孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国海軍哨戒艦沈没事件  中国(PRC)の北朝鮮への対応「please remain calm」

2010-05-30 15:00:25 | 国際情勢

(5月29日 日中韓首脳会議 “flickr”より By KOREA.NET - Official page of the Republic of Korea
http://www.flickr.com/photos/koreanet/4649784748/

【偶発的衝突の懸念】
韓国海軍哨戒艦沈没事件に伴う朝鮮半島情は緊張の度を増しています。
****北が重火器、韓国は潜水艦訓練 強まる偶発的衝突の懸念*****
朝鮮半島情勢は27日、北朝鮮が非武装地帯(DMZ)に対空砲を搬入したことが明らかになり、韓国は対潜水艦訓練を実施するなど、偶発的な軍事衝突への懸念が高まっている。
北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部は27日、黄海上などでの南北間の偶発的な衝突防止のための合意を「無効化する」との通告文を、朝鮮中央通信を通じ発表した。南北協力に関する軍事的保障措置を全面撤回し、開城工業団地への陸路通行遮断の検討に入り、韓国軍の心理戦には警告通り「無慈悲に」対応する-とした。・・・・【5月28日 産経】
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韓国側は、DMZ周辺で拡声器を使った対北宣伝放送を再開するとしていますが、北朝鮮が対空砲などで拡声器を破壊した場合、韓国側も自衛権を発動し反撃する可能性もあり得ます。
また、日本海側の北朝鮮の海軍基地から出航した小型潜水艦4隻については、2隻は帰還していることが確認されましたが、残り2隻の動向はわからず、あらたな韓国漁船などへの攻撃も懸念されています。

「宣戦布告」という言葉も飛び交うようになっています。
“北朝鮮の朝鮮中央通信によると、29日付の労働党機関紙・労働新聞は論評で、韓国が哨戒艦沈没事件を、日米両国と国連安保理に提起する動きを見せていることについて、「われわれに対する宣戦布告と見なし、無慈悲で強力な懲罰で対抗していく」と警告した”【5月29日 時事】
中朝国境地帯に住む北朝鮮住民の間では、「6月4、5日頃に戦争が起きるのでは」といった“Xデー”のうわさが数日前から流れているとも。【5月27日 読売】
こうした互いに対応をエスカレートさせている緊張状態では、偶発的衝突が、双方とも意図しない全面的衝突へ拡大する危険が常にあります。

【中国の“微妙な変化”も】
このような中、注目されているのが中国の北朝鮮への対応です。
安保理での制裁決議にしても中国の同意なしには進みません。韓国は現在、日中韓首脳会談で中国の協力を求めています。
****日韓、中国に共同歩調要請へ 首脳会談2日目****
鳩山首相と温家宝中国首相、李明博韓国大統領は30日午前、韓国・済州島で2日目の首脳会談を開いた。韓国哨戒艦沈没を受けた朝鮮半島情勢で意見交換し、日韓は国連安保理など北朝鮮への対応で中国に共同歩調を取るよう求めるとみられる。鳩山首相は29日の日韓会談でも大統領に安保理への韓国の問題提起を積極支持する考えを伝達。日中韓首脳会談でも同様の見解を表明する見通し。【5月30日 共同】
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中国は従来より、北朝鮮の後ろ盾として北朝鮮を支援する姿勢をとっていますが、今回は従来とは異なる空気も若干あるようです。
中国の姿勢転換を報じる記事もありました。
****中国が韓国寄りに転換か 哨戒艦沈没で*****
ロイター通信は26日、韓国哨戒艦沈没で、韓国と北朝鮮双方の主張と距離を取り、両国に冷静な対応を求めてきた中国が28日からの温家宝首相の訪韓を機に姿勢を変化させ、韓国が求める国連安全保障理事会への問題提起に一定の理解を示す可能性があると報じた。複数の米政府当局者の見方としている。中国は安保理を通じた追加制裁には反対する見通し。【5月27日 共同】
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温家宝首相は28日、韓国を訪問して李明博大統領と会談した際、客観的、公正に判断して中国の立場を決めるとしたうえで、結果によっては「誰もかばうことはしない」と述べ、北朝鮮を無条件に擁護しない方針を示唆しています。
聯合ニュースは「中国政府が一方的に北朝鮮側に立たないという意味に解釈でき、注目される」との韓国側の見方を伝えています。【5月28日 毎日より】
しかし、「中国は正義を主張する責任ある国家として、韓国側と関連国による共同調査を重視する」(29日温家宝首相)という調査重視の基本姿勢は崩していません。
“韓国青瓦台(大統領府)によると、温首相は28日に行った李大統領との会談で「事態を是々非々でえり分け、客観的で公正な判断で立場を決める」と語った。事件に対する中国の中立姿勢は変わらないものの、韓国側はそこに微妙な変化を感じ取っており、今後も、日本のような支持国を多く募ることで、中国の説得を進めたい考えのようだ”【5月29日 毎日】とも。

