孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ハンガリー財政危機表面化  欧州経済危機にアメリカの“安堵”と“優越感”

2010-06-06 12:37:36 | 国際情勢

(日本の財政破綻も「Ifの問題ではなくWhenの問題」とも言われていますが、菅首相はどのように道筋をつける考えなのか・・・ “flickr”より By Ben Heine http://www.flickr.com/photos/benheine/3041594660/)

【「ギリシャ危機」の二の舞い】
かねてより、ギリシャ財政危機がスペイン・ポルトガルなど“PIIGs”と称される同様の問題を抱える国へ飛び火することが懸念されていましたが、4日、ハンガリーの財政赤字が拡大する可能性が高まり、週明けにも新たな財政再建策を公表する見通しになったことが報じられ、欧米の金融市場ではギリシャに端を発した欧州の財政危機が東欧に飛び火することへの懸念が広がっています。

ハンガリーの経済危機は今に始まった話ではなく、すでに2008年10月段階で、IMF、EU、世界銀行が計200億ユーロ(約2兆5000億円)の金融支援を実施すると発表するなど、IMF支援のもとで財政再建に取り組んできたはずですが、うまく進んでいなかったようです。

****ハンガリー:「ギリシャ危機」二の舞い懸念 財政赤字粉飾****
4月に8年ぶりに政権交代したばかりのハンガリーのオルバン新政権は4日、財政赤字が大幅に拡大する可能性が高いことを明らかにした。新政権は、社会党前政権が「粉飾」していたとの見方を示しており、政権交代に伴う赤字隠しの発覚が引き金となった「ギリシャ危機」の二の舞いとなる、との懸念が強まっている。これを受け、4日のニューヨーク外国為替市場ではユーロが独歩安の展開となった。

ロイター通信などによると、与党フィデス・ハンガリー市民同盟の幹部が3日、財政状況が予想より悪く、ギリシャ危機がハンガリーで起こる危険があると発言。オルバン首相の報道官は4日、社会党前政権時代に財政赤字のデータが改ざんされたと指摘。「ギリシャでも経済データが改ざんされ、(債務不履行の危機の)正念場がきた。ハンガリーはその手前だ」と危機感をあらわにした。
オルバン政権は、今年の財政赤字について、国際通貨基金(IMF)との合意目標の対国内総生産(GDP)比3.8%を上回る可能性があるとしていた。銀行や専門家の間は4.5~5%と見ているが、今回の報道官の発言を受け、7.5%と大幅に拡大するとの見方も浮上し、市場に動揺が広がっている。
AFP通信によると、IMFは、週明けにも同国へ高官を送り、善後策について協議する。これに伴い、政府は正確な財政状況と財政再建策を公表するとみられる。【6月5日 毎日】
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ハンガリーの政権交代に伴う、国外在住のハンガリー系住民にハンガリー国籍を付与する法案が起こしてしている波紋、また、国内少数民族ロマへの迫害・差別の問題などについては、5月28日ブログ「ハンガリー 在外ハンガリー系住民への国籍付与」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100528)で取り上げたところですが、こうした民族主義的な国内政治情勢の背後には、今回あきらかになった経済的な問題があるようです。

【ユーロ下落、ニューヨーク株価も】
ハンガリー財政危機表面化が原因のひとつとなって、ニューヨーク外国為替市場ではユーロが対ドルで下落し、4年超ぶりに1.20ドルを割り込みました。ニューヨク市場の株価も3%超下落。欧州の債務危機拡大をめぐる懸念が広がっています。

****NY株:急落323ドル安*****
4日のニューヨーク市場は、欧州の新たな財政不安の表面化や、米景気の先行きへの懸念が強まったことなどを受けて、大荒れの展開となり、株式市場ではダウ工業株30種平均が急落、前日終値比323.31ドル安の9931.97ドルと1万ドルの大台を割り込み、2月8日以来、約4カ月ぶりの安値で取引を終えた。ダウ平均の下げ幅は今年3番目の大きさだった。
外国為替市場では、欧州で新たにハンガリーの財政不安が表面化し、東欧諸国に信用不安が広がるとの懸念が生じたことに加えて、フィヨン仏首相がユーロ安を容認したと受け止められる発言をしたことなどを受けて、ユーロが主要通貨に対して、独歩安の展開となった。ユーロ・ドル相場は一時、1ユーロ=1.1955ドルと、06年3月中旬以来、約4年3カ月ぶりのユーロ安水準をつけた。(後略)【6月5日 毎日】
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【米:懸念と安堵と優越感が交錯】
欧州の財政危機は、当然ながら日米を含む世界経済全体を揺るがす事態に発展します。ニューヨクの株式・為替市場の反応は至極当然の反応ですが、一方で、アメリカ国内には欧州経済の危機について、基軸通貨としてドルの地位が当面維持されることについての“安堵”、アメリカ保守派にとっては「社会主義的」な高福祉政策破綻と評価される事態への“優越感”・・・そうした感情もあるとか。

