孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  今後も続く双頭体制 期待できない北方領土問題での“前進”

2010-05-09 12:05:37 | 国際情勢

(ロシアのメドベージェフ大統領とノルウェーのストルテンベルグ首相(右)は4月27日、オスロで会談し、40年来の係争事案であった大陸棚境界について、均等分割による境界画定で合意しました。
“flickr”より By Statsministerens kontor
http://www.flickr.com/photos/statsministerenskontor/4555145226/)

【役割分担】
ロシアのメドベージェフ大統領が就任して2年が経過しました。
プーチン首相に比較すれば、リベラルなイメージもあり、また、経済近代化や汚職追放への意欲を見せる側面もありますが、基本的にはプーチン首相の権力基盤の上に立った“役割分担”であり、ロシアの双頭体制はこのまま続くという見方が一般的です。

****首相に実権、双頭体制安定=ロシア大統領、任期折り返し点に****
ロシアのメドベージェフ大統領は7日、就任から丸2年となり、4年の任期の折り返し点を迎える。大統領は経済近代化や汚職追放などを掲げ、独自色を出し始めたが、プーチン首相が国政の実権を握る「双頭体制」が揺らぐ気配は見えない。
メドベージェフ大統領は4月、オバマ米大統領とともに米ロの新核軍縮条約に調印、険悪化していた米ロ関係を修復軌道に乗せた。経済政策でも「金融危機でロシアは予想を上回る打撃を受けた。石油・天然ガス資源に依存すべきではなく、技術革新と近代化が必要だ」と述べ、プーチン時代の資源ナショナリズムからの転換を訴えている。

しかし、双頭体制に波風が立つ兆しはない。シンクタンク、政治情報センターのムーヒン所長は「メドベージェフ大統領には独自に行動するだけの権力基盤がなく、プーチン首相と協力する双頭体制を維持するしかない」と指摘する。
カーネギー財団モスクワ支部のシェフツォワ研究員も「プーチン首相は保守層、メドベージェフ大統領はリベラル派や西側にそれぞれアピールする言動を見せているが、役割分担しているにすぎない。双頭体制は現状維持が主眼であり、改革は期待できない」と述べている。【5月6日 時事】
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下記【産経】も、“大統領が「近代化」を掲げて政権のイメージアップに努め、首相が政策を進める役割分担”との見方です。
“「国家指導者の命令は実行されなくてはならない。できない者はだれでも(政権から)去る可能性がある」。メドベージェフ大統領は3月中旬、政策の実現率が低いとプーチン首相率いる内閣に不満を示した。
「大統領府と首相府の間に摩擦が起きていることを示そうとした」(露コメルサント紙)との観測も出たが、2人の個人的関係は盤石との見方が支配的だ。
大統領は昨秋以降、プーチン前政権批判とも受け取れる姿勢をしばしば見せてきたが、深刻な対立は表面化していない。大統領が改革のグランドデザインを示し、首相が努力する姿を見せて国民の不満を吸収する狙いといえそうだ。”【5月8日 産経】
ただ、汚職体質一掃にしても、政治的に競争勢力がなく、また、プーチン首相近辺に切り込めない現状では、改革は困難に思われます。

【“前進の兆し”?】
そのロシアを相手として膠着状態が続く北方領土問題について、“前進の兆し”とする記事を見ました。
****北方領土問題:前進の兆し 露、先端技術獲得を狙う 日本、政権浮揚の糸口に*****
北方領土問題が、解決に向け前進する兆しが見え始めている。鳩山由紀夫首相が交渉に意欲を示す一方、ロシア側も積極姿勢に転じているためだ。日露両国は首脳会談を年内に3回開くことで一致したほか、4月は露政府要人の来日が相次いだ。首相はロシア側の出方を見極める構えだが、「政権浮揚の頼みの綱」として6月からの首脳会談で大胆な決断をする可能性もある。ただ、米軍普天間飛行場の移設問題でつまずけば政権の求心力が失われるのは必至で、領土交渉どころではない事態も想定される。【野口武則】(中略)
(鳩山)首相の祖父、一郎元首相は1956年の日ソ共同宣言に署名した。北方領土問題の解決は、首相にとって宿願だ。共同宣言は、ソ連が平和条約締結後に歯舞群島、色丹島を日本に引き渡すとしたが、2島返還では不十分と平和条約を結ばなかった。以後、交渉は進展していない。
打開に向け首相に接近するのが、汚職事件で失脚したが民主党政権で復権した鈴木宗男衆院外務委員長だ。4月30日には自らのモスクワ訪問を前に首相と面会。終了後記者団に「首相は日露関係を動かしたいという大変な情熱を持っている」と語った。同9日にも首相に「現実的な交渉をするしかない」と、持論の歯舞、色丹両島の「2島先行(段階)返還」論を説いた。

首相は今のところ、「日本が受け入れ可能な案をロシア側から引き出すまで待つ」(外務省幹部)との外務省方針に歩調を合わせる。09年11月の首脳会談でロシア側は「独創的アプローチ」の具体案を示したが、2島返還だったと見られ、首相は「2島返還では理解できない」と拒否した。
ただ、参院選を控え、支持率低迷のまま6月にカナダで開かれる主要8カ国(G8)首脳会議の際に行う日露首脳会談に臨む場合、与党内には「日本がカードを切るべきだ」と期待する声もある。首相周辺も「日露外交で政権浮揚を図れないか」と期待を口にする。

