【『リチウムのサウジアラビア』】
戦乱の続くアフガニスタンに、リチウムや鉄、金、ニオブ、水銀、コバルトなど1兆ドル(約92兆円)規模の鉱物資源が埋蔵されているという調査結果が話題になっています。
****アフガンに巨大埋蔵鉱脈 金など92兆円規模、米調査*****
米紙ニューヨーク・タイムズは14日、アフガニスタン各地に1兆ドル(約92兆円)規模の鉱物資源が埋蔵されているとする米国防総省の調査結果を報じた。鉄、銅、金のほか、リチウムなどの希少金属も大量にあり、経済復興の要になると期待される一方、資源確保をめぐって反政府武装勢力タリバーンの攻勢が激化するとの見方もある。
同紙によると、2004年、アフガンの鉱物資源を復興に役立てようと考えた米国の地質学者が、旧ソビエト連邦が侵攻当時の1980年代に作製した鉱脈図を発見。米地質調査所(USGS)がこれを元に、アフガン全土の7割以上を航空機で調査し、実際に多くの鉱脈があることをつきとめた。
鉄や銅、コバルトの巨大な埋蔵地のほか、アフガン南部では大規模な金の鉱脈が確認され、中部ガズニ州付近の塩湖ではリチウムの巨大な埋蔵地がみつかった。リチウムの埋蔵量は、世界有数の産出地として知られるボリビアに匹敵するとみられ、米国防総省内には「アフガンが『リチウムのサウジアラビア』になる」との見方もあるという。超伝導物質の原料になるニオブも大量にあるとみられる。
これらのデータをもとに、アフガンの経済復興策を担う米国防総省の特別チームが昨年、鉱物資源の経済規模を「1兆ドル近く」と算出。結果はゲーツ国防長官やアフガンのカルザイ大統領にも報告され、米政府がアフガン政府に対し採掘権管理の指導などを始めている。鉱業の歴史がないアフガンでは、採掘技術の習得や社会基盤整備に時間がかかるとされるが、数年後には一部で操業開始できる見通しだという。
アフガンの治安と経済の回復を最重要課題とするオバマ政権にとって、膨大な鉱物資源の発見は明るいニュースだが、「もろ刃の剣」(同紙)だとの指摘も出ている。
タリバーンが資源確保を目的に支配地域の拡大を強めたり、鉱物資源が豊富な地域の指導者と中央政府との間で「資源をめぐる争い」が頻発したりする事態が予想されるためだ。採掘権の認可をめぐるアフガン当局者の汚職増加や環境破壊も懸念される。同紙は、アフガンで銅山の採掘権を持つ中国が他の資源獲得に乗り出し、米国と対立しかねないとの米政府高官の見方を紹介している。【6月15日 朝日】
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【米軍は以前から把握していた】
このアフガニスタンの地下資源については、以前から関係者の間では知られていたことだったとの報道もあります。
****アフガンの1兆ドル鉱脈:「戦争の真の理由」という声も*****
これらの鉱物資源は新しく「発見された」と報道されているが、実は米軍はかなり以前から、アフガニスタンの金属資源が豊富であることを把握していた。
New York Timesの記者は、アフガニスタンに鉱物があることを国防総省が知ったのは、2004年に発見された「古い図表やデータを集めた興味深い資料」による、と伝えている。・・・しかし、『Politico』によると、米国の元高官の1人は、米国政府がアフガニスタンの鉱物資源を「発見した」と発表したことを「非常に馬鹿げている」と述べたという。「私が1970年代にカブールに駐在していたとき、(米国政府)、ロシア、世界銀行、国連などが、アフガニスタンに大量に埋蔵されている鉱物に大いに注目していた。鉱石を、大洋に面した港まで安価に輸送する方法が、常にその制限要因となっていた」
