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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

戦争を変える無人航空機の実像と問題

2010-05-03 18:35:22 | 世相

(24時間飛び回り監視・攻撃する「最も価値ある兵器」「瞬きしない目」とも呼ばれる無人航空機のひとつ、プレデター  “flickr”より By trinity2492
http://www.flickr.com/photos/21356749@N05/2076998738/)

【「最も価値ある兵器」】
アメリカ・オバマ政権は、アフガニスタン・パキスタンなどの戦闘で、プレデターなどの無人航空機を多用するようになっています。
米軍司令官は無人機を「最も価値ある兵器」と呼んでおり、無人航空機がもたらした「革命的状況」は、冷戦という新たな戦いを生んだ原爆の開発に例えられるほどとか。
アメリカだけでなく、無人機は現在、世界43カ国が導入。イスラエルやシンガポールは少数で高品質、中国は量を重視するなど、それぞれ戦略を立てつつあり、新たな軍事競争を始めているとも。【4月30日 毎日より】

その無人機による戦いの実態、その問題点について、上記【毎日】記事が詳しく報じています。
非常に興味深いものがありましたので、その論点とりまとめてみました。

【兵士は自宅から通勤】
最初に、驚かされたのは、無人機を操作する兵士は自宅で目覚め、普通の市民と同じように通勤し、アフガニスタンやイラクの「戦争」をしているという実態です。

****自宅から出勤「午前はアフガン、午後イラク」*****
米国本土の基地から衛星通信を使い、1万キロ以上離れた戦地で無人航空機を飛ばす。兵士は自宅で家族と朝を迎え、基地に出勤。モニター画面に映る「戦場」で戦い、再び家族の待つ家に帰る--。
「午前中3時間はアフガンで飛ばし、1時間休憩する。午後の3時間はイラクで飛ばす。米国にいながら、毎日二つの戦場で戦争をしていた」。イラク戦争が始まった03年、米西部ネバダ州ネリス基地で無人機のパイロットをしていたジェフリー・エガース大佐(48)が振り返る。
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空軍は上記のように米本土から遠隔操作しますが、陸軍は「現場との連携を密にするため」現地で操作するとか。
操作する人間が現地事情を知ることの意味合いについては、元米陸軍兵のこんなエピソードも。
“03年、イラク戦争の開戦と同時に、無人偵察機のSO(無人航空機のカメラを操作し、映像を分析するセンサーオペレーター)として、現地に入った。移動が多く、初めて戦地を歩き回った。イラクの人々と話し、裸足の子供たちとサッカーをした。
「戦場を歩くことで、分かることがある。例えばイラクでは、人々が道の傍らに穴を掘り、かんがい用のポンプを埋める。だがそれを知らないSOなら、爆弾を仕掛けていると思い込み、攻撃を呼びかけるかもしれない」。カバレロさんは、戦場を知らない者の無人機操作には懐疑的だ。“

【犠牲のない戦争に歯止めは?】
オバマ米政権がアフガニスタンやイラクで、無人航空機を飛ばし武装勢力を掃討する「無人機戦争」を推し進めているのは、「米兵士が死なない」「低コスト」というメリットがあるからです。

「低コスト」については、“「瞬きしない目」。空軍は無人機をそう呼ぶ。24時間の連続飛行も可能。夜間は赤外線カメラが、武装勢力を探す。プレデターの機体価格は約450万ドル(約4億3000万円)でF22戦闘機の約85分の1だ。昨夏、空軍が作成した長期計画書によると、「2012年をめどに、一人で同時に4機の操縦を目指す。人件費56%の削減が可能」。最終的に目指すのは「無人機を操縦するロボット」の開発だ。”

「無人機を操縦するロボット」・・・ハリウッド映画的で、なんとも不気味な感じがあります。
その攻撃で、吹き飛ばされ、手足を失い、血にまみれ、命を失うのは生身の人間です。

「米兵士が死なない」ということについては説明も不要でしょう。
しかし、犠牲を伴わない戦争には世論の歯止めがかからなくなる恐れもあります。
“米兵の戦死という犠牲があるからこそ、国民も政治家も、戦争に慎重になる。多数が死傷すれば、派遣に賛成した議員は選挙で負ける。だがパキスタンでの空爆は(米兵が死なないので)米議会で審議されず、戦争とも認識されていない。”

