孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  野党、中国との対話へ  馬総統、「米国の参戦求めない」

2010-05-04 19:44:20 | 国際情勢

(台南“民生緑園” 左の建物は日本統治時代の旧台南州庁舎 右は旧錦町合同庁舎 真ん中の掲示板が本文で取り上げたものです)

【防空四要】
一昨日から台湾南部の台南を観光しています。
かつて鄭成功が拠点を築き、“古都”としての遺跡も多い街ですが、日本統治時代の名残も散見されます。
そんな台南市街の中心部に、孫文の銅像が立つ(日本統治時代は第4代台湾総督・児玉源太郎の像だったそうです)通称“民生緑園”と呼ばれる大きなロータリーがあります。

そのロータリーの緑地に“防空四要”と書かれた古びた掲示板がありました。
読む人もいないその掲示板には、“空襲時は、公私の地下道は一律に開放し、付近の市民はそこへ避難する”といったことが書かれています。
“空襲”というのは、中国共産党政権によるものでしょう。
車とバイクが溢れるロータリーには、立ち入る人影もなく、掲示板の文字もようやく判別できるぐらいにかすれているあたりが、現在の台湾の状況を示しているようにも思われました。

【民進党も中国対話へ】
“空襲”時の対応が真剣に語られる時代もあった台湾も、今や中台接近を進める国民党・馬英九政権です。
旅行中のここ数日だけでも、中台関係の緊密化を示すニュースをいくつか見ました。

****北京に台湾観光協会事務所=分断後初の出先機関相互開設*****
台湾の対中国旅行窓口機関「台湾海峡両岸観光旅遊協会(台旅会)」は4日、北京事務所をオープンした。中国側の「海峡両岸旅遊交流協会(海旅会)」も7日、台北事務所を開く予定で、1949年の中台分断後初めて、政府に準ずる機関の出先が相互に開設される。(後略)【5月4日 時事】
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****上海万博:台湾館が40年ぶり出展 双方が立場に配慮*****
・・・・万博には台湾が1970年の大阪万博以来、40年ぶりに出展。台湾で08年5月に馬英九政権が発足してからの中台関係改善を象徴するパビリオンは、随所に中台双方の配慮がみられ、今後、相互交流をさらに深める役割を担うことになりそうだ。
台湾館はアジアのパビリオンが並ぶAゾーンにあり、近くに巨大な中国館を望むが、高架の歩道をはさむ。台湾を自国の領土と主張する中国側が一定の配慮をしたとみられる。(中略)

一方、万博を機に中台の政治的な往来も活発化している。先月6日には韓正・上海市長が、直轄市の市長としては1949年の中台分断後初めて台湾を訪問。同29日には台湾の連戦・国民党名誉主席らが上海で胡錦濤国家主席と会談した。胡主席は「40年ぶりの台湾の出展は両岸(中台)関係改善の成果だ。上海万博は両岸の相互理解を促すだろう」と語った。【5月2日 毎日】
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中国との関係強化に動いているのは与党国民党・馬政権側だけではないようです。
****無条件での対中対話 台湾・民進党主席が提唱*****
台湾の最大野党、民主進歩党(民進党)の蔡英文主席は3日、日本人記者団との会見で、「中国との政治条件を付けない対話を排除しない」と語った。2012年の総統選に向け、民進党の対中政策を弾力化する狙いとみられるが、「一つの中国」原則の受け入れを台湾に迫る中国がどう出るかは未知数だ。
民進党は現在、蔡主席主導で今後10年の政治綱領作りに向けた討議を進めており、蔡主席は2日、台湾の対外戦略をめぐる公開討論会で、対中対話に応じる考えを表明していた。
蔡主席は対話に応じる理由として、「中国が中国国民党を通じて、台湾の民意や民進党を偏った形で理解している」ことを指摘、「高い透明性を保ち、中国に台湾人民の考えを正確に伝える」直接対話の重要性を強調した。
具体的な対話の進め方については、民進党系のシンクタンクや各種社会団体を通じて行い、政治・経済や環境、婦人、人権問題などについて討議する方針という。
政治家間の交流についても、県・市長や立法委員(国会議員)などから始めて、胡錦濤国家主席らとの首脳間対話を急がない考えを示した。

民進党は陳水扁前総統が04年の総統選時に、中国との原則をめぐる対立を棚上げする直接対話を提案したことがあった。しかし、中国に無視された。
中国共産党政権は台湾に対し、一貫して「一つの中国」原則のもとでの対話、交流を求めている。政治条件を付けない蔡主席の対話提案に中国が直ちに応じる可能性は高くない。
ただ、胡主席は08年末に発表した台湾への6項目提案でも民進党との関係を重視していただけに、対応が注目される。【5月4日 産経】
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この動きについて、“独立志向の陳水扁前政権時代に中国と対立を続けた民進党にとっては大きな方針転換で、2012年総統選での政権奪取に向け、現実路線にかじを切る構えだ。・・・今後、党内の独立派などの反発を抑え、党全体をまとめることができるかが焦点となる”【5月3日 共同】とも。
また、“ただ、民進党の呼びかけに中国がどう応えるかについては不透明な部分も多い。馬政権との交渉に中国が応じた背景には「お互いに『一つの中国』を認め、その内容はそれぞれが表現する」という「92年合意」が土台になっているからだ。民進党は党綱領に台湾独立を掲げ「92年合意」も認めていないだけに、対話の実現には曲折もありそうだ。”【5月3日 日経】と、今後の問題も指摘されています。

