(昨年4月5日 プラハで「核兵器なき世界」について演説を行ったオバマ大統領 今回このプラハでSTART1後継条約署名を行う予定とか “flickr”より By Adam j r
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【MDで土壇場の足踏み】
第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約をめぐるアメリカとロシアの交渉がようやくまとまったようです。
昨年7月の首脳会談で、戦略核の弾頭数を1675~1500発、大陸間弾道ミサイルなどの運搬手段を1100~500に減らすことで大枠合意しました。しかし、核弾頭削減の検証方法や運搬手段の上限数を巡る溝が埋まらず、START1が失効した昨年12月までの署名には至りませんでした。
その後、今年2月にジュネーブで交渉担当者による協議を再開し、核弾頭や運搬手段の上限数、相互検証の方法などについて最終的な合意を目指していましたが、最終段階でアメリカのミサイル防衛(MD)計画に歯止めをかけたいロシア側の抵抗があって足踏みしていました。
米ロ関係を「新冷戦」といわれるほど悪化させたMD計画について、オバマ政権は昨年9月、計画の棚上げを発表。代わりに「パトリオット」をポーランドやルーマニアに配備することを検討し、ブルガリアでの配備も浮上しています。
これに対し、ロシアのセルジュコフ国防相は3月19日、ロシアへの脅威が欧州で発生した場合、欧州にあるロシアの飛び地・カリーニングラード州に新型ミサイルシステム「イスカンデル」を配備すると述べ、アメリカの動きを牽制しています。
“オバマ米大統領が昨年9月に発表したMD計画の見直しについて、ロシアでは直接の脅威はないとの見方が主流だ。だが、軍関係者らから懸念の声もあり、ラブロフ外相も米国に「明確な説明」を求めていた。背景にはSTART1を「不平等条約」とみて、今回の交渉で戦略戦力均衡の回復を目指すロシアの思惑が指摘されていた。”【3月25日 毎日】
このMD問題の処理がどのようになされたのかは不明ですが、“「条約でMDとの関連を明記すれば米上院が批准しないことは明白だ」とし、米露ともに国内を説得できる「付属文書」のようなものを出すことで決着したとみる。”【同上】とか、条約前文で法的拘束力のない文言で触れるとか言われています。
【署名は4月8日 プラハで】
「すべての書類に関して、合意に達した」とするロシア側と、「合意間近だ」とするアメリカ側の表現に若干の差異はありますが、アメリカ側からも、チェコ・プラハでの署名といった話が出ていますので、ほぼ合意の路線にあるのでしょう。
もともと米ロ双方とも核弾頭大幅削減については依存のないところで、交渉は当初から楽観視されていましたが、やはりそれなりの時間は要しました。(それでも、異例の早さであることには違いはありませんが)
****ロシアがSTART1後継条約で米と合意と表明、米は合意間近との認識*****
ロシア政府は24日、米露2カ国が交渉を続けてきた第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約について、両国が合意に達したと明らかにした。一方、米政府は一部の問題については、解決する必要があるとの見解を示した。
ロシア政府高官は「STARTの署名に向けたすべての書類に関して、合意に達した」と指摘。ロシアのメドベージェフ大統領とオバマ米大統領が署名の時期を決定すると述べた。
一方、ギブズ米大統領報道官は定例会見で「われわれはSTART条約について合意間近だ。ただ、メドベージェフ大統領とオバマ大統領が再び協議するまでは合意には至らない」と指摘。「いくつか解決しなければならない点がある」として、両首脳は数日中にも協議を行うとの見方を示した。
匿名のロシア政府高官は、ギブズ報道官の発言について「米露は大枠では合意しているが、引き続き解決が必要な技術的な詳細事項がある」と述べた。
米上院外交委員会のルーガー委員(共和党)は、米政府は4月8日にオバマ大統領が昨年4月5日に「核兵器なき世界」について演説を行ったチェコの首都プラハでの署名を望んでいると指摘。「大統領は署名に向けて前進していると確信している」と述べた。
また委員自身は、批准に向け議会で支援することができるとの認識を示した。条約の批准には、上院の3分の2の承認が必要となる。【3月25日 ロイター】
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オバマ米大統領が昨年4月、「核兵器なき世界」について演説したプラハでの署名によって核軍縮交渉の成果をアピールし、4月12~13日に米ワシントンで開かれる核安保サミット、更に、5月に行われる5年に1度の核不拡散条約(NPT)再検討会議に向けて、核不拡散や核テロ対策の動きにはずみをつけようとするアメリカ側の狙いと見られています。
【カットオフ条約交渉、進展なし】
核軍縮については、核兵器用の高濃縮ウラン、プルトニウムなどの生産を禁止する兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約交渉の早期開始を目指す協議がジュネーブ軍縮会議で行われていましたが、こちらは進展がありませんでした。
****核カットオフ条約交渉、軍縮会議の協議打ち切り*****
ジュネーブ軍縮会議(加盟65か国)は23日、今年の第1会期の協議を終了した。
