孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キルギス民族衝突  ウズベキスタンは国境閉鎖 ロシアは平和維持部隊の派遣には慎重姿勢

2010-06-16 23:21:17 | 国際情勢

(南部ジャララバード 放火されたウズベク系住民の家 “flickr”より By Thanh Giang20101 http://www.flickr.com/photos/49626328@N05/4698327563/)

【増える死者 急務となる難民救済】
中央アジア・キルギスにおける民族衝突は収まりを見せつつあるとも報じられていますが、その犠牲者は報道が更新されるたびに増加して百名を大きく超える数字となっています。また、国内外の避難民への救済も急務となっています。

****キルギス、人道危機 略奪・放火、難民10万人に迫る****
中央アジア・キルギス南部で続くキルギス系住民と少数派ウズベク系住民の民族衝突は15日、隣国ウズベキスタンへの難民が10万人に達する勢いとなっている。同日までの死者は171人、負傷者は約1700人にのぼった。騒乱そのものは収束傾向に入ったとみられるものの、難民の増加や食糧不足など人道的危機の様相が深まっている。
中央アジアの通信社フェルガナ・ルーによると、ウズベキスタンには成人だけで4万5千人の難民が流入し、国境近くのテント村などに収容されている。ウズベク側は同日、「さらに難民を収容する余地がない」(アリポフ副首相)として国境を閉鎖し、国際機関の支援を求めた。キルギスに派遣された国連のエンチャ特別代表は「難民数が近く10万人を超える可能性がある」と指摘している。

キルギスでは10日夜以降、南部のオシとジャララバードで、キルギス系とウズベク系の衝突が銃撃戦や放火、略奪など騒乱状態に発展。国内で14%、南部の両都市で半数近くを占めるウズベク系の居住区が無差別的な攻撃を受けているとの情報が多い。
オトゥンバエワ暫定大統領は15日、「衝突は減少傾向にあり、これが続くことを望む」とする一方、実際の死傷者が公表されている数の数倍にのぼる可能性があると述べた。また、警察機能が不十分だとし、ロシアに平和維持要員の派遣を改めて要請したことを明らかにした。
南部では商店や公共施設、病院も放火、略奪されており、食糧や水、医薬品の不足が伝えられる。赤十字国際委員会は「8万人が自宅を追われた」とし、880万ドル(約8億円)の財政支援を訴えている。

ソ連時代の1920~30年代に行われた国境画定を受け、キルギス南部ではウズベキスタンとの国境が複雑に入り組んでいる。90年にはキルギス系とウズベク系の土地利用をめぐる衝突で数百人が死亡し、ソ連の治安部隊が介入した。
ウズベキスタンは天然ガス、キルギスは水が豊富で、ソ連崩壊後の両国間にはこれら資源をめぐる緊張関係がある。露メディアでは、今回の騒乱が民族紛争の拡大や両国の対立激化につながることへの警戒も強まっている。
ロシアなど旧ソ連7カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)はキルギスに車両や警察装備品、燃料を提供することは決めたものの、平和維持部隊の派遣には慎重姿勢を見せている。【6月16日 産経】
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赤十字国際委員会(ICRC)は15日、正確な死者数はまだ分からないとしながらも「数百人が死亡した」と発表しています。また、遺体の埋葬などがどの程度まで行われたかは不明で、「一部は放置された状態にある」とも。【6月16日 時事】

【南北対立に重なる民族対立】
産経記事にもあるように、このキルギス南部は国内全体では少数派であるウズベク系住民が、ほぼキルギス系住民と拮抗しており、90年のオシでの民族衝突など、対立があった地域です。
一方で、キルギスは南北間の対立が政治の根底にあり、政変で追放されたバキエフ前大統領はジャララバード地方出身で南部を地盤としており、多くの支持者がいます。
政変に際して、バキエフ前大統領支持のキルギス系住民が州庁舎を占拠するなどの臨時政府への抵抗活動を行っていましたが、一部ウズベク系住民がバキエフ前大統領や親族の家の襲撃に関与したとして、ウズベク系住民との対立に火が付く形となりました。
このように、バキエフ前大統領支持派の南部と北部主導の臨時政府の対立に、キルギス系とウズベク系の民族対立が重なる構造が基本にあります。