その中国の北朝鮮への対応については、最近やや距離を置き始めているとも報じられています
****中国が北朝鮮向け支援を制限か 「核融合に成功」報道後*****
北朝鮮メディアが今月12日に「核融合反応に成功」と報道した直後から、中国当局が北朝鮮向けの支援物資の運搬を一部停止し、経済協力プロジェクトの凍結も検討している模様だと、中朝関係筋が明らかにした。金正日(キム・ジョンイル)総書記の訪中直後に新たな核開発を誇示するような動きを見せた北朝鮮に中国側は強い不快感を抱いているとみられ、独自の制裁措置をとっている可能性がある。
関係筋によると、中朝国境地帯の各地の貿易拠点で、定期的に北朝鮮に搬出されるコメやトウモロコシなどの穀物や化学肥料、医薬品、工作機械などの支援物資を積んだトラックの流れが、今月中旬から停止、または大幅に減少しているという。
また、昨年10月の温家宝(ウェン・チアパオ)首相訪朝の際などに合意した経済協力プロジェクトのうち、中朝国境の鴨緑江に新たに建設する橋などを除く多くの計画の凍結が、中国政府内で検討されているという。・・・・
【5月30日 朝日】
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ただ、中国遼寧省トップの共産党委員会書記が北朝鮮新義州市を訪問し、中朝国境を流れる鴨緑江をまたぐ新たな大橋建設などをめぐり、北朝鮮側と協議したもようだとの報道もあります。
“韓国の哨戒艦沈没事件で朝鮮半島情勢の緊張が高まる中の訪朝は、中朝国境地域の安定を確認する目的があった可能性もある。事件を受け、国際社会が北朝鮮に対する包囲網を形成する一方、中国は関係を前進させていることもうかがわせる”【5月28日 時事】 

【中朝国境の動向】
南北間の非武装地帯(DMZ)だけでなく、中朝国境でも中朝双方がそれぞれ国境付近の警戒を強めている動きも見られます。これは、国内の混乱に乗じた脱北者の流入などを警戒しているとのこと。【5月29日 朝日】
そのなかで、不思議な動きも。
****北朝鮮が中朝国境に重火器を配備、消息筋*****
北朝鮮が中朝国境を守る警備隊に迫撃砲を追加配備する一方、国境一帯に放射砲旅団を展開させたことが分かった。
対北朝鮮消息筋は26日、ことし2月までに平安北道や咸鏡北道など中朝国境全域の国境警備隊の各中隊に82ミリ迫撃砲を運用する火力支援小隊が新たに編成され、実戦配備が終わったと明らかにした。
国境警備隊は人民武力部所属だが、主な任務は脱北防止など違法な出入国の取り締まりであるため、これまでは主に小銃など軽武装だった。(中略)北朝鮮内部では火力増強の背景について「中国側から南朝鮮(韓国)の特攻隊が攻撃してくる可能性がある」と説明しているという。
米国の自由アジア放送(RFA)も26日、北朝鮮の国境警備隊に迫撃砲や機関銃など重火器が配備されたと報じた。
これとは別に、軍事境界線一帯や海岸に集中配備されてきた放射砲が中朝国境にも配備され、中国と北朝鮮の間で微妙な緊張が走ったとされる。
消息筋は、このほど咸鏡北道・茂山、両江道・甲山など中朝国境付近で122ミリ放射砲旅団が配備されたとし、「北朝鮮内部でも中国側が不快に思う恐れがあると指摘する声が出ている」と伝えた。

韓国情報当局もこうした北朝鮮軍の動向を把握し、背景と意図を探っている。消息筋は、北朝鮮が国境での取り締まりを強化しているとはいえ、民間人を相手に迫撃砲や放射砲を配備したとみるには無理があると指摘し、3万~4万人に達する警備隊の戦力を歩兵部隊の水準に引き上げ、有事の際に戦力として活用する意図か、中朝間の微妙な葛藤(かっとう)を反映するものかもしれないと分析した。【5月26日 聯合ニュース】
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“中国側から南朝鮮(韓国)の特攻隊が攻撃”というのはどういうことでしょうか?

【「please remain calm」】
中国指導部が北朝鮮の勝手な行動を苦々しく見ているのは想像に難くないですが、北朝鮮を追い込んだ結果、北朝鮮体制が崩壊して難民が中国側に押し寄せる、あるいはアメリカ側の勢力が中国国境に迫るという事態は中国としても避けたいところでしょう。
また、先日も取り上げた中国側の「我々にも有権者(コンスティテュエンシー)がいる」という発言にみられるように、中国指導部は国内の政治勢力や世論の動向に注意深く配慮する必要があります。

“何をするか予測できない同盟国・北朝鮮の手綱をどうにか引こうと水面下では工作を続けるが、表だって強硬な措置を取ることは避けるだろう”というのが、大方の見解です。
「(中国の英語表記の略称)PRCの意味は、People's Republic of China(中華人民共和国)じゃなくて、実は『please remain calm(どうか冷静さを保ってくれ)』と関係国すべてに対して何もせず報復に出たりもしないよう頼んでいるんだ、というジョークがある」【5月28日 AFP】

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