孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

“麻薬大国”アフガニスタン  社会を蝕む麻薬の害

2010-06-23 23:01:29 | 国際情勢

(ISAF側提供の写真 小麦栽培などに転換するため、村民の協力のもとケシ畑をつぶしている様子
実際には、欧米軍は農民の反発を避けるため、ケシ栽培には目をつぶっている・・・との指摘もあります。
“flickr”より By isafmedia
http://www.flickr.com/photos/isafmedia/4602935853/)

【世界の9割】
アフガニスタンが世界の麻薬生産の9割を占めていこと、そして麻薬取引がタリバンの資金源となっていることは周知のところです。
アフガニスタンでは、90年代の内戦で各軍閥勢力が資金源としてケシ栽培に関与。タリバン政権が成立すると、最高指導者オマル師の禁止令で一時的に急減しましたが、アメリカの軍事攻撃後にタリバンが麻薬を資金源とする形でケシ栽培が再び拡散しています。この間、アフガニスタン国内にはヘロイン精製工場が増え、アフガニスタンはケシ輸出からヘロイン輸出国に転換しています。【4月16日 毎日より】

なお、今年について言えば、アフガニスタンのケシ栽培は“不作”で、アヘン生産は大幅に減少する見通しだとか。
****今年のアヘン出荷量は減少の見通し、病気が原因か アフガニスタン****
アフガニスタン南部のケシ畑がピンク色に染まり収穫の時期が近づいているが、農家や関係者によると、世界のアヘンの90%を供給する同国の今年のアヘン生産量は大幅に減少する見込みだという。
麻薬取引市場の撲滅という観点では良いニュースだが、旧支配勢力タリバンや麻薬ギャング団との戦いが激化するアフガニスタンで、家族を養おうと農業を営むアフガニスタンの農家にとっては深刻な事態になりかねない。
農家や専門家によるとケシ収穫量減少の理由としては、一部地域で降雨量が多く、別の地域で干ばつが起きたことや、小麦などの作物の種子の無償提供、食用作物の価格が良かったこと、そして、一部地域でケシを襲った謎の病気などがあるという。
この謎の病気については、一部の農家が米国と英国による化学薬品の散布によるものだと批判しているとの報告もあるが、国連薬物犯罪事務所(UNODC)は真菌類による植物の病気である可能性が高いと述べた。【5月15日 AFP】
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“小麦などの作物の種子の無償提供”で、ケシ栽培から他のまっとうな農業への転換が図られれば結構なことですが、カルザイ政権の統治能力の欠如でそれがうまく運んでいない結果、アフガニスタンは麻薬大国となっています。
他作物への転換を誘導する政府の施策がない限り、もともと不十分な灌漑施設が戦乱で荒れ果てたアフガニスタンにおいて栽培可能な作物はケシぐらいしかなく、ケシ栽培がアフガニスタン農民の生活を支えるところとなっています。

【増加する中毒患者】
広範なケシ栽培の当然の帰結として、国民に麻薬中毒者も増え、社会不安が広がっています。
****アフガン、100万人麻薬中毒*****
アフガニスタンで、15~64歳の約100万人が麻薬中毒者であることが21日、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が公表した調査で明らかになった。中毒者数は全人口の8%に上り、世界平均の2・65%を大幅に上回っている。
アフガンはアヘンの材料となるケシの約9割を生産する“麻薬大国”だが、中毒者数でも“大国化”しつつあることから、UNODCは「非常に憂慮すべき状態」と懸念を強めている。
UNODCが、紛争後のアフガンで薬物使用に関する本格的な調査を行ったのは今回が初めて。しかし、2005年に行われた同様の調査と比較すると、アヘン中毒者の数は15万人から23万人と53%増。ヘロイン中毒者は5万人から12万人へと140%増加した。
アフガンは麻薬を入手しやすい環境であるほか、麻薬中毒者の治療・更生施設が不足していることが、中毒者増に拍車をかける大きな要因になっているようだ。【6月22日 産経】
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【ケシ栽培を黙認する欧米 ロシアは批判】
アフガニスタン国内だけでなく、アフガニスタンからの麻薬流入はイランやロシアなど周辺国でも大きな問題となっています。
麻薬流入が社会問題となっているロシアは、欧米の“手ぬるい”麻薬栽培摘発を批判しています。

****アフガニスタン:ロシアと欧米対立激化 麻薬栽培摘発巡り*****
泥沼化するアフガニスタン情勢で、駐留する欧米軍が麻薬栽培の摘発に乗り出すか否かをめぐり、ロシアと欧米の論争が激化している。米国や北大西洋条約機構(NATO)は、アフガン農民の反発を憂慮し、積極的に摘発していないが、ロシアは欧米の姿勢が麻薬流出に拍車をかけていると批判し、方針転換を迫っている。

