孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  アメリカ撤兵後に向けて

2008-10-06 21:23:17 | 国際情勢

(イラクの明日を担うイラク軍新兵さん達のようです。“flickr”より By James Gordon
http://www.flickr.com/photos/jamesdale10/1943195498/)

【まだ散発するテロ】
テロとの戦いの主戦場がアフガニスタン、パキスタン部族支配地域に移り、また、グルジア・南オセチア紛争で米ロの対立が先鋭化し、一方で経済的には金融不安に世界は揺れ動き・・・という訳で、イラクの記事を目にすることが最近少なくなりました。

「それだけ情勢が落ち着いているのだろう・・・」とは言うものの、散発的にはテロの被害もやはり続いてはいるようです。
先月28日、バグダッドでは爆弾事件が相次ぎ、少なくとも33人が死亡しています。
特に、断食月「ラマダン」の日中の断食が終了したあとの夕食の賑わいを狙った事件がおきています。
バクダッド近郊Shurtaでは、シーア派のモスク近くに駐車してあったミニバスが爆発し、12人が死亡、35人が負傷。
Hai al-Amilでも2件目の自動車爆弾攻撃が発生し、1人が死亡、1人が負傷。
バクダッド中心部のカラダ地区では、自動車爆弾と路上に仕掛けられた爆弾が爆発し、19人が死亡、72人が負傷。

ラマダン明けの今月2日には、バグダッドのシーア派モスク(礼拝所)2カ所で2日、自爆テロがあり、19人が死亡、50人以上が負傷しています。
しかし、バグダッドはこれでも“落ち着いている”ほうで、北部モスルでは依然としてアルカイダ系武装組織の活動が活発に行われています。

****米軍と銃撃戦、男が自爆 子ども含む11人死亡 イラク******
イラク北部モスルで5日、駐留米軍がテロ容疑者の男が隠れている建物を捜索しようとして銃撃戦となったうえ男が自爆し、この建物にいた男性5人、女性3人、子ども3人の計11人が死亡した。AP通信はイラク警察の話として、11人は全員が家族で、1人は7歳の男の子だと伝えた。
 駐留米軍は、男は国際テロ組織アルカイダ系武装組織のメンバーだと説明。その後の捜索で、建物の中から多量の小火器や爆発物を隠している貯蔵庫が見つかったという。同軍報道官は「アルカイダが無実のイラク人の陰に隠れていることによる悲劇的な例だ」と述べた。 【10月6日 朝日】
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アルカイダ系武装勢力の有力指導者で「アブ・ラミ」の名前でも知られているマーヒル・アルズバイディ容疑者を、3日、イラク駐留多国籍軍が殺害したとの発表もありました。

【アメリカ撤兵後に向けて 地方選挙法案承認】
一方、最も治安の悪かった中西部アンバル州の治安維持権限もすでに9月1日に、駐留米軍からイラク軍へ移譲されており、アフガニスタンに主軸を移したいアメリカの意向もあって、イラクからの撤退は加速する情勢です。(大きなトラブルが発生しなければ・・・の話ですが)
アルカイダ系武装組織との戦いを引きずりながらも、大筋としてはアメリカ撤兵後をにらんだ動きも出てきています。

国内的な動きとしては、イラク大統領評議会(正副大統領3人で構成)が3日、日本の国会にあたるイラク国民議会が9月に再可決した地方選挙法案を承認しました。

*****イラク地方選挙法案、大統領評議会が承認*****
地方選挙法は、クルド地域政府が統治する北部3州と、クルド、アラブ両勢力が帰属問題などをめぐり対立しているキルクーク州を除いた14州で来年1月末までに地方選を実施することを定めている。
05年の地方選挙では、イスラム教スンニ派の多くが人口の多いシーア派の台頭を見込んでボイコット。スンニ派は地方議会の場でスンニ派の利益が代弁されていない、と不満を募らせている。
今回の地方選にはスンニ派も参加する予定で、米国は民族・宗派間対立を解消するための重要課題と位置づけ、早期実施を強く求めている。 【10月3日 朝日】
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地方選挙の実施は宗派対立の緩和に向けての第一歩です。
ただ、選挙となると日本国内でさえ政党間の対立が過熱することもありますが、長年のシーア派、スンニ派の対立を背景として、またここ数年のシーア主導の政治構造を踏まえて、とてもすんなり行くようには思えません。
多少のトラブルは仕方ないにせよ、大枠で互いが合意する結果が得られれば大成功でしょう。

手続きが停滞していたスンニ派“覚せい評議会”(イラクの息子たち)の治安部隊編入も9月当初よりは進展しているようです。
多数派であるシーア派がどこまで国をまとめる意思を強く持つかに今後はかかっているように思われます。

問題は“クルド、アラブ両勢力が帰属問題などをめぐり対立しているキルクーク州”の扱いです。
憲法で定められたキルクーク州の帰属をめぐる住民投票実施の問題もあります。
石油地帯であるだけに、アラブ側も簡単にクルド自治州編入を認めがたいこと、クルド独立の気運が高まると周辺のトルコ、イランを刺激すること・・・などはこれまでも何回か触れてきました。
今後イラクが大きく乱れるとすれば、このクルド問題の扱いではないでしょうか。

【エジプト外相訪問】
対外的な動きとしては、エジプトのアブルゲイト外相が5日、バグダッドを予告なしに訪問しました。
エジプト外相のイラク訪問は、イラク軍のクウェート侵攻で両国関係が悪化した1990年以来初めてだそうです。
この背景には“アラブ諸国は、治安悪化や、イランがイラクへの影響力を強めていることへの反発からイラクと外交面で距離を置いてきた。だが、最近の治安改善とイラン孤立化を図る米国の意向を受け、関係修復が進んでいる。”【10月5日 毎日】といった事情があるとか。

国内的に宗派間対立が緩和され、また、クルド問題が火を噴かずに、対外的に周辺アラブ諸国との関係も改善すれば、イラクの今後も期待できます。
しかし、どこかでつまずくと・・・という危うさがまだぬぐえません。

コメント
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