(マレーシアで活動するNLDの青年メンバー “flickr”より By kokophoto
http://www.flickr.com/photos/25599354@N08/2416732311/)
【踏み絵を迫られたNLD、不参加を決定】
ミャンマーの民政移管を目指す20年ぶりの総選挙については、軍事政権が定めた政党登録法によると、有罪判決を受けたり服役中の人物は、選挙に参加する政党の党員になれないことになっており、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが書記長を務める最大野党・国民民主連盟(NLD)が選挙に参加するためには、米国人自宅侵入事件で有罪判決を受け自宅軟禁中のスー・チーさんや拘束中の多くの党関係者を排除して、5月上旬までに政党登録する必要があります。
一方で、これを拒んで選挙に出なければ、政党として存続できない規定となっています。
スー・チーさん自身は23日、「個人的な意見」と断ったものの、「不当な法の下での(総選挙参加のための)政党登録は、受け入れられない」と、総選挙への参加に反対の意向を表明していました。
このような形で、政党として存続するためにはスー・チーさんの排除という“踏み絵”を迫られていたNLDですが、党としても総選挙不参加を決定したことが報じられています。
****ミャンマー総選挙に不参加 スー・チーさんの政党NLD****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが書記長を務める国民民主連盟(NLD)は29日、ヤンゴンの党本部で中央執行委員会を開き、軍事政権が年内に予定している総選挙は「公正さを欠く」などとして、参加しないことを決めた。最大の民主化勢力の不参加で、軍政主導の「民主化プロセス」に対する国際社会の非難が高まるのは必至だ。【3月29日 朝日】
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“国際社会の非難が高まるのは必至”ではありますが、これまでの経緯を見ると、そうした国際社会の批判でたじろぐような軍事政権ではないでしょう。
軍事政権としてもNLD参加で国際社会の承認を得たい意向はあるようですが、NLD側がボイコットするなら、それはそれで・・・といったところではないでしょうか。
【指導力欠如のNLD】
国民の意思を政治に反映していくためには、軍事政権への全面降伏と揶揄されようとも、新たな政治枠組みのなかで一定の勢力を維持していく必要があり、総選挙には参加していくべきと思われます。
スー・チーさんの処遇や、90年選挙、新憲法の不当性にとらわれる限り、何もできない現実があります。
政党としての資格を失った場合、NLDにどのような活動ができるのでしょうか?
指導層の高齢化が進むNLDには、こうした逆境を乗り越えて現実に対応していくだけの力が残っていなかった・・・とも思われます。
****ミャンマー野党NLDの落日*****
≪絶縁迫る軍政≫
ミャンマーの軍事政権は年内の総選挙を前に、民主化運動の旗手アウン・サン・スー・チーさん率いる野党・国民民主連盟(NLD)に新たな攻勢に出た。自宅軟禁が続くスー・チーさんとの絶縁を迫る選挙法を発表したのだ。踏み絵を突きつけられたNLDはしかし、軍政の大弾圧や指導部の高齢化ですでに瀕死(ひんし)の状態である。(中略)
「国の問題の根は2つの金」という言葉がこの国では流布している。ビルマ語で金は「シュエ」という。軍政の最高指導者、タン・シュエ議長とNLDのアウン・シュエ議長の2人をあてこすった言葉だ。軍政の不人気は明らかだが、高齢化が進み指導力を発揮できないNLD首脳陣への幻滅も広がっている。
NLDの最高機関である中央執行委員会はこの1月に増員されるまで11人で構成されていたが、平均年齢は82歳だった。最年少はスー・チーさんの64歳で、アウン・シュエ議長に至っては今年93歳だ。増員で新たに9人が加わったが、いずれも60歳以上で、アウン・シュエ議長ら首脳陣は留任した。
「新しい血は入れたが、脳は相変わらずだ」とこの人事を揶揄(やゆ)する声がNLD内部からも漏れる。「党の重鎮たちはスー・チーさんが党務に復帰するまでの留守番役という意識だ」と解説する事情通もいる。
≪指導力の欠如明白≫
NLDの指導力の欠如は、市民や僧侶らによる2007年の大規模な反政府デモの際に明らかになった。NLD指導部は拱手(きょうしゅ)傍観の姿勢を貫き、いつもはNLDに好意的な在外亡命組織からも批判された。08年にはNLD青年部の100人以上が離党するという事態も起きている。
しかし、NLDの漂流の責任をすべて指導部に帰すのは酷だろう。1990年の総選挙でNLDは圧勝したが、軍政はその結果を認めず、NLDに大弾圧を加えた。多くの幹部や活動家が逮捕され、獄死した者も少なくない。当局の圧力下での離党や国外亡命も相次ぎ、組織は弱体化した。