****ギリシャ財政危機 懸念・安堵・優越感、錯綜する米*****
ギリシャの財政危機に始まるヨーロッパの動揺への米国の反応がおもしろい。懸念と安堵(あんど)と優越感が交差する、なんとも複雑な態度なのだ。米欧の結びつきをみれば、ギリシャの危機が米国に危険な余波を及ぼす可能性は当然だろう。
なにしろ米国の銀行の欧州への融資は総額1兆5千億ドルにのぼる。米国の輸出全体の4分の1は対欧州である。欧州の財政が崩れれば、米国にも直接の被害が生じる。
米国が国際通貨基金(IMF)のギリシャへの巨額の救済融資に賛成したのも、その懸念からだろう。ガイトナー米財務長官がロンドンを訪れ、ギリシャ危機対処への国際協調をイギリス側と話しあったことも同様だといえる。

しかしその一方、米国側では微妙な安堵感もうかがわれる。ユーロはやはりドルにはかなわない、という再認識もその一端だろう。「ギリシャ危機の最も顕著な影響は基軸通貨としてのドルの役割を今後の一世代もの期間、確定したことだろう」(ファリード・ザカリア・ニューズウィーク誌国際版編集長)という受けとめ方だ。
ユーロの下で団結するはずの欧州連合(EU)のギリシャ危機への対処は鈍く、乱れた。ユーロの構造的な欠陥や信頼性の不足が露呈されたというのだ。米国のその認識の背後では、国家が主権の一部を譲りあうというEUの概念への日ごろの落ち着かない思いが、今回のEU側の無能ぶりに「ほら、みたことか」というほっとした感じに転じたともいえる。

米国の反応でさらに大きいのは、今回のギリシャ危機を戦後の長い年月の西欧の社会主義的「大きな政府」政策の破綻(はたん)として位置づける見方だろう。「ギリシャの失態はケインズ主義的過剰政府支出の終わりを告げている」(米紙ウォールストリート・ジャーナル社説)という見解である。その背後にも米国本来の民間主体の資本主義システムがより優れていることが証明されたのだという優越感ふうの示唆がある。
確かにギリシャの財政崩壊の土壌には公務員や一般労働者の賃金、休暇、年金の超優遇という高福祉政策が存在した。国民の生活の豊かさを政府支出で支える「巨大な政府」策がふんだんに実行されてきた。だから米側では「ギリシャの指導者はケインズ的助言を排除して政府支出を大削減したイギリスのサッチャー首相の実例に従うべきだ」(経済学者のアラン・メルツァー氏)として、今こそ民営化の促進を、と奨励する。
米国ではさらにギリシャ危機が西欧全体の高福祉国家政策の終わりの始まりとみる向きが多い。米紙ニューヨーク・タイムズはパリ発で「財政危機が欧州の生活スタイルの福祉受益を脅かす」という長文の記事を載せた。西欧諸国が国民の高齢化や経済の停滞で巨額の政府支出が困難となったが、その破綻の先頭がギリシャだというのだ。ウォールストリート・ジャーナルのダニエル・ヘニンガー記者は「私たちは『非欧州党』」という題のコラムで「米国民は躍動する将来を望むならば、欧州の社会主義的経済志向を排すべきだ」と主張した。

米国の欧州への錯綜(さくそう)した姿勢はオバマ大統領にとってはさらに屈折した意味を持つ。大統領の医療保険改革のようなリベラル政策は「欧州の社会主義志向に近い」と評されてきたからだ。その点では大統領が苦労して成立させた医療保険改革法を破棄すべきだという米国民が全体の60%にも達したという5月末の世論調査結果は、偶然ではないのだろう。(ワシントン 古森義久)【6月6日 産経】
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“「福祉国家」=社会主義”というアメリカ的認識に賛同はしませんが、日本にとっても、群を抜く債務状況のもとで年金・福祉政策をいかに維持、あるいは再構築するかという議論が緊急の課題です。

アメリカのついでに、ユーロ危機へのイランの反応。
****イラン:ドル買いへ 嫌米でもユーロ安には勝てず****
イラン国営放送は2日、イラン中央銀行が保有する外貨準備のうち450億ユーロ(約5兆900億円)を売却し、代わりに米ドルや金を購入すると伝えた。核開発問題を巡り対米関係が悪化する中、イランは近年「ドル離れ」を急速に進めてきた。だが、ギリシャの財政危機を機に、5月の1カ月だけでユーロが対ドルで7%以上下落したことなどを受け、ドル購入を余儀なくされた形だ。(後略)【6月3日 毎日】
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アフマディネジャド大統領はこれまでドルからユーロなどへの転換を進め、07年11月の石油輸出国機構(OPEC)首脳会議後に「米ドルは全く価値のない紙切れだ」と発言したこともあります。

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