日本や欧米など先進国は、5月に米ニューヨークで開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議前に、兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約交渉の道筋をつけようとしたが、パキスタンの反対で、交渉を行う作業部会の設置を盛り込んだ年間作業計画案を採択できる見通しが立たず、この日で協議を打ち切った。第2会期は、再検討会議終了後の5月31日から。
この日の会合では、カナダの大使が、「軍縮会議以外の場で交渉を行うことも模索しなければならない」と述べ、国連総会の下に条約交渉のための特別委員会を設置する可能性に言及するなど、全会一致が原則の軍縮会議では、カットオフ条約交渉は困難という認識が広がっている。【3月24日 毎日】
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【NPR 核兵器の役割低下の方向】
オバマ大統領は1カ月以内には、アメリカの核政策の指針となる核態勢見直し(NPR)報告書を発表するとされています。
オバマ米大統領は3月5日の声明で、NPRで「核兵器の数を削減し、国家安全保障戦略における役割を低下させる」ことを宣言すると述べています。
昨年中、その後、今月1日に予定されていたNPR発表が遅れた背景には、「核兵器のない世界」をめざすオバマ大統領の意向をどこまで取り込むか、政権内での激しい論争があったようです。
****米国:核態勢見直し…報告書の策定作業が難航*****
1日に発表する予定だった米国の核政策の指針となる核態勢見直し(NPR)報告書の策定作業が難航し、今月下旬以降に遅れる見通しが強まっている。核兵器の役割の一部を通常兵器に担わせ、核兵器の役割を低下させる方向性では一致しているものの、核攻撃の対象をどこまで絞り込めるかを巡って政権内で激しい論争となっている模様だ。「核兵器のない世界」をめざすオバマ大統領の指導力が問われる局面に入りつつある。
米政府高官は「従来のNPRの枠を超え、今回は核不拡散や核安全保障にまで触れる広範な内容になる。通常兵器による抑止能力を拡大する方針を示すことになるだろう」と今回のNPRの意義を強調する。
すでに高官の発言を通じて、一部の方針は示されている。
バイデン副大統領は2月18日の国防大学の演説で「技術の進化により、核兵器と同じ目的が通常兵器で達成可能になった」と表明した。通常弾頭を搭載した長距離ミサイルで核ミサイルの役割を代替させるという、米戦略軍の構想を念頭に置いた発言だった。
計画を継続するか議論になっていた信頼性が高い新型核弾頭(RRW)計画については、タウシャー国務次官が同月17日の講演で「死んだものでよみがえらない」と明言した。
また、核弾頭の削減については、米露間で第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約の交渉中で、昨年7月の米露首脳会談で1500~1675個まで減らすことで合意済み。今回は、このレベル以下の「劇的な削減」(米政府高官)という方針が盛り込まれる予定だ。
一方、最も難航しているのが、核以外の大量破壊兵器を持つ敵に対して「核攻撃はしない」と宣言するかという点。前向きな文言を入れる方向で調整しているが、「同盟国の懸念」などを理由に反対意見も根強い。
また、相手が核兵器で攻撃してこない限り核攻撃しないと宣言する「先制不使用」については、複数の政府高官が「現実的ではない」などと反対の意向を表明しており、見送られる方針だ。
このため、伝統的な抑止力重視の考えから脱却できておらず、不十分な内容だという批判も出ている。憂慮する科学者同盟(UCS)のスティーブン・ヤング上級研究員は「オバマ大統領が(昨年4月の)プラハ演説で掲げた革新的な考え方は米政権内では共有されなかった。アフガニスタン、イラク戦争など課題を多く抱え、大統領自身が十分に時間を割けなかったというのが実態だ」と語る。
NPRは当初、昨年内の取りまとめを目指していたが、3月1日まで延期すると発表されていた。米露の核軍縮交渉が難航したうえ、米政府内で、抑止力の維持と削減可能な核兵器のバランスを巡る議論が予想以上に長期化した。NPRは、今回が3回目。【3月2日 毎日】
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【「先制不使用」と日本核武装】
なお、「先制不使用」については、アメリカの「核の傘」に頼る日本など同盟国の反応が懸念されています。
****日本の核武装「懸念なし」 米科学者、先制不使用でも*****
米科学者らで組織する「憂慮する科学者同盟」は23日、オバマ米政権が策定中の新核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」で「核の先制不使用」を宣言した場合も、米保守派が懸念する日本の核武装はあり得ないとする報告書を発表した。NPRでは見送られる公算が大きいが、報告書は日本政府当局者とのインタビューなどから「日本は先制不使用を支持する」と分析、宣言に踏み切るよう促している。【3月24日 共同】
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日本の核武装は国内では殆ど議論されることはないですが、海外ではそれなりに懸念されているようです。