孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカで強まる保守回帰 「ティーパーティー」とアリゾナ州移民法

2010-05-01 17:18:44 | 世相

(オバマ米政権に反発する保守派運動「ティーパーティー」は、4月15日の確定申告締め切り日「税の日」に合わせ、全米各地で集会を開催しました。写真はそのひとつ、ミネソタでの集会です。
“flickr”より By Fibonacci Blue
http://www.flickr.com/photos/fibonacciblue/4525406773/in/set-72157623866395026/)

【原油流出事故 史上最悪の恐れも】
4月20日に米南部ルイジアナ州沖・メキシコ湾上の石油採掘施設が爆発、11人が行方不明になった事故による原油流出が止まりません。
すでに一部はルイジアナ州沿岸に到達しており、今後甚大な環境汚染や漁業被害が懸念されています。

沿岸警備隊は23日時点では原油流出はないと発表していましたが、その後、基地と油田を結ぶ約1500メートルのパイプの2カ所から漏れているのが発見されました。
流出原油の量も、当初の1日約1000万バレル程度という想定から、5倍の1日約5000万バレルへ上方修正され、更に米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は4月30日、専門家の話として、1日2万5000バレルに上る可能性があると報じています。【5月1日 時事より】

ロボットによる流出箇所への対応がうまくいかず、広がる流出原油をフェンスで囲い吸い上げる、飛行機から分解剤を散布する、火をつけて燃やす・・・などの対策が取られていますが、どれも決定的な効果をあげていないようです。
このまま流出がくい止められない場合、1989年に起きた米史上最悪のアラスカ沖での原油流出事故を上回る大惨事となる恐れがあるとも言われています。
オバマ大統領は29日「あらゆる手だてを使って対処する」と発表し、軍の出動も検討する考えを表明しています。また、掘削事業の元締めである英BP社に原油除去の責任があり、費用を負担すべきだとの考えを明確にしています。【4月30日 毎日・産経より】

ヨーロッパの上空を覆ったアイスランドの火山灰に続いては、アメリカ海岸を覆う流出原油・・・といったところです。ただ、火山は自然そのもので人間にはどうしようもありませんが、流出原油は人間が作り出したものです。
海底油田にしても原子力発電にしても、人類の英知の成果であり、私たちの暮らしを便利にしてくれる技術ではありますが、いったんトラブルと人間のコントールの及ばない壊滅的な破壊をもたらします。
こうした完全にコントロールできないテクノロジーの上に築かれた現代文明の脆弱性を思い知る事故・・・月並みで陳腐ではありますが、そんな思いがします。

【「真正保守」を標榜する「ティーパーティー」】
流出原油がアメリカ海岸を覆うかどうかはこれからの話ですが、すでにアメリカ社会を覆ってしまった感があるうねりが保守派による「ティーパーティー」の運動です。
アメリカ東部が英植民地だった1773年、英本国が課した重い茶税に反対し、住民がボストン港に停泊中の東インド会社の船から茶箱を海に投げ捨てた「ボストンティーパーティー(茶会事件)」にちなんだ草の根的な保守派による市民運動ですが、現代の「茶会運動」の「茶(TEA)」には、「もう税金はたくさん(Taxed Enough Already)」の意味も込められているそうです。

****保守派が「茶会」で反オバマ、米で急拡大*****
草の根の保守派市民が反オバマ政権を訴える「ティー・パーティー・ムーブメント(茶会運動)」が米国で急速に拡大している。
税金による銀行救済や医療保険制度改革など、オバマ民主党政権の「大きな政府」志向の経済政策に怒りをたぎらせる市民がネットなどを通じて連帯し、全米で大規模集会を開いているもので、民主党不利がささやかれる11月の中間選挙の動向を左右する「台風の目」となりそうだ。(中略)
 ・・・昨年2月、7870億ドル(約72兆円)規模の景気対策法が成立したのを機に、各地で同時発生的に抗議集会が起きたことが始まりとされる。
運動の特徴は、インターネットや会員制交流サイト「ツイッター」、電話会議による情報交換など、従来の保守運動では見られなかった手段を駆使する点だ。(中略)
ニューヨーク・タイムズ紙とCBSテレビが15日発表した世論調査では、回答者の18%が「茶会」支持者と回答し、この支持者の89%が白人。また、88%がオバマ大統領を「支持しない」と答えている。
財政規律を重んじる「財政保守」にとどまらず、人工妊娠中絶反対派やキリスト教福音派など「社会保守」の合流も目立ち始めた。
「茶会」の一部団体は、中間選挙で民主党の有力議員の再選阻止を図ることに加え、「真正保守」を標榜する立場から、2008年大統領選の共和党候補だったジョン・マケイン上院議員など、中道穏健派の共和党有力議員を落選させる取り組みまで進めている。【4月19日 読売】
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財政規律を重んじる「財政保守」、自由市場を重視した「小さな政府」の主張を中心にした、おもに白人層に広がる反オバマの保守派運動ですが、人工妊娠中絶反対などを含めた「真正保守」を求める運動に展開しています。
読売記事にもあるように、オバマ大統領や民主党だけでなく、マケイン上院議員など共和党穏健派も“保守にあらず”として標的になっています。
彼らからすれば、オバマ大統領の行った税金による銀行救済や医療保険制度改革などは“社会主義”ということになり、このままではアメリカはヨーロッパのような“福祉国家”に堕してしまう・・・ということのようです。

