孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU  対イラン独自制裁 加盟国の中期的予算計画に対する審査の導入

2010-06-18 23:33:35 | 国際情勢

(左からファンロンパイEU大統領、メドベージェフ露大統領、バローゾ欧州委員会委員長
ロシアとEUの首脳会議が5月31日から2日間、ロシア南部ロストフナドヌーで開催され、「近代化のためのパートナーシップ(PFM)」の立ち上げで合意しました。
“flickr”より By President of the European Council
http://www.flickr.com/photos/europeancouncil/4663335766/)

【エネルギー分野に踏み込む独自制裁】
ギリシャ財政危機に端を発するユーロ危機の渦中にあり、その収拾に追われるEUですが、イラン核兵器開発疑惑に関する独自制裁を打ち出しています。
EU独自制裁は、イラン経済の中枢であるエネルギー分野に踏み込む形で、イランの「ガス・石油産業の基幹部門」に対する欧州からの新規投資、技術支援・移転、機材提供を禁じるものとなっています。特に移転を禁止する項目として、石油精製、天然ガス液化に関する技術を挙げています。

イランは世界有数の産油国で、天然ガス埋蔵量はロシアに次ぎ世界2位ですが、精製能力が低いため、ガソリンの約4割を輸入に依存しています。もし、エネルギー分野の制裁が本格的に発動されれば「イラン経済は大打撃を受ける」とされていますが、中国・ロシアはそこまで踏み込むことには賛同していません。

なお、アメリカは16日、ガイトナー財務長官が、ミサイル産業と取引きのあるイランの国営銀行「ポスト・バンク」や、核開発に深く関与しているとされる「イラン革命防衛隊」の幹部や関係者、それにイラン政府が事実上運営する石油会社や保険会社などあわせて22社を対象に、これらの企業や個人との取引きを禁止する制裁を発表しています。

****イラン核問題:EUの独自制裁 態度硬化も予想*****
欧州連合(EU、加盟27カ国)は17日、ブリュッセルで開いた首脳会議でイランの核問題を巡り、同国のエネルギー分野を対象とする独自制裁の発動方針を決める。米国も16日に制裁措置を発表しており、25日からの主要8カ国首脳会議(G8サミット)を前に欧米が圧力強化で足並みをそろえた形だ。EUは同時にイランに対話を呼びかけているが、制裁決定を受けてイランが態度を硬化させることも予想される。

今回のEU独自制裁は、核・ミサイル関連とのかかわりが疑われる商取引や貨物運輸の禁止など、既に発動済みの措置に加え、制裁対象分野をイラン経済の屋台骨である石油・ガス産業に拡大したのが特徴だ。また、欧州におけるイラン金融機関の営業を制限し、金融制裁も強化した。
エネルギー分野の制裁にはドイツなどが難色を示していたが、フランスなどの制裁強化派が押し切った。制裁の細目は来月のEU外相会議で決める。

EUは「アメ(対話)とムチ(圧力)」の対イラン政策を取っており、独自制裁はムチの強化にあたる。だが、アシュトン外務・安全保障政策上級代表(EU外相)は「制裁は(対話の)終局ではない」と、対イラン協議の可能性に望みを託している。上級代表は14日、イランの核交渉責任者、ジャリリ最高安全保障委員会事務局長に協議を呼びかける書簡を送ったと述べた。

一方、イランはトルコを通じてEUに対話を打診してきた。アフマディネジャド大統領はEU首脳会議前日の16日、欧米との核協議に応じる場合の新たな条件を近く明らかにすると述べた。大統領はアラブ首長国連邦(UAE)の衛星テレビとのインタビューで、欧州は政策面で米国と一線を画すべきだと主張し、欧米の連携に揺さぶりをかけている。

核問題を巡る情勢は世界の力関係の変化を反映している。イランと低濃縮ウランの国外搬出合意をまとめたのは、欧米主導の核協議の枠組みに加わっていないブラジルとトルコだった。EUは新基本条約「リスボン条約」で外交力強化を目指したが、ギリシャ危機以降、ユーロ防衛に忙殺され、影響力を発揮できていない。新興国の台頭で欧米の地位は相対的に低下しており、欧米の制裁強化にどれだけの国々が追随するかどうかが焦点となる。【6月17日 毎日】
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【ロシアは反発】
こうしたEU・アメリカの対イラン独自制裁の動きに、イランとの関係が深いロシアは反発しています。
****イラン核問題:制裁措置、露が「拒否」の声明 「米とEUに失望」****
ロシア外務省は17日、米国と欧州連合(EU)による対イラン独自制裁措置について「国連安保理(の制裁)を超越しようとする受け入れ難い試み。全面的に拒否する」と批判する声明を発表した。ロシアは従来、イラン制裁へ消極的な立場を取ってきたが、欧米が安保理制裁の直後に独自に行動したことへ不快感を強めている。
声明は欧米の制裁措置が「イラン核問題を最適に解決しようとしてきた対話と協力の土台を損なう」と指摘。インタファクス通信によると、リャプコフ露外務次官も同日「米国とEUが呼びかけを聞き入れなかったことに失望している」と述べた。
ロシアはイランの核兵器開発に反対する一方で、南部でブシェール原発の建設を請け負っており、厳格な制裁で同国を追い込む事態を望んでいない。「イラン指導部が国際社会との対話の継続を表明していることを歓迎する」(リャプコフ次官)と早期の対話再開を呼びかけた。一方、ロシアがイランと売買契約を結んだ対空ミサイル「S300」に関し、同次官は安保理決議でイランへの売却を禁止された兵器に該当するという見解を示した。
国連安保理は9日、大型武器の輸出禁止などの対イラン追加制裁決議を採択した。【6月18日 毎日】
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イラン核兵器開発疑惑をめぐる各国の動きは、EU、アメリカ、ロシア、中国、そしてブラジル・トルコなどの新興国が、それぞれの影響力を世界にアピールする場ともなっています。

