孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「原発ルネサンス」に求められる「核の安全管理」

2010-06-17 22:42:06 | 国際情勢

(2008年11月段階での中国の原発分布 緑が稼働中、青が建設中、赤が計画のもの 今後更に原発建設の動きは加速するのでしょう。もしチェルノブイリ級の事故が起きると、その影響は日本にも及びます。可能性としては、核兵器による攻撃云々よりはるかに大きいのでは。“flickr”より By ANR2008
http://www.flickr.com/photos/34703494@N07/4193931887/)

【「原発バブル」】
核拡散防止条約(NPT)は原子力の平和利用を条約締結国の権利として認めていますが、近年、地球温暖化対策として原発が注目を集め、世界各地で建設・計画が拡大する「原発ルネサンス」とも「原発バブル」とも言われる状況が続いています。
オバマ米政権も79年のスリーマイル島原発事故以来の原発新規建設に乗り出すことが発表されています。
東アジア・東南アジア各国、更に中東でも原発建設の計画が進んでいます。

****核平和利用:民生用開発進める シリアとイスラエル表明*****
経済協力開発機構(OECD)などが主導し、核平和利用の進展について話し合う「原子力の民生利用に関する国際会議」で9日、シリア政府高官が民生用核開発を進める考えを表明した。シリアのメクダド副外相が語ったものでAFP通信が伝えた。会議ではイスラエルも原発共同開発の意向を示した。
「秘密裏に原子炉建設を進めた」との疑惑が持たれたシリアと、核拡散防止条約(NPT)未加盟で、核兵器を持つとされるイスラエルの両国が民生用核開発に積極的な姿勢を見せたことは、中東地域に新たな緊張をもたらす可能性がある。

メクダド副外相は、シリアにはエネルギー源の転換が必要で、将来の原子力発電も視野に入れていると説明。仏のサルコジ大統領が会議で「核平和利用の技術はすべての国に開かれるべきだ」と発言したことを評価し、同国の開発には国際協力が必要だと指摘した。
一方、イスラエルもエネルギー源確保が喫緊の課題で、隣国ヨルダンとの共同プロジェクトの形で原発開発を模索しているという。ランダウ国家基盤相は会議の席上、ネゲブ砂漠北部に原発の建設予定地を既に選定していると明らかにした。
イスラエルは07年に核疑惑の対象となったシリア北東部の施設を空爆した経緯がある。国際原子力機関(IAEA)は現地調査などに基づき今年2月、「シリアの施設跡から微量のウランが検出されたことは、核関連施設だった可能性を示している」と結論付けている。【3月9日 毎日】
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こうした「原発ルネサンス」のなかで、東芝、日立製作所、三菱重工業などの日系原子炉メーカーも、国内原発需要が頭打ちとなっていることもあって、日本政府の後押しも得て海外展開を目指しています。

【「公表義務ない」】
アメリカ政府によると、世界で建設中の原子炉は現在56基で、そのうち中国が21基、韓国が6基、インドは4基となっています。(数字については、下記記事と若干のずれはあるようです。)
ここでも中国が世界の先陣を切っているようですが、その中国の原発管理について不安なニュースも報じられています。

****中国原発広がる疑念 放射性物質漏れ 香港など「隠蔽か」****
当局確認に3週間「公表義務ない」
中国の原子力発電所をめぐる安全性の確保や情報公開の在り方に対し、内外で懸念が広がっている。広東省深セン市の原発で5月23日に起きた放射性物質漏れ事故が3週間以上たって香港側で確認され、中国側はその後やっと「外部への影響はない」とする声明を出すなどお粗末な対応に終始しているからだ。「隠蔽(いんぺい)工作ではないか」との批判も起きている。

中国では現在11基の原発が稼働し、26基が建設中。今回は香港の報道で原発事故が明るみに出たが、中国の内陸部で今後、原発事故があってもどこまで公正に情報が伝わり、的確に対処されるか疑念が残る。
香港のニュースサイト鳳凰(ほうおう)網などは16日、事故が起きた大亜湾原発(発電能力98万4千キロワット)を管轄する中国広東核電集団が、「燃料棒に微少なひびが入った可能性があるが、放射性物質は外部から完全に隔離され、外部にはいかなる影響もない」と発表したと伝えた。国際原子力機関(IAEA)の原子力事案には当たらず、公表の義務はなかったと突っぱねている。
同原発から電力供給を受けている香港の中華電力も同様の理由で、「事故隠蔽ではない」と反論した。

