(イエジ・ブゼック欧州議会議長(右)と共同会見するウクライナのヤヌコビッチ新大統領(左) 新大統領は「EUとの協調は、改革を加速させる」と語っています。
“flickr”より By European Parliament
http://www.flickr.com/photos/european_parliament/4398937776/)
【ティモシェンコ首相、失脚】
ヤヌコビッチ前首相(親ロシア派の「地域党」党首)とティモシェンコ首相(オレンジ革命の立役者)の間で争われたウクライナ大統領選挙は、ヤヌコビッチ前首相の勝利に終わりました。
僅差の勝負となったこともあって、ティモシェンコ首相は敗北を認めていませんが、不正投票があったとして最高行政裁判所に提訴していた件については、「裁判所の形式的な審理は無意味だ」と、その訴えを取り下げました。
ただ、首相職の辞任は拒否していましたが、ティモシェンコ首相の内閣を支えてきた連立与党会派が2日崩壊し、国会は3日、ティモシェンコ内閣への不信任案を可決し、辞任を拒否している首相の解任を正式に決定する見込みとなっています。
新首相選出が難航すればティモシェンコ氏が首相代行として留任して政治混乱が続く可能性もあり、新大統領の手腕が問われるとも報じられています。
“30日以内に新首相を選出できなければ、大統領は国会を解散できる。だが、国際通貨基金(IMF)は、政権の早期安定を経済支援の条件にしている。解散による混乱の長期化は、新大統領にとって避けたいところだ。
ヤヌコビッチ大統領は新首相候補として、自身が党首の「地域党」(171議席)議員で側近のアザロフ元第1副首相ら3人を挙げている。ただ、同国では大統領に首相の任免権はなく、国会(定数450)の過半数を占める与党会派による首相候補指名がまず必要になる。”【3月2日 毎日】
【東西どちらを「優先」すべきか・・・】
ティモシェンコ首相は親欧米派とはいいつつも、ユーシェンコ大統領のとったロシアとの対決姿勢を改めて、ロシアとの協調も重視する姿勢を示し、プーチン・ロシア首相との関係も良好なことから、どちらが勝ってもロシアとの関係改善が進むと見られていた選挙でした。
ただ、そうは言いつつも、親ロシア派の新大統領誕生で、西欧とロシアの境界に位置するウクライナが今後どのような方向に進むのかが注目されています。
選挙戦ではヤヌコビッチ新大統領は、ロシア一辺倒は排除する姿勢も見せていました。
さしあたっては、新大統領がロシアと西欧、どちらに先ず訪問するのかに関心が寄せられていました。
“外交政策では就任後、最初の外遊先にどこを選ぶかが焦点に浮上している。新大統領は20日、ロシアのメドベージェフ大統領に3月初めの訪露を約束したが、今週になって、これに先立ちブリュッセルの欧州連合(EU)本部を訪れるとの情報が流れた。東西どちらを「優先」すべきか苦吟しているとの報道もある。” 【2月25日 毎日】
【「欧州の非同盟国家を目指す」】
この件に関しては、ヤヌコビッチ新大統領は欧州・EUを選択しました。
****ウクライナ:新大統領、EU首脳と会談 協力維持を強調****
ウクライナのヤヌコビッチ新大統領が1日、ブリュッセルを訪れ、欧州連合(EU、加盟27カ国)のファン・ロンパウ欧州理事会常任議長(大統領)、バローゾ欧州委員長らと相次いで会談した。親露派とされる大統領だが、2月25日の就任後、最初の外遊先にEUを選び、経済・エネルギー分野などで欧州との関係を強化する姿勢を強調した。
5日のモスクワ訪問に先駆けてのブリュッセル入りを欧州側は「EUウクライナ関係の重要性を示すもの」(ロンパウ議長)と歓迎している。ヤヌコビッチ大統領は記者会見で外交の重点政策として(1)EUへの統合(2)ロシアとの建設的な関係(3)米国との友好関係--を挙げ、「東と西の懸け橋」の役目を果たす考えを強調した。
一連の会談ではウクライナ経由で欧州に運ばれるロシア産天然ガスの安定供給問題が話し合われた。ロシアによるウクライナ向けガス供給停止のあおりを受けてきたEUは再発防止を求めており、ヤヌコビッチ大統領はロシアとの関係改善と国内のガス産業部門の改革によって欧州向けガスの安定供給に努める考えを強調した。
EUはユーシェンコ前大統領時代にウクライナを「欧州国家」と規定し、貿易を自由化する「連合協定」の締結交渉を開始した。交渉はウクライナ内政の不安定化で遅れてきたが、双方は1日の会談で「1年以内の妥結」を目指す方針を確認し、相互の査証免除協定の締結に向けての行程表作成で合意した。
ウクライナの安定を望むEU側はヤヌコビッチ大統領に対し、経済危機から脱却するための経済・政治改革を促した。国際通貨基金(IMF)は政治混乱の収拾を対ウクライナ融資の再開条件にしており、EUは新政権による改革努力を支援する用意を表明した。
ユーシェンコ前大統領は欧米の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO、加盟28カ国)への加盟方針を掲げ、ロシアの反発を招いた。ヤヌコビッチ大統領は「欧州の非同盟国家を目指す」とNATO非加盟路線を宣言しており、経済・政治分野主体のEUとは関係が強化される可能性がある。【3月1日 毎日】
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【ロシアの懸念】
ロシアは、最初の訪問はEUに譲った形となりましたが、親ロシア派政権誕生でウクライナがNATOに加盟するという最悪の事態は避けられることになり、安全保障上の懸念はひとまず払拭されました。
ただ、経済危機にあえぐウクライナが対ロシア関係改善にかじを切っても、ロシアが得るものは少なく、かえって財政面などで負担が増えるとの懸念も出ているとも報じられています。
****ウクライナ新政権 親露派なのに喜べぬロシア 歓迎ムード…本音は財政負担懸念****
半面、大きな代償を強いられると懸念する識者も、ロシア国内では少なくない。
ストロカン評論員は露コメルサント紙で、ウクライナが国際通貨基金(IMF)の財政支援に依存している現状に触れ、「(ウクライナ新政権が)どの国にまず借金を申し込むかは明らかだ」と分析。ヤヌコビッチ氏がロシアの天然ガスをより安価で購入できるよう契約を見直す意向を表明していることから、政治評論家のラジホフスキー氏は政府系ロシア新聞で、「(新政権が)『親露国家への割引価格』を要求してこなければ幸いだ」と評した。
民主化政変「オレンジ革命」から5年。念願の親露派政権発足が現実味を増す一方で、ロシアがウクライナを持てあます局面も出てきそうだ。【2月22日 産経】
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これまで再三問題を引き起こしてきた天然ガスの価格交渉(西欧側からすれば、天然ガス安定供給の問題)が、今後ウクライナ・ロシア間でどのように扱われるかが注目されます。
【最大の過ちは「ティモシェンコ」】
ところで、大統領選挙後の一連の報道の中で最も面白かったのは、予想通り1回目の投票で惨敗したユーシェンコ前大統領が「5年間で最大の過ち」について、「ティモシェンコ(首相を任命したこと)」と指摘したコメントでした。【2月17日 毎日より】
ユーシェンコ前大統領のティモシェンコ首相への“恨み”が、切実に伝わります。
オレンジ革命を導いた両者の不毛の対立が政治的空白を生み、経済悪化に適切に対応できず、結果的にヤヌコビッチ新大統領誕生へとつながったと言えます。