孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  7日連邦議会選挙 “中東で最も元気のいい民主国家”

2010-03-05 22:06:11 | 国際情勢

(バグダッドでの選挙集会 “flickr”より By Al Jazeera English
http://www.flickr.com/photos/aljazeeraenglish/4403694983/in/set-72157623416917237/)

【イラク流民主主義の誕生】
イラクでは05年12月以来の連邦議会選挙が明日7日に行われます。
一昨日のブログ「イラク 国民議会選挙 遠のく国民和解 強まるイランの影響」で、旧フセイン政権支配政党であるバース党関係者排除の動きによってスンニ派勢力が反発を強めており、「国民和解」実現が危ぶまれる状況となっていることや、イランの影響力拡大をしめす「バース党排斥委員会」を率いるチャラビ元副首相の行動などを取り上げました。

しかし、こうした悲観的な見方は事実誤認のようで、宗派間対立の懸念とか、仲裁にあたる米軍の縮小といった不安はあるものの、大枠としてはイラクにも民主主義が根付き始めているという非常に希望の持てる記事「イラク流民主主義の誕生 暴力への拒否反応と民主主義への情熱 終戦から7年、ようやく大きな転機を迎えた」がNewsweekの3月10日号にありました。

上記記事より若干抜粋すると、
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“主要宗派すべてと多くの政党から約6100人が立候補、利害も野心も激しく対立している。それでも政治家の間には、みな同じイラク人だという意識が芽生えてきた。そして武力ではなく議論で決着をつけるようになってきた。以前なら大統領令(あるいは駐留米軍による有形無形の圧力)を用いるしかなかったような事案も、今は議会での議論を通じて決まるようになった。”

“(バース党との関係から立候補が認められなかったスンニ派有力議員ムトラク氏の件については)大切なのはそれで何が起きたかではなく、何がおきなかったかだ。この後、暴力に訴える動きは起きず、ムトラクも選挙ボイコットの呼びかけをやめた。立候補を表明しながら候補者リストから除外された人数は、結局150人程度。シーア派による魔女狩りだとか、クルド人の陰謀などと、テレビでスンニ派の政治家が怒鳴ることもなかった。その他の有力なスンニ派の政治家も低姿勢を保ち、その事実のほうがかえって注目された。”

“(立候補者のひとりアルルバイエ氏は)「私たちは妥協という技を学んだ。ある法案に関してはクルド人とシーア派が組んでいる。シーア派がスンニ派と、またスンニ派がクルド人と組むこともある」、(米政府高官は)「この国の政治家たちは争ってばかりいるが、それでも必要な数の支持を集めて法案を成立させている」”

“今のイラクでは、もはや有権者が宗派別の候補者リストに無条件で従うことなど期待できない。”

“イラクのメディアは中東では最も自由かつ大胆に報道を行っている。800余りのテレビ、新聞、ラジオが政治家や財界人の不正を果敢に追跡しているのだ。女性たちも声を上げるようになり、地方議会の議席の25%を女性が占めるまでになった。最も心強いのは、イラク軍が国民に信頼されるようになったことかもしれない。宗派間の緊張が高まったり、米軍が撤退すれば、(今も爆弾テロを繰り返している)テロ組織が再び活発になるという見方もある。しかし、もはや中央政府が機能停止に追い込まれるような事態にはならないだろう。第一、国民のほとんどが暴力には拒否反応を示す。”

“(イランの革命防衛隊の特殊部隊であるクッズ部隊のイラク国内での活動もへっており)「以前は月に1回くらい来ていたが、最近では6、7か月に1回になった。クッズの指揮官はイラン国内の作戦に追われ、イラクに構っていられないらしい」”