こうした運動の背景には連邦政府や議会への反発・不信があります。
“米国民一般の間で連邦の政府や議会への反発や不信がいまほど強いこともないという現状が4月中旬、ピュー調査センターの世論調査で判明した。「ワシントンの連邦政府を信じられる」と答えたのが全体の22%で、この半世紀ほどで最低の数字だというのだった。連邦議会に対しても同じ調査は支持25%、不支持65%という結果を示した。”【5月1日 産経】

運動を批判するオバマ支持勢力からは、「人種差別主義者の集まり」「自己中心の白人富裕層」「エリート層の貧者憎悪」といった非難もあります。【同上】
先の大統領選挙で、サラ・ペイリン副大統領候補を担いだ勢力とも重なります。
初の黒人大統領誕生が刺激している側面もあるように見えます。
いずれにしても、11月の中間選挙に多大な影響を与えることが予想されています。

「ティーパーティー」は、経済情勢の悪化のなかで、十分に保護されていないと感じる人々が、「改革」の名のもとに自分たちの権利を侵害する相手として、政府・金融機関・マイノリティーなどに対して批判の矛先をむける保守回帰運動の一側面とも思われます。

【外見などから不法移民かどうか職務質問】
その批判が向かう相手のひとつが不法移民です。
アメリカ南西部アリゾナ州のブリュワー知事は4月23日、不法移民を取り締まる警察官の権限を拡大した移民法に署名しました。人権侵害につながる恐れがあるとするオバマ大統領の批判を無視したものでした。

****不法移民取り締まり厳格化=米大統領の批判無視-アリゾナ州****
署名された同州の移民法は、不法移民の逮捕、強制送還を容易にするために、警察官は犯罪に関与した疑いがなくても、外見などから不法移民かどうか職務質問できる。在留許可証を携行していなければ、犯罪として扱うことも可能になる。
メキシコとの国境に接するアリゾナ州は麻薬密輸などによる犯罪が深刻化しており、ブリュワー知事は「ワシントンが適切な措置を怠ってきたため、(不法移民問題が)危険な状況を生んだ」と、署名理由を語った。
オバマ大統領は23日、知事の署名式に先立ち、同州の移民法について、「米国人が大切にする公正さの基本的概念を害し、警察と地域社会の信頼関係を脅かす」と批判。さらに、「連邦政府が行動しなければ、的外れな取り組みが国中に広がる」と懸念を表明し、同州の移民法が公民権上問題がないか司法省に精査させる考えを示した。【4月24日 時事】
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これまでも同様の法律は議会を通過しましたが、前知事(民主)は拒否権を行使していました。
ブリュワー知事は法案に署名すると同時に「人種、肌の色、出身国の違いだけでは、容疑の合理的な根拠にならないことを捜査当局に指導する」などを定めた行政命令を出しています。

このアリゾナ州知事の署名に内外からの批判も高まっています。
中南米系移民の多いカリフォルニア州ロス市議会には、アリゾナ州の企業と結ぶ720万ドル(約6億5000万円)分の契約打ち切りを市に求める決議案が提出されました。
メキシコに本部を置く世界ボクシング評議会(WBC)は同州ではメキシコ人選手の試合を行わない方針だとか。
また、中米エルサルバドル政府が約280万人の米在住者に同州に旅行しないよう呼びかけたほか、ニカラグア政府は米州機構と国連に中南米系移民の人権を保護する措置をとるよう求めています。

民主党からは、移民法の全面改正に向けた取り組みも起きています。
****米上院民主党、移民法改正案の枠組みを明らかに*****
米上院のリード民主党院内総務と民主党議員は29日、移民法の全面改正に向けた「枠組み」を明らかにした。
民主党議員は、不法移民摘発を目的としたアリゾナ州の新たな移民法をめぐる反発が広がるなか、改正に向けた第一歩は国境警備の強化でなければならないとの見解を示した。
また、移民労働者向けのハイテクIDカード(身分証明書)の作成や、一時就労者の入国許可に関する新たなプロセス導入、不法移民を雇用する米雇用主への「厳しい制裁措置」なども求めた。
リード院内総務は、米国に推定1080万人の不法移民が滞在していることを踏まえると、「民主・共和両党は、米国の移民制度が機能していないとの見解で一致している」と指摘。改正に向けた超党派の協力を呼び掛けた。【4月30日 ロイター】
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今、ロサンゼルス・ハリウッドの警察を舞台にした小説を読んでいますが、そのなかでは、“マイノリティーが殺されると大騒ぎになるが、白人なら何人殺されても捨て置かれる”とか“職務質問対象者がマイノリティーに偏ると問題視されるため、全く怪しくない白人にも職務質問して数のバランスをとる”といいった類いの白人警官の不満が随所に見られます。

「ティーパーティー」にしても、アリゾナ州移民法にしても、これまで社会の中核を担ってきた白人層の、権利・利益が侵害されつつある現状への不満が底流にあるように見えます。

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