し、資金繰りがつかなくなった。二つの工場を閉鎖、約7千人の従業員が路頭に迷う。内陸部からの出稼ぎが多く、老後も教育も工場の給料頼み。騒動は3日間にわたり、一時は2千~3千人の「失業者」が、工場前の門から大通りまでを埋め尽くした。(中略)
中国全体の今年1~7月のおもちゃ輸出は、前年同期と比べてわずか2.1%増にとどまる。25%近い伸びを示した昨年から暗転した。高成長が覆い隠してきた社会の矛盾が顔を出し始めた。「米国が風邪を引けば、中国もくしゃみしてしまう。世界的に経済がおかしくなっていることの表れだ」。従業員のデモや記者の取材の様子をビデオ撮影していたベテラン警官は、ため息をついた【10月21日 朝日】
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中国国家統計局は20日、2008年第3四半期(7-9月期)の国内総生産(GDP)実質成長率(速報値)が、前年同期比9.0%だったと発表しました。
GDPの四半期成長率1ケタ台は05年末以来初めてで、世界的な金融危機の影響が実態経済に及び始めたことを示しています。
これを受けて、中国政府は投資、輸出、国内消費を全面的に底上げする景気対策を実施する方針を鮮明にしています。
先進国経済を支えてきた中国にも企業の倒産や不動産市場の冷え込みなどの影響が広がり、北京五輪後の景気減速が想定を超えかねないとの危機感が政府・共産党幹部に浸透し始めたためだと報じられています。
日本の感覚すれば9%という数字も驚異的に感じられますが、政府・共産党内では「成長率が7~8%を下回ると、毎年900万人以上といわれる新規雇用を吸収できず、政権への批判が高まる」との懸念があるそうです。【10月20日 毎日】
中国経済は、膨大な人口圧力が存在するため全力疾走しないといけないようです。
走り続けることを義務づけられた経済・・・これも大変な話です。