孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ガザ地区支援船団強襲事件 強まるイスラエル批判 国内からも批判 ラファ開放

2010-06-02 21:51:15 | 国際情勢

(東エルサレムのヘブライ・エルサレム大学外で31日行われた支援船強襲事件への抗議集会
に参加する学生 “flickr”より By HanadiTalk
http://www.flickr.com/photos/hanaditalk/4657350094/)

【「血塗られた虐殺だ」】
経済封鎖が続くパレスチナ自治区ガザ地区に向かっていた支援船団が公海上でイスラエル軍に急襲され、死者9名を含む多数の死傷者が発生した事件については、第一報が入った一昨日のブログでも、「“力”による安全保障を追及し、周辺国との妥協を排し、独自のパレスチナ政策を推し進めるイスラエルですが、一方で地域での孤立化を強めており、長い目で見たとき、こうした強硬策が本当にイスラエルの安全保障に資するのかどうか疑問に思えます。」と書きましたが、その後の展開はやはりイスラエルにとって内外ともに厳しいものとなっています。

今回の支援船団は、トルコの人道支援団体を中心に組織され、乗船者のほぼ半数がトルコ国民だったこと、また死者9人のうち少なくとも4人がトルコ国籍だったこともあって、この地域での存在感を増しつつあるトルコ・エルドアン政権は「血塗られた虐殺だ」とイスラエルを激しく非難しています。

****支援船急襲 イスラエルとの関係見直し示唆 トルコ首相*****
トルコのエルドアン首相は1日、国会で演説し、パレスチナ自治区ガザ地区に向かっていた支援船団に対するイスラエル軍の急襲を「血塗られた虐殺だ」と非難し、「今日が歴史の転換点だ。すべては、これまでと同じでは済まされない」と述べ、軍事協力協定などイスラエルとの戦略的な協力関係を見直す考えを強く示唆した。
首相は演説の際、怒りの表情をあらわにし、「イスラエルの犯罪は、必ず罰せられなくてはならない」と強調した。
また、トルコのダウトオール外相は訪問先のワシントンで、「友好国の国民を尊重しない相手を、どうして和平の真のパートナーとして信頼できようか」と語り、一昨年末までトルコが行っていたシリアとイスラエルの間接和平交渉の仲介などを今後一切停止する考えを示した。【6月2日 産経】
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ただし、“トルコのギョヌル国防相はイスラエルから無人航空機を1億8300万ドル(約167億円)で予定通り購入し、今夏に受け取ることを表明。両国間で確認した。軍事を通じて辛うじて関係が維持される兆候もみえる。トルコ軍はイスラエル製の無人機を、同国南東部の山間部を拠点に独立闘争を続けるクルド人勢力の偵察・攻撃用に使うとみられている”【6月2日 毎日】ということで、“それはそれ、これはこれ”といった打算的なところもあります。

【EU、ロシア、中国も批判】
欧州連合(EU)のブゼク欧州議会議長は31日、「正当化できない攻撃であり、明らかな国際法違反だ」と非難する声明を発表。この声明はイスラエルに対して、急襲に至る経緯の説明を求めると共に、国際社会がガザ封鎖の早期解除を目指して対イスラエル圧力を強めるよう促しています。
ロシアも1日のロシア・EU首脳会議で、「人道物資と商業品、人々の往来について、ガザの境界を即座に開放するよう求める」とする共同宣言を発表しています。

北朝鮮による韓国海軍哨戒艦「天安」沈没事件で、アメリカをはじめとする国際社会から、かねてより支援してきた北朝鮮への圧力を求められている中国は、これまでアメリカが“かばってきた”イスラエルの今回の事件に、国連安保理での迅速な行動を要求しています。

【イスラエル正当性主張 アメリカは苦しい選択】
国際的批判が強まるなか、イスラエルのネタニヤフ首相は31日、「兵士は乗員に集団暴行されており、自分の身を守らなければならなかった」と正当性を主張しています。
また、ネタニヤフ首相は訪問先のカナダで記者団に「我々はテロリスト政権のハマスと対立しており、ガザへの武器搬入を防ぐ状態を維持したいだけだ」とも発言しています。
アヤロン副外相は、ハマスと支援船団側には「強い結び付きがある」と主張し、「船団側の目的は(イスラエルへの)挑発だ」と語っています。【6月1日 朝日】

アメリカ・オバマ大統領は31日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で協議、大統領は事件への「深い遺憾の意」を表明して真相解明を求めましたが、非難は避けたと報じられています。【6月1日 毎日より】
国際社会がイスラエルへの批判を強める中、どこまでイスラエルを擁護できるのか、アメリカも苦しい選択を迫られています。

そして、国連安全保障理事会は31日、非常任理事国のトルコ、レバノンが要請する形で緊急会合を開きましたが、イスラエルを非難する各国と、非難を和らげたいアメリカの間で交渉は難航しました。
結局、玉虫色の間接的表現をちりばめながらも、事件を非難する議長声明を全会一致で採択しました。

****イスラエルを非難 ガザ支援船急襲 安保理議長声明****
イスラエル軍がパレスチナ支援船団を急襲し死傷者が出た事件で、国連安全保障理事会は1日未明(日本時間同日午後)、事件を非難する議長声明を全会一致で採択した。多くの死者を出したトルコなどは当初、イスラエルを直接非難する内容の案を提示していたが、米国の反発で間接的な表現に改められた。