【加盟国予算編成を監視】
EUについては、財政問題でも新たな動きが報じられています。
****EU首脳会議:加盟国の予算計画審査導入で合意*****
欧州連合(EU)は17日、ブリュッセルで首脳会議を開き、ギリシャ財政危機の拡大を防ぐため、加盟国の中期的な予算計画に対する審査の導入と、財政規律に違反した国への制裁を強化することで合意した。
加盟国がEUの財政規律を順守するための財政法、中期的な予算計画を整備し、EUが審査する。また、各国が毎年EUに提出している経済成長見通しに、来春からは各国の予算状況を加える。加盟国が楽観的な成長見通しに基づいて予算を編成する場合が多いことから、EUが監視の目を光らせる。当初は予算案の事前審査をする構想を提示していたが、英国などが反対したため、中期的予算計画に変更した。
また、首脳会議は、カナダ・トロントで26~27日に開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、金融機関が破綻(はたん)した場合の処理・救済費用を捻出(ねんしゅつ)するため銀行に新税を課す「銀行税」導入を提案する方向で調整している。だが、カナダや日本は導入に消極的で、G20での合意の見通しは立っていない。【6月17日 毎日】
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“予算案の事前審査”までいくと、国家主権との厳しい対立が表面化しそうです。
EUの中核をなすフランス・ドイツが、今後、国家主権を大幅に縛るようなレベルでの統合に賛同するかどうかについては疑問があります。

ただ、先日のブログでも触れたように、“EU諸国は常に共通の解決策を見出してきた。ヨーロッパ統合の理想に思い入れがあるからではなく、ヨーロッパは世界で最も経済的に相互依存した大陸だからだ。協力する以外に道はない”【6月16日号 Newsweek日本版】という現実のなかで、EUはこれまで何度もとん挫しかけながらも、しぶとく統合に向けての歩みを進めています。

【内部調整システムが機能するのか?】
ユーロについては、ギリシャのような財政規律が保てない国の追放とか、逆にドイツなど強い国の離脱・・・といった話題も取り沙汰される状態ではありますが、今回のEU首脳会議でエストニアのユーロ加盟が正式承認されています。アイスランドのEU加盟交渉開始も合意されています。

****EU首脳会合、エストニアのユーロ加盟を正式承認*****
欧州連合(EU)は17日の首脳会合で、エストニアのユーロ圏加盟を正式に承認した。加盟は来年からで、17カ国目となる。エストニアのユーロ加盟は、先に開かれた財務相会合ですでに承認されていたため、首脳会合での承認は形式的な措置。
チェコやハンガリー、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、ルーマニア、ポーランドなどもユーロ加盟を目指しているが、債務水準などの条件を満たしておらず、当面は加盟は難しいとみられている。 
またEU首脳会合では、アイスランドのEU加盟交渉を開始することで合意した。一方で、経営破たんした同国のオンライン銀行「アイスセーブ」をめぐる英蘭預金者の保護問題に関し、早期に関係国と問題を解決するようアイスランドに要請した。
アイスランドは長年、EU加盟に後ろ向きだったが、世界的な金融危機で銀行システムが大きな打撃を被ったことを受け、昨年加盟を申請している。
だが今年3月に実施された「アイスセーブ」の英蘭預金者に総額約50億ドルを返済する法案の是非を問う国民投票では、反対多数で同法案が否決され、預金者保護を求める英蘭政府と対立。これまでのところ返済交渉は難航しており、アイスランド国民の間でEU加盟に反対するムードも広がっている。
EU首脳は会合で、加盟交渉は開始するとしたが、交渉ペースは英蘭預金者への返済に関するアイスランドの義務履行状況によるとした。【6月18日 ロイター】
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アイスランドの金融危機は、小国が単独でやっていくことの厳しさを明らかにしました。
いろいろ問題はあっても、やはり“寄らば大樹の陰”というか、EU・ユーロの存在感が頼りにされるようです。
ただ、EU内部における、独仏など中核国と新規参入した国々との関係、ユーロ内部での財政基盤の強い国と弱い国の関係を調整するシステムをどのように機能させていくかは、今後の課題でもあります。

コメント
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