“騒乱は当初、若者同士の偶発的なけんかが発端と伝えられ、オトゥンバエワ暫定大統領も11日朝、「日常生活の領域」で起きた争いが拡大したとの声明を発表した。しかし、臨時政府はその後、11日に隣国ウズベキスタンの首都タシケントで開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議の直前を狙い、臨時政府の統治能力の欠如を見せつけようとする勢力がキルギス系とウズベク系の歴史的な民族対立をあおって騒乱をたきつけたとの見方を強めてきた。
騒乱が起きた南部は4月の政変でキルギスを追われたバキエフ前大統領の地盤。政変後オシやジャララバードなどで、バキエフ前大統領の支持者が州庁舎を占拠するなど、臨時政府側との衝突が続いた。5月19日にはジャララバードのウズベク系大学をキルギス系住民が襲撃する事件が起き、民族間の衝突に発展。臨時政府はジャララバード州に非常事態宣言を発令、2週間かけて鎮静化したが、その火種が再燃した形だ。”【6月14日 毎日】

また、南部犯罪組織の関与も報じられています。
“バキエフ前大統領と組んで南部の経済権益を握っていた犯罪組織が、政権交代で権益を失うことを恐れ、民族対立をたきつけて騒乱を起こした可能性を指摘している。27日に予定される国民投票で新憲法案と暫定大統領が承認されれば、臨時政府の正統性が認知されることになる。このため、国内を混乱状態に陥れ、国民投票そのものを中止に追い込む狙いがあったとの見方だ”【同上】

なお、ベラルーシ滞在中のバキエフ前大統領側は13日、衝突への関与を否定する声明を出しています。また、14日の記者会見でも「政界に戻る意図はない」と述べ、改めて関与を否定しました。
しかし、臨時政府側は、バキエフ前大統領支持派が騒乱を組織したと見ており、逮捕したバキエフ前大統領支持者が容疑を認める供述を始めたと発表しています。
バキエフ前大統領が逃亡しているベラルーシの最高検察庁は15日、臨時政府が求めていたバキエフ氏の身柄引き渡しを拒否する決定を下しています。理由は明らかにされず、臨時政府は「政治的動機によるもの」と反発しています。【6月16日 朝日】

もっとも、現地は混乱しており、“インタファクス通信などによると、全域に非常事態宣言が出されたジャラルアバド州では、13日夜も放火や発砲が続いた。軍拠点の占拠も続き、若者らが、ウズベク系だけでなく、キルギス系の住民にも無差別に発砲しているという。火災などで700人が死亡したとの情報もある。”【6月14日 朝日】といった報道もあります。

【「受け入れのための施設や能力が不足している」】
主に襲撃の対象となっているウズベク系住民は隣国ウズベキスタンへ避難しようとしており、国境を越えた避難民は7万5千人とも10万人とも言われていますが、ウズベキスタンはこれ以上の難民流入の負担は耐えられないとして国境を封鎖しました。

****ウズベキスタン、民族衝突続くキルギスとの国境を封鎖****
中央アジア・キルギス南部で起きた民族間の衝突をめぐり、ウズベキスタン政府は14日、避難民が殺到しているキルギスとの国境を閉鎖すると発表した。キルギスでは、政府軍がキルギス系住民によるウズベク系住民襲撃に加担しているとの批判があがっている。
ウズベキスタンのアブドゥラ・アリポフ副首相は、「受け入れのための施設や能力が不足している」ことを理由に、国境の封鎖を発表した。援助団体や国連(UN)は、国境の開放を維持するように求めていた。
副首相は、ウズベキスタンに対する国際的な人道援助が必要だとの認識を示し、「受け入れ態勢が整えば、当然国境は開放するつもりだ」と述べた。
衝突発生から4日目の14日も、南部オシ(Osh)やジャララバード(Jalalabad)では衝突が続いており、死者は少なくとも138人、負傷者は1761人に上っている。ウズベキスタン当局によると、この衝突を避けるため最大10万人のウズベク系、タジク系住民が同国に流入しているという。【6月15日 AFP】
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また、“現地からの報道によると、キルギス側の国境では、ウズベク系住民数千人が「帰る場所などない」と叫びウズベクへの入国を求めている。”【6月16日 読売】とも。