トルコなどの要請で開催された安保理の緊急会合は声明の文言をめぐる調整がもつれ、10時間以上にわたって続けられた。
最終的に声明は、イスラエルが拿捕(だほ)した支援船と拘束した乗組員の即時解放を求める一方、「イスラエルによる公海上での武力使用の結果、死傷者が出たことに深い遺憾の意を表明する」などと、間接的にイスラエルを非難する内容にとどまった。
当初案では国連が国際的な独立調査に乗り出すよう求めていたが、米国の反対により、「迅速かつ公平で透明性のある調査」を求めるとした。
今後の調査のあり方については、緊急会合終了後、一部の国から、国連主導による事実上の独立調査が行われるとの見方が示されたのに対し、米国代表は「イスラエルは十分に公平かつ透明性のある調査を行うことができる」と述べるなど、意見の食い違いが残された。
声明はまた、ガザ地区の人道状況に関して「重大な懸念」を強調したものの、イスラエルが続けるガザ封鎖の解除を求める文言は米国の反対で見送られた。【6月2日 産経】
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朝日報道では、安保理議長声明は“これらの行為を非難する”と、複数形になっており、これはイスラエルの行為だけでなく、支援船団側の行為も含むものとされています。多分、アメリカ側の解釈で、トルコなどはまた別の解釈でしょう。
ただ、過度のイスラエル援護は、アラブ・イスラム世界の反発を高め、今後の中東和平交渉におけるアメリカの立場もあやうくしかねません。

【イスラエル国内での批判】
今回事件に関しては、イスラエル国内からも“失敗だった”との批判が出ています。
****支援船強襲、イスラエル国内でも批判噴出*****
1日付のイスラエル各紙は一斉に「作戦は大失敗だった」と批判した。
イスラエル軍は事件について、ヘリコプターからロープで降下させた特殊部隊兵士を、支援船に乗った活動家約30人が、鉄の棒や刃物を持って甲板で待ち受け、次々に襲ったと説明。この攻撃は予想外で、その後の発砲は正当防衛だったと主張している。(中略)
批判の矛先は、軍が船上での想定外の武力衝突に対応できずに多数の死傷者を出し、ガザ封鎖への国際批判まで高めてしまう失態を演じたことに向けられている。
ガザ武装勢力によるイスラエルへのロケット弾攻撃に反発する国民の間では、ガザ封鎖そのものへの批判は少ない。ハマスへの強硬姿勢を取ってきたネタニヤフ首相は、高まる国際圧力に屈する形で封鎖を解除、緩和するわけにはいかない。・・・・【6月2日 読売】
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【エジプト ラファ検問所を開放】
イスラエルメディアは「やむを得ず発砲したイスラエル兵に責任はない」という点ではほぼ一致しているものの、ガザ封鎖の有効性への疑問が出ています。
****支援船急襲 イスラエル国内でも「立場損ねる」 ガザ封鎖、矛盾浮き彫り*****
・・・・国連安全保障理事会の議長声明に「封鎖解除」を求める文言を盛り込むことは見送られたものの、封鎖政策の有効性を疑問視する声はイスラエル国内からも出ている。
・・・・長期にわたるガザ封鎖の効果については、さまざまな議論が出始めており、有力紙ハアレツは「イスラエルは、4年間におよぶ封鎖で苦しむガザに向かう船を攻撃し、ハマスはロケット弾を1発も撃つことなく圧倒的な勝利を収めた」とし、「封鎖政策が逆にイスラエルの国際的な立場を著しく損ねている」と指摘した。
安保理議長声明では見送られたものの、今回は欧州連合(EU)も5月31日、事件の徹底糾明だけでなく、ガザ封鎖の即時解除を求める声明を発表。欧州各国もアラブ・イスラム諸国と足並みをそろえつつある。

イスラエルは、ハマスがガザ地区を武力制圧した2007年6月以降、境界封鎖を強化したが、強硬姿勢を取る以外に無策なハマスへの住民の失望から、ハマスへの支持は低下する傾向にあったとも指摘される。
しかし、イスラエルが強硬策を取るたびに、ハマスは支持を回復。イスラエルとの和平交渉を進めようとする穏健派のアッバス自治政府議長らの立場は弱まり、和平プロセスが停滞するというジレンマも抱えている。・・・・【6月2日 産経】
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イスラエルによるガザの「封鎖」は2006年1月ハマスが評議会選挙に勝利してから強化され。2007年6月にハマスがガザ地区の治安掌握をして以降は、完全封鎖とも言える状況が続いています。
イスラエルに囲まれたガザ地区唯一のイスラエル以外への出口であるラファについては、エジプトが封鎖しています。

国内に穏健派原理主義のムスリム同胞団を抱えるエジプトは、過激派ハマスとの交流を阻止したい狙いがあり、また、アメリカからの資金援助を伴う強い要請もあってのラファ検問所封鎖ですが(ハマスと対立するパレスチナ自治政府からの要請もあったようです)、かねてよりアラブ・イスラム世界では、イスラエルに加担する行為として評判が悪く、今回事件でムバラク大統領は、人道物資などを搬入するためラファ検問所を開放するよう命じています。ガザ封鎖に対する非難の矛先がエジプトに向かうのを回避する狙いがあるとみられています。

【再衝突の可能性も】
事件後、イスラエル軍はその強い姿勢を変えていません。
イスラエル軍は1日、ガザからイスラエル領にロケット弾2発が撃ち込まれたことへの報復として、ガザ地区を空爆し、パレスチナ武装勢力の3人を死亡させています。これに先立ち、ガザ南部では、イスラエル側に侵入しようとしたイスラム原理主義組織、イスラム聖戦のメンバー2人がイスラエル軍との銃撃戦で射殺されています。

一方、支援団体側も、新たに支援船2隻が今週末から来週初めにかけ、ガザ入りを目指す予定だと語っています。
再度の衝突も起こりうる状況です。

コメント
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