アフガニスタンの資源については、少なくとも2人の地質学者(Chamberlin氏とShroder教授)がこれまで、米国防総省にアドバイスを与えている。・・・・Chamberlin氏とShroder教授という2人の専門家が米軍にどのような情報を提供したのかについて、正確なところは明らかではないが、彼らが軍のトップと接触していたのは、2004年よりも前であったことは間違いない。2002年には米国内務省の鉱物関係の調査報告が、アフガニスタンには「かなりの量の金や宝石などの鉱物が埋蔵されている」と報告している、とSeattle Post-Intelligencerは報道している。
しかし、それよりも以前からアフガニスタンの資源について関心を持ってきたのがソ連だ。アフガニスタンを再建するために2002年に開催された会議において、いくつかの国の代表は、ロシアが数十年前から行なっていたアフガニスタンの金属資源に関する調査情報を出さないことを批判していた。・・・・【6月15日 WIRED VISION】
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25年にわたってアフガニスタンの地下資源の研究を続けてきた地質学者で、国防総省にも協力してきたChamberlin氏は、「これは新しい事実ではない。おそらくこれはまた、米国がなぜこれほど熱心にこの戦争に取り組んでいるかという真の理由についてヒントを与えてくれるものだろう」と語っているとか。
【利権が惹起する対立・衝突、汚職・腐敗】
戦争を行ってきたアメリカ・ホワイトハウスがどれほどこの情報を意識していたかはわかりませんが、豊富な地下資源が「もろ刃の剣」となる懸念は誰しも感じるところでしょう。
アフリカでは、鉱物資源の豊富なシエラレオネ、コンゴ、更に石油資源のあるスーダン、ナイジェリアなど、各地でその資源をめぐって戦闘・紛争が続いてきました。
アフガニスタンでもその資源をめぐる、中央・地方を巻き込んだ新たな紛争が起こる不安があります。
また、巨額の利権を生む資源は、政権の汚職・腐敗を更にひどくすることも懸念されます。
すでにアフガニスタンは、世界で消費される麻薬の9割はアフガン産と言われるぐらいに、アヘン栽培・麻薬製造が蔓延しています。
アヘン栽培は本来の農業生産を駆逐し、タリバンの資金源となり、政府部内中枢にも麻薬関連の腐敗が浸透している状況です。
その麻薬に加えて、濡れ手に粟の鉱物資源・・・・となると、健全なアフガニスタン経済・社会の復興に悪しき影響が出るのでは。
アフガニスタンが先に取り組むべき課題は、地下資源からの巨額な利益を生むことより、資金が有効・確実に住民のために使用される政治・社会システムを構築することでしょう。
【漁夫の利】
なお、冒頭記事の最後にもあるように、中国がアフガニスタンの銅資源開発にすでに乗り出しており、3年前、中国の企業グループはアフガニスタンにある世界有数の銅山、アイナク銅山に30億ドル(約2800億円)を投資しています。
3月に訪中したアフガニスタンのカルザイ大統領は、中国企業のアフガニスタンへの投資拡大を求めています。
アフガニスタンでの中国の資源獲得については、米国が人命と財産とを犠牲にする中、中国が漁夫の利を得ている。アメリカは軍事的、外交的にアフガニスタンからの撤退をにらんでいる一方、中国は自国の利益のために米軍がアフガニスタンにとどまり続けることを望んでいる」との指摘・批判もあります。
こうしたアメリカ側の中国批判について、中国・環球時報は「アフガニスタン人は中国の投資を歓迎している」と反論、また、日本やインドと比べれば中国の投資ははるかに少ないとして、荒廃しきったアフガニスタンは中国の投資を必要としていると主張しています。【2009年10月14日 Record Chinaより】
アフガニスタンでの戦争は、中国や世界がアメリカに頼んだ訳ではなく、アメリカが9.11への報復として勝手に始めた戦争ですから、そこでどんな経済活動を行おうが“アメリカの犠牲ので、漁夫の利を得ている”云々の批判を受ける覚えはないとする中国側の反論はもっともです。