【“米国の参戦を求める考えはない”】
もうひとつのニュースには少し驚きました。
****中国との有事発生でも米国の参戦求めず 台湾総統が発言****
台湾の国民党政権を率いる馬英九(マー・インチウ)総統は4月30日、中国との有事が発生した場合、台湾支援で米国の参戦を求める考えはないとの立場を表明した。CNNとの会見で述べた。
馬氏は、中国との衝突のリスクを削ぐため米国からの武器調達は今後も続けるとしながらも、有事が起きても米国の参戦を促す考えはないと述べ、「この方針は極めて明瞭である」と強調した。また、自らこれまで進めてきた対中関係改善の成果で、中台紛争に米国が巻き込まれる危険性は過去60年間で最も少ないとし、台湾と中国との間の緊張の火種も大きく減じたとの見方も示した。
総統は会見で、航空路線、食糧、観光客招致や司法協力などの分野で中台は過去2年間で12件の協定に締結したとし、いずれの協定も台湾の主権や領土を犠牲にしたものではなく、台湾の繁栄と安定に寄与するものだと強調した。
しかし、米国からの武器調達については、台湾海峡の平和と安定の維持のために極めて重要との見解を表明。米国が武器輸出を現在の水準から縮小すれば、中台を含む地域情勢の信頼を低下させることになると述べた。
武器輸出を含む米台間の関係に中国は神経をとがらせており、今年1月には米国による台湾への地対空誘導弾パトリオット(PAC3)システムやヘリコプター「ブラックホーク」など総額60億米ドル以上の兵器売却決定に強く反発、撤回を要求している。ただ、米国は台湾側が求めていたF─16戦闘機の売却は見送っていた。
中国は、台湾は自国領土の一部と主張している。【5月1日 CNN】
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上記CNN記事では明示されていませんが、Record ChinaはこのCNNインタビューについて、馬総統が“米国が台湾のために戦争することを「永遠に求めない」と述べた”と報じています。
台湾の総統が「永遠に」という単語を用いてアメリカに対し、台湾海峡の緊張に際し出兵することを求めないことを、これほど明確に意思表示したのは今回が初めてとか。

台湾海峡が戦争状態に突入した場合、アメリカが台湾を防衛するために介入するかどうかについては、アメリカはこれまで中国との関係もあって、“ひとつの中国”という虚構の上にたって、あえて“曖昧”にする形で対処し、否定もしないことで中国への事実上の圧力をかけていました。
台湾サイドからは、アメリカの介入を明示するようにとの要望が以前はあったように理解していたのですが、今や、台湾有事でもアメリカ参戦を求めないと明言するまでになったようです。
“台湾有事”などありえない・・・という馬総統・国民党政権の意思表示でしょう。
でも、“米国からの武器調達については、台湾海峡の平和と安定の維持のために極めて重要”・・・ということで、微妙な問題への随分思い切った発言のようにも思えます。

普天間基地問題で日米軍事同盟にさざなみが立っていますが、台湾側から「参戦の必要はない」と明言されたら、アメリカの極東戦略には大いに影響するのではないでしょうか。

【台湾有事を起こさない知恵を】
台南の街を歩いていると、上空を戦闘機が轟音を響かせて飛ぶ姿が見られます。
****台湾空軍、即戦力の低さが議会で問題に*****
台湾空軍戦闘機の即戦力の低さが立法院(国会)で問題になっている。国防部の基準では、配備数の75%以上が常時、出撃可能な状態でなければならないが、主力戦闘機のF16(2人乗り)で70%、旧型のF5(同)では26%にとどまっている。補修部品の欠乏が主因のようだが、中国の軍備増強が急ピッチで進んでいるだけに、現状を憂慮する声が高まっている。(中略)
米国の民間研究機関「国際評価戦略センター」によると、中国はロシア製や国産の新鋭(第4世代)戦闘機を年内に400機ほどに増やすとされ、すでに中台空軍の戦力バランスは中国優勢に傾いている。台湾は財源難や馬英九政権の対中接近政策で、対策が後手に回っているようにもみえる。【4月30日 産経】
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中国空軍の“空襲”よりは、台湾空軍の整備不良の戦闘機が落ちてくる確率のほうが高いのかも。
“防空四要”の掲示板がこのまま忘れ去られていくように、台湾有事など起こらないように、中台の、更に日米を含めた理性的な対応・協議が望まれます。

コメント
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