
(ナイジェリア ラゴス “flickr”より By satanoid
http://www.flickr.com/photos/satanoid/4185054256/)
【ポストBRICs】3月17日号Newsweekに、「アフリカ ポストBRICsの実力」「次の中国 アフリカの陽が昇る」と題する記事がありました。
中国・インドなど新興国の後を追いかける形で、アフリカの経済成長が今後も見込まれるという内容です。
見出しには“中流層の成長で内需が拡大”“中国とインドの背中が見えてきた”ともあります。
アフリカ関連のニュースというと、スーダンやソマリアのような内戦・貧困といったネガティブなものが殆どで、思わずため息をつきたくなるものが少なくありません。
ただ、広いアフリカ、多くの国々が存在するアフリカですので、着実な経済背長を実現している国もまた少なくないことは事実でしょう。今後さらに成長が加速して、貧困イメージを払拭できるのであれば何よりです。
上記記事からアフリカの経済背長に関して抜粋すると、
「一人当たりGDPで、07年と08年、中国とインドと並ぶ成長を実現した地域がアフリカには3つある。アフリカ南部、ビクトリア湖を囲むケニア・タンザニア・ウガンダの大湖畔地域、ソマリア半島だ。」
(干ばつや内戦で苦しむソマリア半島「アフリカの角」の成長率がなぜ高いのかはよくわかりません。ベースになる数字が低すぎるせいでしょうか・・・)
「世界が景気後退のどん底にあった09年、アフリカ大陸の成長率は2%近くあった。中東とほぼ肩を並べ、中国とインドを除くすべての地域を上回る数字だ」
「IMFの最新見通しによると、10年と11年は、アフリカは年率4.8%で成長する。アジア以外では最も高く、ブラジル・ロシア・メキシコ・東欧など他の新興国を上回る。一人当たりの所得で見ればアフリカはすでにインドより豊かだし、中国より豊かな国も10以上ある」(中国・インドに今なおいかに多くの貧困層が存在するかということの裏返しでもありますが)・・・とのことです。
注目すべきことは、こうしたアフリカの成長の原動力が、原油やダイヤモンドのような資源輸出ではなく、内需の急拡大によるものだということです。
アフリカでは中流層の台頭が著しく、人口10億人のうち、最大3億人にも上るそうです。
こうした内需拡大を受けて、サービス産業がGDPの40%に達し、インドの53%に迫っているとも。
各国政府による産業の規制緩和が進み、インフラも整備されてきており、ケニアやボツワナでは、政界水準の民間病院、私立学校、有料道路などを誇っているとか。
特に通信インフラ整備が、成長へ大きく寄与しているようです。
企業家精神も旺盛で、国外から帰国した起業家が変革を推し進めており、南アフリカ・ガーナ・ボツワナでは前例のない頭脳流入が始まっているそうです。
【すべてが成長分野】
アフリカ最大の人口1億4800万人を擁し、豊富な石油資源にも恵まれた地域大国ナイジェリアの最大都市ラゴスは、高級マンション・オフィスビル・道路など、どこを見ても工事だらけという活況だそうで、「足りないものばかり。つまりすべてが成長分野ということだ」「ナイジェリアほど儲かる国はない」といった声も紹介されています。
過去1年にナイジェリアに帰国した高学歴専門職は1万人に上るとか。
【宗教対立、イスラム過激派、石油収益配分】
ナイジェリアというと先ず連想するのは、中部地域での宗教対立。つい先日にも、イスラム教徒によるキリスト教徒襲撃があったばかりです。
****ナイジェリアでキリスト教徒の村襲われる、500人死亡の情報も*****
アフリカ中西部ナイジェリアのプラトー州の州都ジョス近郊で7日夜、キリスト教徒の村が対立するイスラム教徒の襲撃を受け、州政府発表によると500人を超える死者が出ている。一方、現地入りしている記者や地元の人権活動家らによると、死者数は200人超との情報もある。
地元当局や目撃情報によると、ジョス近郊のドゴナハワ村など3村が夜間に襲撃を受け、なたを手にした暴徒が村々を放火して回った。犠牲者の多くは女性や子どもたちだという。ドゴナハワにいる記者の1人は103遺体を確認した。また、襲撃にからみ、これまでに95人が逮捕された。
地元住民によると、襲撃した側はイスラム教徒の遊牧民たちで、標的とされたのはキリスト教徒が多数を占めるベロム族。2つの氏族はウシの盗難をめぐって対立を深めていたという。
ジョスでは1月にも対立する宗教、氏族間で衝突が発生した。この時も、警察は少なくとも326人が死亡と発表したが、宗教活動家や人権活動家らは550人以上が死亡したとし、発表された死者数に食い違いがあった。1月以降、市内周辺の一部では現在も夜間外出禁止令が敷かれている。【3月8日 AFP】
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北部地域では、昨年8月、貧困や失政を背景に、死者700人以上を出すイスラム過激派武装勢力と治安当局の衝突もありました。
南部ニジェール川デルタ地帯では、石油利権も絡んだ民族紛争が長年続いていることも周知のところです。
昨年10月には、主要武装勢力が政府との和平協議に応じる姿勢を示し、無期限の休戦を宣言したとも報じられていますが・・・。
“地元紙は約1万5000人が武装解除したと報じているが、石油収入の地元還元を巡って、南部の産油地帯で石油施設への攻撃を繰り返してきた主要武装勢力「ニジェールデルタ解放運動(MEND)」と政府の交渉は難航が予想される上、数千人の残存勢力が活動を続けると見られており、治安の先行きは不透明だ。ナイジェリアでは1950年代の油田発見後も解消されない貧困への不満を背景に、様々な勢力が武装蜂起を起こしてきた。”【09年10月26日 読売】
【混乱と成長】
こうした貧困・格差・失政を背景にした混乱ぶりと、先述したような経済的活況・・・どちらが実像なのか?
おそらく、どちらもナイジェリアの現在を示すものなのでしょう。
中国にしても社会問題化する大きな格差を抱え、チベット・ウイグルのような政治的不安定要素もあります。
インドの貧困層はいまだ膨大で、東部を中心にインド共産党毛沢東主義派(毛派)が跋扈する現状があります。
ナイジェリアに混乱と成長の2側面があっても不思議ではないでしょう。
不思議ではないのですが、若干の懸念もあります。
アフリカで繰り返されてきた、そして今なお続く内戦・紛争を眺めると、命の尊さとか社会正義・公正というような日本や欧米社会で受容されている価値観が通用しないようにも感じます。
そうした社会規範・モラルが希薄な状態で、欲望に牽引された経済活動が活発化するとき、弱肉強食的な、儲けるためには手段を選ばないような世界になってしまうのでは・・・という不安も感じます。