戦乱の続くアフガニスタンに、リチウムや鉄、金、ニオブ、水銀、コバルトなど1兆ドル(約92兆円)規模の鉱物資源が埋蔵されているという調査結果が話題になっています。
****アフガンに巨大埋蔵鉱脈 金など92兆円規模、米調査*****
米紙ニューヨーク・タイムズは14日、アフガニスタン各地に1兆ドル(約92兆円)規模の鉱物資源が埋蔵されているとする米国防総省の調査結果を報じた。鉄、銅、金のほか、リチウムなどの希少金属も大量にあり、経済復興の要になると期待される一方、資源確保をめぐって反政府武装勢力タリバーンの攻勢が激化するとの見方もある。
同紙によると、2004年、アフガンの鉱物資源を復興に役立てようと考えた米国の地質学者が、旧ソビエト連邦が侵攻当時の1980年代に作製した鉱脈図を発見。米地質調査所(USGS)がこれを元に、アフガン全土の7割以上を航空機で調査し、実際に多くの鉱脈があることをつきとめた。
鉄や銅、コバルトの巨大な埋蔵地のほか、アフガン南部では大規模な金の鉱脈が確認され、中部ガズニ州付近の塩湖ではリチウムの巨大な埋蔵地がみつかった。リチウムの埋蔵量は、世界有数の産出地として知られるボリビアに匹敵するとみられ、米国防総省内には「アフガンが『リチウムのサウジアラビア』になる」との見方もあるという。超伝導物質の原料になるニオブも大量にあるとみられる。
これらのデータをもとに、アフガンの経済復興策を担う米国防総省の特別チームが昨年、鉱物資源の経済規模を「1兆ドル近く」と算出。結果はゲーツ国防長官やアフガンのカルザイ大統領にも報告され、米政府がアフガン政府に対し採掘権管理の指導などを始めている。鉱業の歴史がないアフガンでは、採掘技術の習得や社会基盤整備に時間がかかるとされるが、数年後には一部で操業開始できる見通しだという。
アフガンの治安と経済の回復を最重要課題とするオバマ政権にとって、膨大な鉱物資源の発見は明るいニュースだが、「もろ刃の剣」(同紙)だとの指摘も出ている。
タリバーンが資源確保を目的に支配地域の拡大を強めたり、鉱物資源が豊富な地域の指導者と中央政府との間で「資源をめぐる争い」が頻発したりする事態が予想されるためだ。採掘権の認可をめぐるアフガン当局者の汚職増加や環境破壊も懸念される。同紙は、アフガンで銅山の採掘権を持つ中国が他の資源獲得に乗り出し、米国と対立しかねないとの米政府高官の見方を紹介している。【6月15日 朝日】
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【米軍は以前から把握していた】
このアフガニスタンの地下資源については、以前から関係者の間では知られていたことだったとの報道もあります。
****アフガンの1兆ドル鉱脈:「戦争の真の理由」という声も*****
これらの鉱物資源は新しく「発見された」と報道されているが、実は米軍はかなり以前から、アフガニスタンの金属資源が豊富であることを把握していた。
New York Timesの記者は、アフガニスタンに鉱物があることを国防総省が知ったのは、2004年に発見された「古い図表やデータを集めた興味深い資料」による、と伝えている。・・・しかし、『Politico』によると、米国の元高官の1人は、米国政府がアフガニスタンの鉱物資源を「発見した」と発表したことを「非常に馬鹿げている」と述べたという。「私が1970年代にカブールに駐在していたとき、(米国政府)、ロシア、世界銀行、国連などが、アフガニスタンに大量に埋蔵されている鉱物に大いに注目していた。鉱石を、大洋に面した港まで安価に輸送する方法が、常にその制限要因となっていた」
