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(2月1日 タイ北部のチェンセーン近郊“ゴールデントライアングル”観光の際に撮影した大河メコン 右岸がラオス、左岸がミャンマー、撮影地点はタイです。このときは“異常渇水”は感じませんでしたが・・・)
【「わが国は誰も非難するつもりはない」】
東南アジアの大河メコン川は、流域の中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムにとって、農業・漁業・工業用水・飲用水・観光など、その生活を支える基盤です。
また、このメコン流域は日本や、特に最近では中国の主導による道路建設などの開発が進んでいるエリアでもあります。
そのアジアの大河メコンが、中国のダム建設によって異常渇水に陥っているとの報道がありました。
****「中国のダム原因」 メコン異常渇水 タイ反発******
インドシナ半島を流れるメコン川の水位が現在、ほぼ20年ぶりの低さまで下がり、流域のタイ、ラオス、ベトナムで農作物に被害が出たほか、船を使った人や物の輸送も滞り、地域経済にも深刻な影響を及ぼしている。タイでは地域住民が、メコン川上流に中国が新たに建設したダムが原因として反発を強めている。中国政府はダムの影響を否定しているが、4、5月は例年、メコン川の水位が最も下がる時期のため、放置すれば住民の不満がさらに高まるのは確実だ。
≪20年ぶりの低位≫
メコン流域各国で構成するメコン会議(MRC)が2月末に発表した資料などによると、メコン川の現在の水位は大渇水となった1992年に並ぶ低さとなった。タイ北部チェンライ県では通常、海抜2・2メートルある水位が2月には33センチまで減少した。原因については、昨年からの降雨量が例年の半分以下だったことなどをあげている。この結果、各地で船による人や物資の輸送ができず、潅漑(かんがい)用水の不足で農作物の成長にも影響が出ている。
なかでも被害が大きい同県チェンコーンの住民らは2月末、「2年前の大洪水と今度の渇水は、中国が上流に作った4つのダムの運用が原因」として、中国がダムからの放水を行うよう働きかけることをタイ政府に要求。同時に4月初めにバンコクの中国大使館前で抗議デモを行うと宣言した。
こうした事態に、タイのアピシット首相は7日、地元テレビの番組で、中国に善処を求める考えを示した。ただ、フランス通信(AFP)によると、タイ外務省は「わが国は誰も非難するつもりはない。中国に求めているのは話し合いであり、彼らとともに問題を解決したい」として、中国側を極力刺激しないようにする構えだ。
≪越・ラオスは沈黙≫
水位の減少による影響はラオスやベトナムでも出ている。ラオスのビエンチャン・タイムズによると、同国北部では、やはり船を運航できず、観光ツアーが中止に追い込まれているという。一方、ベトナムでは、メコン川が南シナ海に流れ込むメコンデルタ一帯で、川の水量が減ったために、海水が逆流して田んぼが塩水をかぶってしまい、収穫に影響が出そうだという。
ただ、両国とも原因については「自然の問題」(ビエンチャン・タイムズ)などとして、中国には触れていない。【3月9日 産経】
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タイ北部のチェンライには、つい先月、観光で行ってきたばかりです。
チェンコーンも近い、ゴールデントライアングルで有名なチェンセーンでは、メコン川をボートでクルージングし、対岸ラオス領の小島などにも上陸したりしました。
その時は、特別“異常渇水”という印象はありませんでした。
渇水が中国のダム建設による影響なのか、温暖化の影響なのか、それとも単なる一時的自然現象なのか・・・そのあたりはわかりませんが、そうした原因とは別に、タイ外務省の冷静なと言うか、腫れものに触るような対応、ベトナム・ラオスの沈黙といった各国の対応も興味深いものがあります。
この地域での存在感を増している中国への配慮があるのでしょうか。
【“ダムは良いことばかり”】
なお、当の中国は、中国のダム建設批判に反発しています。
****「下流の国にも利益」 中国強調 メコン異常渇水*****
中国によるメコン上流でのダム建設に東南アジア関係諸国が反発していることはここ数年、中国国内でしばしば話題となっており、中国外務省の何亜非次官は2008年3月、「中国は水利施設を建設するとき、下流の国々の利益を十分考えており、配慮をしている」と述べ、「ダム建設はほかの国に悪い影響を与えていない」との見解を示している。
中国紙「科技日報」はメコン川の開発に関する09年2月の特集で、「下流の国で起きた洪水や干魃(かんばつ)は自然現象であり、ダム建設との因果関係はない」と主張、中国のダムはむしろ川に水の量のバランス良く調整する役割を果たしており、下流の自然災害の被害を減していると強調した。