ウズベキスタン外務省は16日の会見で、これまでに7万5千人の避難民が国境を越えたと発表。学校や宿泊施設などを使って避難民を収容しているが、3日間で食料の調達などに約100万ドルかかるなど資金面の問題も大きくなっているとしています。【6月16日 朝日】
同民族の避難に対して国境を封鎖するとういうのは無慈悲な感もしますが、ウズベキスタン政府としてもやむを得ない措置でもあるのでしょう・・・。
国際援助はこれから・・・という段階で、16日にはウズベキスタンに、テントなど国連の支援物資を積んだ輸送機が初めて到着しています。また、ロシアからは食料など120トンを積んだ輸送機3機が16日にキルギスの首都ビシケクに到着する予定です。

【ぎりぎりまで状況を見極めたいロシア】
臨時政府から、情勢安定化のため平和維持部隊の派遣要請を受けているロシアは、単独介入ではなく、周辺国との合同部隊派遣の形を模索していますが、その姿勢は慎重です。

****合同部隊の派遣 周辺国に温度差*****
中央アジアのキルギス南部で起きた民族衝突が深刻化している問題で、キルギス臨時政府から平和維持部隊の派遣要請を受けたロシアが周辺国との調整に乗り出した。単独介入に慎重なロシアは14日、旧ソ連7力国でつくる集団安全保障条約機構(CSTO)の会合をモスクワで開き、合同部隊派遣の可否を協議する。だが、関係国内には慎重意見もある。
インタファクス通信によると、キルギス安保会議トップのクロフ元首相は14日、「情勢は悪化する一方だ。平和維持部隊の投入なしには安定化しない」と述べ、早期の派遣を訴えた。キルギス臨時政府のオトゥンバエワ大統領も13日夜、ロシアのメドベージェフ大統領との電話協議で改めて派遣を求めたとみられる。
だが、4月の政変直後から臨時政府支持を明確にしたロシアは、今回の騒乱では一転、慎重姿勢をとっている。

最初に要請を受けた12日には「国内紛争であり、ロシアが参加する状況ではない」とし、重傷者の搬送など人道支援に限ってきた。キルギスの隣国ウズベキスタンやカザフスタンなどとの調整が不可欠とみているからだ。
背景には、ロシアと、これら中央アジア諸国との間のキルギス臨時政府に対する微妙な温度差もある。
ソ連崩壊後も、中央アジア諸国では強権的傾向の長期政権が維持されている。このため、バキエフ前大統領を、
同族支配や政敵締め付けなどへの反発から失脚に追い込んだキルギス臨時政府への視線は、歓迎一本やりではない。
ロシアはこうした周辺国とのすり合わせをしつつ、「単独介入」との批判をかわすため、今年3月に国連と協力協定を結んだCSTOの枠組みを活用する意向とみられる。
同機構にはロシア、ベラルーシ、アルメニアに加え、キルギス、ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタンの中央アジア諸国が入っている。
ロシアは2008年グルジアヘの軍事介入のような「国外のロシア入保護」という名目が立ちにくい。かつてソ連時代に近隣のアフガニスタンヘの軍事介入で泥沼に陥ったトラウマもある。ぎりぎりまで状況を見極めたいと考えている可能性もある。【6月15日 朝日】
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もともと、キルギスで強権的・親族支配的なバキエフ前大統領が追われる事態となったのは、いささか逆説的ではありますが、キルギスが他の中央アジア諸国に比べれば政治的自由が認められていたからだとも言われています。これが、他の中央アジア諸国であれば、反政府集会や反政府的活動は一切認められず、政変も起こりようがない・・・という訳です。
従って、強権支配的な国が多い周辺国のキルギス臨時政府に対する視線は、冷やかなものがあるようです。


コメント
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