 ◇相次ぐ要人来日、首脳会談3回「露から」
「6、9、11月の3回の首脳会談は、ロシア側から持ち掛けられた」と外務省幹部は明かす。ロシア側が積極的な背景には、12年の次期大統領選をにらみ、メドベージェフ大統領が手がける新事業に、日本の先端技術を導入したいとの狙いがあるとみられる。領土問題はその呼び水というわけだ。
ロシアは2月、新技術開発と商業化の拠点「ロシア版シリコンバレー」をモスクワ郊外のスコルコボに創設すると決定。予算100億ルーブル(約320億円)を投入し、医療、エネルギー効率、核エネルギー、宇宙・通信、IT(情報技術)の5分野で、国内外から研究者や企業を集める。この事業に日本の技術を導入したい考えで、4月にフリステンコ産業貿易相ら要人が訪日した。
日露経済協力の主な課題だった極東・シベリア開発は、プーチン首相の大統領時代から引き継いだもの。これに対し今回の事業は、経済の近代化を唱える大統領の「肝いり」で、成否は12年の次期大統領選の結果に直結する。ロシア政府関係者は「日本の首相が誰になっても交渉を進める」と事業成功への意欲を強調する。【5月2日 毎日】
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しかし、メドベージェフ大統領は、これまでより後退した“近い将来の解決は困難との見方”を示しているとも報じられています。
****領土解決は歴史的展望=「今世代」から後退-ロシア大統領*****
ロシアのメドベージェフ大統領は7日、日本との懸案である北方領土問題について、「極端な立場を離れるなら、最終的には歴史的展望において解決可能だ」と述べ、近い将来の解決は困難との見方を示した。大統領就任から2年の任期折り返し点を迎え、イズベスチヤ紙とのインタビューで語った。
メドベージェフ大統領はこれまでの日ロ首脳会談で「問題解決を次世代に委ねない」と述べ、今の世代で解決を図ることに意欲を示していたが、立場を後退させたとみられる。
大統領はインタビューで「領土問題は極めて困難」と強調した上で、「われわれはロシアの国益を踏まえ、解決方式に関する独自の見解を持ってこの問題に取り組んでいる。日本側も同様だ」と述べた。
その一方で、大統領は「両国は戦争状態にはない。関係は正常化しており、政治・経済の交流は発展している」と述べ、領土問題が解決しなくとも日ロ間の経済協力などが進展するとの見通しを示した。 
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【ノルウェー、中国とは“2等分方式”】
ロシアは先月末、40年来の係争事案であったノルウェーとの大陸棚境界について、海底エネルギー資源の共同開発を視野に、係争海域を2等分する方法で合意しました。

****ロシア:ノルウェーとの大陸棚境界を画定 係争域2等分*****
ロシアとノルウェーは27日、北極圏のバレンツ海と北極海で40年にわたり争ってきた大陸棚の境界を画定することで基本合意した。約17万5000平方キロの係争海域を2等分する方法で、天然ガスなど豊富な海底エネルギー資源の共同開発を視野に、お互いが歩み寄ったといえる。(中略)
ノルウェーは07年、バレンツ海のスノービット・ガス田で天然ガスの生産を開始した。一方、ロシアも16年をめどにバレンツ海でシュトクマン・ガス田の生産開始を計画。しかし、現時点で氷の下に埋蔵されている資源の採掘技術を持たないため、「ノルウェーの優れた技術の導入を望んでいる」(エネルギー問題の専門家)といわれる。メドベージェフ大統領は会見で「(境界画定の)合意を実践するためには、共同開発が求められている」と述べ、ノルウェーとの共同資源開発に期待を示した。
ノルウェーは冷戦時代の1970年から、当時のソ連とバレンツ海などの境界画定をめぐり交渉を続けてきた。係争海域は日本の領土のほぼ半分に相当する。
ロシアは08年、ソ連時代から係争してきた中国との東部国境画定にあたり、国境の川の島をほぼ2等分することで最終解決しており、今回も同様の手法を採用した形だ。
ロシアと日本の北方領土問題は未解決の状態が続いているが、ロシア側が実利を見いだせば、領土問題で柔軟に対応する側面を見せたといえる。【4月28日 毎日】
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【“前進”が期待できない日本国内事情】
一般的に見て、国境線・境界を決定しているのは現在の力関係・国際情勢であり、過去の条約・合意はその時々の力関係・国際情勢の結果です。
また、“交渉”というものは双方の立場・利害がありますので、たとえバンコクやプノンペンの屋台での買い物であれ、国家間の領土交渉であれ、一方が自己の主張の100%実現に固執する限り成立しません。

麻生政権末期にもありましたが、政権が行き詰まると起死回生の切り札として“北方領土問題”が浮上するようです。しかし、本当にまとめる意志があるなら、「極端な立場を離れた」柔軟な発想が必要とされますが、今の日本国内の世論にそういったものを受け入れる雰囲気はありません。
また、そうした方針をリードしていくには強いリーダーシップが必要とされますが、政権末期ではそれもありません。
ということで、この問題での“前進”は期待できないのではないでしょうか。

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