また、遠隔操作に戦闘は、戦争を非現実化させます。
“戦争に関する調査で、「距離と対象の間化」が殺人を容易にするというデータがある。無人機による空爆は遠隔操作で、画面に浮かぶ対象は、人というより小さなモノに見える。”
ゲームの世界の感覚で、生身の人間が殺されていくことにもなりかねません。

【増加する民間人犠牲】
治安の悪化に歯止めがかからない状況の中、オバマ大統領は「米兵の死なない」「低コスト」の無人機への依存をさらに強めていますが、一方で、民間人の被害が深刻化、その手法を疑問視する声も噴出しています。

*****無人機爆撃、本土で操縦 民間人の被害拡大******
米陸軍士官学校のゲーリー・ソリス元教授は「軍服を着ない武装勢力と市民を映像だけで区別するのは難しいはず」と指摘する。国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、09年に戦闘に巻き込まれて死亡した市民は2412人。4人に1人は、米軍の無人機を含む空爆などの犠牲になっている。

毎日新聞が入手した空軍の集計値によると、オバマ政権が発足した09年、アフガンで無人機プレデターと新型の「リーパー(死に神)」が投下した爆弾は219個。08年(183個)の1・2倍で、07年(74個)の約3倍だった。今年1~3月末は計52個で、昨年と同ペースとなっている。

オバマ大統領は、パキスタンでの米中央情報局(CIA)による無人機空爆も拡大。米シンクタンクによると、04年から今年4月16日までに最大1314人が死亡し、うち3割(378人)は民間人で、民間人の約半数がオバマ政権下で犠牲になった。国連人権理事会のフィリップ・アルストン特別報告者は、民間人被害を重視。「国際人道法に違反する疑いがある」と話し、6月の同理事会で改善を求める方針だ。

世界各地の非合法殺害(処刑)について国連人権理事会に報告するフィリップ・アルストン特別報告者は、昨年6月と10月、米のパキスタンでの無人機攻撃が、市民と戦闘員を区別し過剰な民間人被害を回避するよう定めた国際人道法に「違反する疑いがある」と報告した。オバマ政権は前政権と同じ説明をするだけで、アルストン氏は「オバマ大統領には変化を期待したが、失望している」と話す。【4月30日 毎日】
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民間人の被害拡大がアメリカの戦略を不利にすることもあって、アメリカ側も対応はとっているようです。
CIAはパキスタンで、民間人の死傷者を最小にするために、より小さく、高度な監視技術を使用したバイオリン・サイズのミサイルの使用に変更したことが報じられています。

****巻き添え減らせ、CIAが対テロ新型ミサイル****
26日付の米紙ワシントン・ポストは、パキスタンで、無人武装偵察機を使った国際テロ組織アル・カーイダ幹部らの殺害作戦を展開している米中央情報局(CIA)が、新型の小型ミサイル「スコーピオン」の使用を始めたと報じた。
同ミサイルは長さ55センチ、重さ16キロ・グラム。これまで使われていたミサイル「ヘルファイア2」に比べ命中精度が高いことに加え、破壊する範囲が広くはなく、「精密攻撃」によって民間人の巻き添え死を少なくする効果があるという。
CIA当局者が同紙に語ったところでは、2009年1月以降、無人偵察機を使った攻撃は70回以上行われ、テロリストや武装勢力構成員計約400人を殺害した一方、民間人二十数人が犠牲になったとしている。また、同紙によると、CIAは、超小型の無人偵察機を使い、至近距離から標的を何日も監視するなど、テロリスト狩りにあらゆるハイテク兵器を使っていると紹介している。【4月27日 読売】
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【操作は民間人、将来はロボットも】
こうした無人機の操作には、民間人も多く関わっているそうです。
“米陸軍によると、無人機操縦者の7人に1人は民間人。無人機の急増に、兵士の訓練が追いつかない状況だ。米軍交戦規則で民間人の戦闘行為は禁じられているため、ミサイルボタンを押す瞬間は「兵士と交代する」(陸軍)。一方、民間人SOの大半は、20代の若者。戦場を歩いた経験もない。映像から不審な動きを報告するSOの役割は大きく、攻撃態勢を一気にエスカレートさせることもある。
「現場から遠ざかるほど、人は現実感を失う」。(米軍用機製造企業から派遣された元米陸軍兵のSOである)カバレロさんは、そう感じている。”
“戦場を歩いた経験もないゲーム好きの民間人若者”、あるいは“ロボット”・・・どっちもどっちです。

コメント (2)
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