軟禁中のスー・チーさんと他のNLD首脳との面会は2、3年に1度しか許されず、NLDの全国規模の会議も当局の妨害のため結党後、3回しか開いていない。これでは政策や人事で党の総意を臨機応変に集約するのは不可能に近い。
軍政が今月発表した選挙法はNLDへのとどめの一撃になるかもしれない。その規定によると、スー・チーさんのような受刑者は政党に参加できない。政党登録に際してはNLDが「非民主的」と拒否している新憲法の受け入れも誓約する必要がある。NLDが政党として存続するためにはスー・チーさんを排除し、軍政に全面降伏するしかない。
スー・チーさんは結党後、20年あまりのうち15年を拘束下に置かれてきた。いつか軟禁を解かれたときにスー・チーさんが目にするのは形骸(けいがい)だけになった党だろうか、それとも党の墓碑だろうか。【3月25日 産経】
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【「今回の選挙は民主主義を育てる過程のほんの始まりにすぎない」】
健康不安説も流れていた軍事政権のタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長は、すこぶる意気軒昂で、「必要あらばいつでも国政にかかわる」と軍事式典で公言し、総選挙後も軍が政治主導権を握る構えを強調しています。
****ミャンマー 選挙後も影響力保持 国軍記念式典 軍政、野党を牽制*****
ミャンマー軍事政権は27日、首都ネピドーで国軍記念日の式典を開いた。軍政トップのタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長は演説で、「かつて独立のために政治家が、軍の指揮官となった。われわれは必要があれば、いつでも国政に参加し奉仕する」と述べ、軍政が進める「民主化」で文民による政府が発足した後も、政治に対する軍の影響力を保持する考えを強調した。
タン・シュエ議長はさらに、年内に行われる総選挙について「今回の選挙は民主主義を育てる過程のほんの始まりにすぎない。各政党は民主主義がまだ成熟していない時には忍耐が必要だ」と述べ、一定の制限はやむを得ないとの認識を表明。さらに、「自らの党の勝利のために他政党や政治家を誹謗(ひぼう)するような不適切な選挙キャンペーンは避けるべきだ」として、軍政批判を続ける野党勢力を牽制(けんせい)した。そのうえで、「どのようなシステムが行われようとも、主目標は平和と国家の繁栄だ。政府と国民、軍はともに働くべきだ」と述べ、国民に協力を呼びかけた。
新政権発足後は引退するとされるタン・シュエ議長にとって、今回が自ら主催する最後の式典となる。同議長は全国から集めた1万3000人余りの兵士を前に約10分間、演説したあと、オープンカーに乗って巡察。さらに各部隊の行進を約30分間、演台から立ったまま閲兵した。
また、今回は2007年以来3年ぶりに外国メディアの直接取材が認められた。総選挙を前に、内外に軍の影響力を誇示するねらいがあるとみられる。【3月28日 産経】
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民主主義が成熟したら、憲法を改正して軍の政治への影響力を抑制していくのでしょうか?
【新政党「民主化実現の目的は同じ」】
一方、こうした情勢で、総選挙に向けて新たな民主化運動の政党結成が報じられています。
****ミャンマーに反軍政新党、幹部に元首相の娘******
ミャンマーで年内に行われる総選挙に向け、軍主導の民主化の動きに対抗する「ミャンマー民主党」が結成され、今週中に政党登録することを決めた。
党首のトゥ・ウェイ氏(78)らがヤンゴンの党本部で本紙の取材に応じ、明らかにした。1990年の前回総選挙でも政党を組織して臨んだウェイ氏は、「軍政は国民の側に立った政治を行っていない。すべての選挙区で候補者を出したい」と意気込みを語った。
新党の幹部には、1948年の独立後の初代首相ウ・ヌー氏の娘や、2代首相バ・スエ氏の娘が名を連ねており、反軍系政党の一翼として今後の動向が注目される。ウェイ氏は、アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)との関係については「民主化実現の目的は同じ」と述べたが、現時点では総選挙での連携は模索しない方針だ。NLDは、29日に中央執行委員会を開いて総選挙参加の是非を決める。【3月29日 読売】
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この「ミャンマー民主党」については、国内では上記記事しか情報がありませんので、どういう性格の政党か定かではありません。
記事のとおりであれば、“落日のNLD”に代わってミャンマー民主化運動を担っていく存在になるようにも見えますが・・・。それとも、裏で軍政と何らかの関係のある“官製野党”なのでしょうか?
NLDが総選挙不参加を決めましたので、軍政と一線を画した民主化を望む声の受け皿になることが期待されます。