“イラクの民主主義はまだうまれたばかりだが、レバノンを除いて、イラクはいま中東で最も元気のいい民主国家だろう。(莫大な石・天然ガス資源を有する)新生イラクは地域の大国として、サウジアラビアやイランの双方を脅かすような大国として、頭角を現しつつある。善かれ悪しかれ、民主的かどうかはともかく、新生イラクは中東地域で一目置かれる大国になるだろう。これがアメリカの勝利のほろ苦い現実だ。”
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そこまで楽観視していいものか・・・という感もありますが、選挙後も、是非とも同様の見方でいられることを期待したいものです。
それにしても、とかく女性の社会進出や人権が問題となるイスラム国家のイラクで女性議員が地方議会で25%とは・・・日本の民主主義も改めて考え直す必要があるかも。

****女性議員数18.8%に=日本は97位-187カ国の国会調査****
世界各国の議会関係者らで組織する列国議会同盟(IPU)は4日までに、各国国会(187カ国)での女性議員(上院を含む)の割合について、平均値が2010年1月末時点で18.8%に達したと発表した。15年前の1995年(11.3%)から7ポイント以上アップした。
国別ランキング(日本は衆院)では、1位はルワンダ(56.3%)、2位はスウェーデン、3位は南アフリカ共和国。日本は97位(11.3%)で、前年の104位から順位を上げたものの、55位の中国、81位の韓国に水をあけられた。【3月5日 時事】
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あと、シリアの影響を受けたヒズボラの存在で政治が膠着しがちだったレバノンが、そんなに“中東で最も元気のいい民主国家”だとは知りませんでした。

【続投を狙うマリキ首相派に勢い】
それはともかく、イラクでは選挙妨害のテロも報じられています。
****イラク議会選の事前投票始まる、自爆攻撃相次ぎ14人死亡*****
イラクで4日、治安要員や服役囚、入院患者らによる連邦議会選挙の事前投票が7日の本投票に先立ち行われた。その一方で投票所を狙った自爆攻撃などが相次ぎ、兵士7人を含む14人が死亡、48人が負傷した。
選挙を控えたイラクでは、国際テロ組織アルカイダのイラク内勢力の指導者、アブオマル・バグダディ師が「武力による」選挙妨害を予告していることから厳重な警戒態勢が敷かれており、首都バグダッドだけで治安要員20万人が配備されていた。【3月4日 AFP】
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そういった問題はあるものの、新生イラクに向けた総選挙が実現しそうです。
情勢は、地方選挙で圧勝したマリキ首相の勢いがやはり強いことが報じられています。

****米軍撤退に影響も=7日に議会選、首相派が優勢-イラク*****
2003年のイラク旧フセイン政権崩壊後2回目となる連邦議会選(定数325)の投票が7日実施される。11年末までの米軍完全撤退に向け、治安回復や政治の安定を担う新政権の姿を決める選挙となり、結果は撤退日程に影響を及ぼしそうだ。
今回は前回選挙をボイコットしたイスラム教スンニ派勢力も参加、正統性のある選挙の体裁が整った。内戦の瀬戸際に陥った宗派間抗争で多数の犠牲者が出たのに嫌気した世論を背景に、各派を糾合したマリキ首相率いる「法治国家連合」や、アラウィ元首相の世俗勢力「イラキーヤ」が最有力となっている。ただ、単独過半数はあり得ず、連立協議が選挙後の焦点となる。
両勢力に、シーア派のイスラム最高評議会や強硬指導者サドル師派が連携する「イラク国民同盟」、クルド2大政党の統一会派「クルド同盟」が絡む展開で、計約6200人の候補が争う。宗派間対立を収めて治安回復へ道筋を付けたマリキ首相は続投を狙っており、他勢力を突き放して権力基盤を固めたい考えだ。【3月5日 時事】
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クルド人系はクルド愛国党(PUK)、クルド民主党(KDP)の2大既成政党に加え、昨年7月の自治議会選挙で躍進した「変革運動」も国政進出を図っています。新生イラクにおいては、アラブ系中央政府とクルド自治政府の緊張(キルクークの自治区への編入問題や石油利権の問題)は非常にデリケートな火種となります。

とにもかくにも、新生イラクが民主主義国として、今回選挙でその基盤を固めることができることを願います。

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