同紙はまた、ダムが発電した電力は中国国内だけではなく、タイ、ベトナム、ラオスなどに提供されていると指摘。“ダムは良いことばかり”であるにもかかわらず、東南アジア諸国の世論が中国に反発するものとなっているのは「東南アジア諸国で活動している欧米系のNGO(非政府組織)がメディアを利用して意図的に中国のイメージダウンを図ろうとしていることが影響している」との独自の見解を掲載した。【3月9日 産経】
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“ダムは良いことばかり”というのは、ダムが不人気な最近の日本の感覚には沿わないものがあります。
また、“欧米系のNGOがメディアを利用して意図的に中国のイメージダウンを図ろうとしている”云々は、いささか被害者意識過剰で、“大国”中国にはそうした反射的反発はそろそろ卒業してもらいたいような気もします。
【「東南アジアの電源供給国」】
もっとも、中国を弁護する訳でもありませんが、メコンでダム建設を進めているのは何も中国だけではありません。
2年以上前の古い記事ですが、ベトナムがラオス領内で進めるダム建設、ラオスの電力開発を報じたものがあります。
****ベトナム、ラオスのメコン川流域に巨大水力発電ダム建設計画*****
急速な産業発展に伴いエネルギー不足に悩むベトナムが、隣国ラオスに20億ドル(約2300億円)規模の巨大水力発電ダムを建設するプロジェクトを立ち上げる。
今年度8.4%の経済成長率を遂げたベトナムは、電力需要が毎年倍増する勢いだ。しかし、水力発電の供給元となる水源が国内には乏しいことから、水源豊富な隣国ラオスに目をつけた。
ダム建設予定地は、ラオス北部の古都ルアンプラバン近郊のメコン川流域。ベトナム電力大手ペトロベトナム電力総公社(PVパワー)は、翌年4月をめどに事前調査をまとめるとしている。完成すれば、現在ラオスで稼働中の既存ダムを超える最大規模のダムとなる。
■「水源」で外貨獲得
インドシナ半島の内陸国ラオスは、アジアの最貧国の1つに数えられるが、メコン川など水源に恵まれることから、「東南アジアの電源供給国」を目指すべく、水力発電に力を注ぐ。
現在、ラオス国内で稼働中のダムは10基以下だが、70基を超える水力発電ダム開発の計画が進行中だ。ラオス政府は、国内のダムで発電される電力を隣国のベトナムやタイに売却したい考えだ。
現在、建設着工中の最大規模のダムは、フランスとタイ資本による「ナムトゥン第2ダム(Nam Theun 2)。稼働開始は2009年の予定だ。このほか、中国やタイもラオス国内のメコン川流域にダム開発を計画している。
■浮上する環境問題
一方で、環境活動家などからは、こうしたダム開発に伴う、地元住民の立ち退き問題や、メコン川流域の希少な生態系の破壊を懸念する声もあがっている。
米環境団体「International Rivers」のカール・ミドルトン氏は、ダム建設によるメコン川の水環境変化で、魚の減少など生態系への影響を危ぐする。
「メコン川は流域住民に、飲料水、食料となる魚、田畑に実りをもたらす肥沃な土壌、交通手段を提供してきた。メコンはラオスの人々にとって生活の源なのだ」【07年12月26日 AFP】
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【熾烈になる水資源争奪戦】
更に言えば、水をめぐる国際紛争はメコンだけの問題ではありません。
以前バングラデシュを旅行した際、ガンジス川の水位低下に関して、インドのダム建設と水量調整のせいだと怒る現地の方の話も耳にしました。
水資源をめぐる国際的な対立・紛争は、今後世界における中心的な問題になるとも予想されています。
ヒマラヤ氷河について、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、報告書のなかの「ヒマラヤ氷河が2035年までに消滅する」との記述は科学的根拠がなく誤りだったと認め、陳謝しましたが、“2035年”はともかく、多くの報告があるように今後ヒマラヤ氷河が縮小していくことになれば、メコンやガンジスなど、ヒマラヤ氷河を源とするアジアの河川は将来的には干上がってくることにもなり、水資源の争奪戦は流域各国の生存を賭けた熾烈な争いにもなっていくことが懸念されます。
オス連絡橋にゴーサイン
シター副官房長官は、政府が北部チェンライ県チェンコン郡とラオスのフアイサイの間に流れるメコン川に架ける橋の建設プロジェクトを承認したと明らかにした。今回政府はプロジェクト予算の半分にあたる15億バーツを承認しており、残り半分は中国に融資を求める予定。この橋は、整備計画中のバンコクと中国・雲南省の昆明とを結ぶ幹線道路上に位置する。