ロシア政府は今月9~10日にモスクワで、アフガンの麻薬問題に関する閣僚級国際会議を開き、50カ国以上が参加した。メドベージェフ露大統領は世界各地で約100万人の若者がアフガン産麻薬の摂取で死亡したとし、「ロシアや近隣諸国だけでなく、欧州、米国、カナダへ相当な衝撃となっている」と警告。ラブロフ露外相も国連安保理で同問題に関する決議を採択すべきだと主張した。
一方、モスクワの会議に出席したNATO現地司令官の一人は、NATO軍がアフガン警察による摘発作業を補佐しているが「我々は直接に摘発する義務を負っていない」と発言し、積極摘発にはやや距離を置く姿勢を示した。アフガンのムクビル麻薬対策相も欧米を配慮して、ロシアの要求に同意しない考えを示し、ロシアと米欧・アフガン間の姿勢の違いが鮮明になった。

ロシア国内では麻薬汚染が深刻だ。麻薬統制局によると、同国ではソ連崩壊後の20年間で麻薬消費量が20倍となり、麻薬常用者は200万人を超え、毎年8万人が新たに麻薬に手を出しているという。消費される麻薬の9割は、アフガン産ヘロインとみられている。
ロシアはソ連時代のアフガン侵攻で、ソ連兵1万5000人が死亡した経験から、同地への軍事関与を避けている。一方でロシアは麻薬の脅威と欧米の消極姿勢を結びつけることで、自らの存在感をアピールする狙いもあるようだ。現代アフガン研究所のセレンコ研究員は、麻薬問題を大々的に取り上げて、アフガン情勢への「関与」を図っているとの見方を示す。【6月12日 毎日】
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先述のように、ケシ栽培がアフガニスタン農民の生活を支えている現状にあっては、むやみに摘発するだけでは農民の反感を高め、ひいてはタリバン対策にマイナスになることから、欧米はケシ栽培摘発には消極的な対応をとっています。
2月に南部ヘルマンド州にある世界最大級のケシ生産地、マルジャでアメリカ主導の大規模なタリバン掃討作戦が実施されましたが、このときも結局ケシ栽培には目をつぶったようです。
“米国が「タリバンの資金源」と指摘するケシだが、アフガン政府によると、米英軍は今回の軍事作戦でケシ畑に目をつぶった。オバマ米政権は米軍増派に合わせ、南部カンダハルで次の作戦を予定している。現地では反米感情の悪化が作戦の障害となるのを避けるためケシ栽培が黙認されたと解釈されている。”【4月16日 毎日】

【跋扈する麻薬密輸組織】
内陸国アフガニスタンは、六つの国と接する国境線の長さが計5530キロもあって、麻薬取引摘発には周辺国の協力が必要ですが、アフガニスタン政府は「周辺国はアフガンとの共同取り締まりに消極的だ」と訴えています。国境地域での共同取り締まりはイランと2月に始まったばかりで、最も国境線が長いパキスタンは「まったく話が進まず、協力的でない」(ムクバル麻薬対策相)とのこと。

アフガンからの密輸ルートは大きく三つあるそうで、(1)カザフスタンからロシアを経由して欧州、英国にいたる「ヨーロッパ・北部ルート」(2)タジキスタンやウズベキスタンなどを通り、ロシアへ流れる「中央アジア・北部ルート」(3)パキスタン南部やイラン、トルコを経由して英国にいたる「バルカンルート」だそうです。

“アフガニスタンの闇市場ではヘロインが1キロ当たり約800ドルで売られており、それが密輸先のロシアで5万ドル、西欧では30万ドルの高値で取引される”【6月5日 毎日】ということですので、タリバンならずとも、その甘い汁に手を出したくなります。
アフガニスタンでは多くの密輸組織が暗躍しており、「中央アジア経由の麻薬密輸は、複数の地元マフィアが仕切っている。戦争で忙しいタリバンが関与する余地はない」【4月17日 毎日】といった指摘もあります。

隣国タジキスタンでの麻薬取締について、
“タジク南西部の国境の町ニジノピャンジ。強い日差しが照りつける中、税関係官がアフガンから入国するトラックを検問していた。部品を一つずつ外して入念に調べているものの、麻薬を検知できる最新のスキャナー機器はなく、「抜け穴」は多い。タジク独立後、アフガンとの国境を警備していたロシア軍は05年までに撤退した。
アフガンからの密輸手段はさまざまだ。ヘロインをボタンの内側に埋め込んだり、監視が甘くなる女性や子どもの着衣に隠し込んだりする。国境のピャンジ川を深夜にゴムボートで渡る運び屋も後を絶たない。”【6月5日 毎日】と、報じられています。

【政府高官、警察、地方有力者も関与】
アフガニスタンは周辺国の非協力を非難していますが、タジキスタン側は「密輸の8割は政府高官が絡んでいるはずだ」「アフガンで法と秩序が回復されない限り、タジクの麻薬問題は改善できない。すべてはアフガン次第だ」と、アフガニスタンの姿勢に問題があるとしています。
カルザイ大統領の弟、ワリ・カルザイ氏が麻薬取引に関与しているとの話は以前からあります。
また、警察や地方有力者の麻薬ビジネスへの関与も指摘されています。
麻薬患者の増大だけでなく、アフガニスタンの政治・社会システムが麻薬に汚染されているようです。

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