アフガニスタンの資源については、少なくとも2人の地質学者(Chamberlin氏とShroder教授)がこれまで、米国防総省にアドバイスを与えている。・・・・Chamberlin氏とShroder教授という2人の専門家が米軍にどのような情報を提供したのかについて、正確なところは明らかではないが、彼らが軍のトップと接触していたのは、2004年よりも前であったことは間違いない。2002年には米国内務省の鉱物関係の調査報告が、アフガニスタンには「かなりの量の金や宝石などの鉱物が埋蔵されている」と報告している、とSeattle Post-Intelligencerは報道している。
しかし、それよりも以前からアフガニスタンの資源について関心を持ってきたのがソ連だ。アフガニスタンを再建するために2002年に開催された会議において、いくつかの国の代表は、ロシアが数十年前から行なっていたアフガニスタンの金属資源に関する調査情報を出さないことを批判していた。・・・・【6月15日 WIRED VISION】
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25年にわたってアフガニスタンの地下資源の研究を続けてきた地質学者で、国防総省にも協力してきたChamberlin氏は、「これは新しい事実ではない。おそらくこれはまた、米国がなぜこれほど熱心にこの戦争に取り組んでいるかという真の理由についてヒントを与えてくれるものだろう」と語っているとか。
【利権が惹起する対立・衝突、汚職・腐敗】
戦争を行ってきたアメリカ・ホワイトハウスがどれほどこの情報を意識していたかはわかりませんが、豊富な地下資源が「もろ刃の剣」となる懸念は誰しも感じるところでしょう。
アフリカでは、鉱物資源の豊富なシエラレオネ、コンゴ、更に石油資源のあるスーダン、ナイジェリアなど、各地でその資源をめぐって戦闘・紛争が続いてきました。
アフガニスタンでもその資源をめぐる、中央・地方を巻き込んだ新たな紛争が起こる不安があります。
また、巨額の利権を生む資源は、政権の汚職・腐敗を更にひどくすることも懸念されます。
すでにアフガニスタンは、世界で消費される麻薬の9割はアフガン産と言われるぐらいに、アヘン栽培・麻薬製造が蔓延しています。
アヘン栽培は本来の農業生産を駆逐し、タリバンの資金源となり、政府部内中枢にも麻薬関連の腐敗が浸透している状況です。
その麻薬に加えて、濡れ手に粟の鉱物資源・・・・となると、健全なアフガニスタン経済・社会の復興に悪しき影響が出るのでは。
アフガニスタンが先に取り組むべき課題は、地下資源からの巨額な利益を生むことより、資金が有効・確実に住民のために使用される政治・社会システムを構築することでしょう。
【漁夫の利】
なお、冒頭記事の最後にもあるように、中国がアフガニスタンの銅資源開発にすでに乗り出しており、3年前、中国の企業グループはアフガニスタンにある世界有数の銅山、アイナク銅山に30億ドル(約2800億円)を投資しています。
3月に訪中したアフガニスタンのカルザイ大統領は、中国企業のアフガニスタンへの投資拡大を求めています。
アフガニスタンでの中国の資源獲得については、米国が人命と財産とを犠牲にする中、中国が漁夫の利を得ている。アメリカは軍事的、外交的にアフガニスタンからの撤退をにらんでいる一方、中国は自国の利益のために米軍がアフガニスタンにとどまり続けることを望んでいる」との指摘・批判もあります。
こうしたアメリカ側の中国批判について、中国・環球時報は「アフガニスタン人は中国の投資を歓迎している」と反論、また、日本やインドと比べれば中国の投資ははるかに少ないとして、荒廃しきったアフガニスタンは中国の投資を必要としていると主張しています。【2009年10月14日 Record Chinaより】
アフガニスタンでの戦争は、中国や世界がアメリカに頼んだ訳ではなく、アメリカが9.11への報復として勝手に始めた戦争ですから、そこでどんな経済活動を行おうが“アメリカの犠牲ので、漁夫の利を得ている”云々の批判を受ける覚えはないとする中国側の反論はもっともです。