(アフガニスタン第2の都市カンダハル周辺はタリバンの本拠地でもあります この地域の支配権をめぐって今後激しい戦闘も予想されています。 “flickr”より By slightlyfamous
http://www.flickr.com/photos/slightlyfamous/4486264035/)
【無人航空機による攻撃への報復】
ニューヨークのタイムズ・スクエアで5月1日に起きた車爆弾によるテロ未遂事件については、ホルダー米司法長官が9日、「パキスタンのタリバンが事件を指示したことを示す証拠を固めている」と明言しており、パキスタン系米国人のファイサル・シャザド容疑者(30)が、パキスタンの武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)から、テロの訓練や資金援助を受けたとされています。
TTPが事件に関与した動機としては、オバマ政権発足後に強化された無人航空機による攻撃への報復が指摘されています。
一方、アフガニスタンのタリバンは8日、声明を出し、駐留外国軍などを標的とした新たな攻撃作戦を10日から開始すると予告しています。
****タリバンが新たな攻撃予告=駐留外国軍など標的-アフガン*****
声明は米国などの駐留外国軍のほか、アフガン議会議員、外交官らが攻撃対象になると警告。具体的には爆弾攻撃や殺人、誘拐などを実行すると主張している。
これに対し、ワルダク国防相は「タリバンが自分たちの主張を実行に移す能力を持っているとは思えない」とし、単なるプロパガンダにすぎないとの見方を示した。【5月9日 時事】
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【双方が衝突する日は近い】
最近、アフガニスタンでの戦闘については、新聞記事などではあまり目にしません。
しかし、タリバンが兵力を増強しており、今後の戦闘が激化することを指摘する下記の記事がありました。
****タリバンも「増派」、決戦秒読み*****
米軍の3万人増派に向けて、タリバンにも新兵が続々と加入──双方が衝突する日は近い
ロン・モロー(イスラマバード支局長)、サミ・ユサフザイ(イスラマバード支局)
毎晩明け方まで、年代物の自動車と小型トラックの車列がパキスタン北ワジリスタンの無法部族地帯、ダッタヘルを進んでいく。目的地はアフガニスタン。車両は米軍と戦う新しいジハード(聖戦)要員で溢れかえっている。
彼らのほとんどは、ダッタヘル郊外にある複数の訓練・宿泊施設からやって来る。地元民によると、こうした郊外の大部分はアフガニスタンとパキスタンのイスラム原理主義勢力タリバンが支配している。「この辺では、1つの家族から少なくとも男1人はアフガニスタンに向かっている」
これはタリバンが意図的に行なっている「増派」とみられる。今回の増派は、雪解けの時期を見計らって繰り返し行なわれてきた過去の増派よりも大規模だ。目的はアフガニスタン南部のタリバンを増強すること。新しい戦闘員らは、バラク・オバマ米大統領が数カ月後にこの戦闘地帯に新たに送り込む3万人の米軍兵士と対峙することになる。
彼らだけではない。さらに、冬をパキスタン北西部やパキスタン南西部のバルチスタンの難民キャンプで過ごしたり、パキスタン一帯に点在するマドラサ(イスラム神学校)で宗教的、イデオロギー的な訓練を受けた新たな戦闘員も列を成している。タリバンの増派は、おそらく今年2月にアフガニスタンのマルジャで米軍率いる連合軍との戦いでの敗北を繰り返さないためのようだ。
タリバン兵は20分でリクルート可能
パキスタン軍は、アフガニスタンにジハード要員が流出するのを阻止するため、国境に常備軍と民兵合わせて10万人を配置して治安に当たらせているという。国境沿いにある900カ所以上の前哨基地と道沿いの検問所を守っている。
だが、パキスタン軍の努力は報われてはいないようだ。パキスタン北西部で国境近くの町ミラムシャーとミールアリでは、タリバン兵が幅を利かせているらしい。これらの場所では、タリバンはハエが飛び交うレストランや粗雑なインターネットカフェでたむろし、アフガニスタン警察から盗んだフォードの小型トラックを乗り回し、堂々と武器を持ち歩く光景が見受けられる。すべてが、パキスタン軍の大規模な陣営の目と鼻の先で行なわれている。
アフガニスタンのジハード要員を集めるのは難しくないと、匿名を条件に本誌の取材に応じたタリバン幹部は言う。地域に米軍が駐留していること、そしてテロ容疑者に対する米軍の無人機攻撃が増えていることに憤慨している教養も職もない部族地帯の若者たちは、タリバンによるプロパガンダの格好の人材だ。
「20分もあれば、今すぐ戦闘員になれる若者を確保できる」とこの幹部は言う。アフガニスタン南部ヘルマンドの軍閥指導者アブドゥル・マリクは、新たな戦闘員たちが地元戦闘員の士気を高めていると言う。「彼らの存在は我々の士気を大きく鼓舞してくれる」【4月27日 Newsweek】
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パキスタンからアフガニスタンのタリバンへの兵力補給は、従前のタリバン政権樹立時からのものであり、今に始まった話ではありません。
ただ、アメリカが撤退スケジュールを明らかにしているなかで、敢えて増派して、アメリカの増派と正面から対抗しようとするタリバン側の戦略はちょっと意外でした。
アメリカの撤退時期がくるまで、のらりくらりとかわす長期戦の方針かと思っていました。
記事には“今年2月にアフガニスタンのマルジャで米軍率いる連合軍との戦いでの敗北を繰り返さないため”とありますが、タリバンにとって、マルジャを奪われたことは相当に痛手だったのでしょうか。
米政府高官は「マルジャの掃討は、カンダハルでさらに包括的かつ大規模な掃討を行う前哨戦だ」と位置付けた上で、「アフガン全土でタリバンの勢いをそぐには、年内にカンダハルで勝利しなければならない」と述べ、年内にタリバンの本拠地カンダハルで更に大規模な作戦を展開することを明らかにしています。
上記記事の線でいけば、タリバン側もこれに備えた兵力増強を進めているということで、両者がカンダハルで激しくぶつかることが考えられます。
個々の戦闘では、物量に勝るアメリカ側が優位に立ちますので、正面からぶつかりあう展開はアメリカも望むところでしょう。
ただ、いくらマルジャやカンダハルをおさえても、パキスタン北西部で「20分もあれば、今すぐ戦闘員になれる若者を確保できる」という状態では、長期的な展望はなかなか困難です。
そして、そうしたタリバン側の戦闘員確保を容易にしているのが、アメリカによる無人航空機による攻撃増加という構図です。