今回の事故は14日に香港メディアが「大亜湾原発で重大な事故が発生した」と報じて問題となり、香港政府保安局が中華電力に確認を求めたところ、15日になって中華電力が事故の事実を確認した。その後、ようやく中国側も“弁解”の声明を出す騒ぎとなった。
だが、情報公開の不透明さも手伝って、深セン市や同原発から数十キロしか離れていない香港で住民らの不安をあおる結果になった。同原発は中華電力など香港資本も25%出資して1994年9月に設立、70%は香港側に売電されている。
・・・今回の隠蔽疑惑に加え、原発関連の人材不足や、過去には手抜き工事や発注をめぐる巨額贈収賄事件も摘発されている。【6月17日 産経】
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【不用意な廃棄物処理】
一方、インドからは、原発関連ではありませんが、原子力利用に関する認識にかかわる問題も報じられています。
****廃棄された放射線装置で被ばく、1人死亡 インド*****
インドの首都ニューデリーにあるデリー大学が2月に廃棄処分にしたガンマ線照射装置で被ばくした廃棄物処理業者の男性1人が27日、多臓器不全のため病院で死亡した。
29日の警察発表によると、この装置はデリー大学の化学実験室が複数の廃棄物処理業者に売却したものだった。12日に放射能漏れが見つかると7人が体調の異常を訴えて入院し、同市のくず鉄市場に近い現場周辺の住宅地域はパニック状態となった。
問題の装置は1980年にデリー大学が輸入したものだが、85年には使用されなくなっており、この2月に競売によって売却されていた。警察の調べによると、これを入手した業者らが装置を分解した際に鉛製のカバーを外したため、被ばくしてしまった。 
警察はインドの原子力研究所の専門家らの協力を得て、コバルト60を含む放射性廃棄物を除去した。コバルト60は医療や食品加工の際の殺菌に使用される放射性物質。捜査当局はすでにニューデリー西部のくず鉄市場の15店舗から、コバルト60を検出している。【4月29日 AFP】
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中国にしても、インドにしても、“ありそうなことだ・・・”という感がありますが、この種の原発事故をめぐる国家の隠ぺい体質、原子力利用に関する杜撰さは、中国やインドに限らず、近年原子力利用を計画していると伝えられる多くの国々にも共通する問題のように思われます。

【「核安保」以前の問題として・・・】
先月開催された核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、原子力の平和利用を装って軍事目的の核開発を行う国があるのではないかとの疑惑への対応や、原発施設の核テロ対策を求める「核安全保障(セキュリティー)」の問題が議論になりました。
特に、後者の「核安保」は日本の提案によるものです。

****NPT再検討会議:核安保導入、合意へ テロ防止、廃棄物管理など*****
国連本部で開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が25日までに、原発施設の核テロ対策を求める「核安全保障(セキュリティー)」の重要性を強調することで合意する見通しとなった。
日本の提案に基づくもので、NPT合意文書に「核安全保障」概念が盛り込まれるのは初めて。核テロを最大の脅威とみなし先月、核安全保障サミットを開いたオバマ米大統領の「核兵器のない世界」構想を後押しする動きとして注目される。

議長案は「原子力平和利用の権利」の課題として「核の安全(管理)と核安全保障(セキュリティー)」の項目を立て、「安全や安全保障の重要性を強調する」と記している。
議長案は先月の核安保サミットに「留意」したうえで、核兵器に転用可能な高濃縮ウランの使用の最小限化など、サミットで合意された事項を挙げ、加盟国による自主的な「最小限化」を「歓迎」している。
また、「核安保」の最も進んだ実践を共有することを勧めるとともに、核廃棄物などの放射性物質を詰めた「汚い爆弾」によるテロ対策を念頭に、核廃棄物管理の教育・訓練プログラムの重要性も強調。「核安保」について加盟国の責任を確認しつつ、その基準作りについては、国際原子力機関(IAEA)が中心的役割を担うべきだとしている。

地球温暖化に伴い、世界各地で原発建設が進む中、日本は今会議で原子力の平和利用は「奪い得ない権利」と確認。そのうえで「信用と透明性を確保するため」不拡散や安全管理のほか「核安保」を提唱した。核テロを警戒する米国、技術支援を得たい新興国とも「核安保」に賛成した。
これまでは、核物質の盗難などが焦点だったが、「核安保」は原子力施設へのテロ攻撃の防止など包括的な対策を想定している。【5月27日 毎日】
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原子力施設へのテロ攻撃の防止などの「核安保」は確かに重要な問題ですが、中国やインドの実態に関する記事に戻って、核施設の安全管理、国家による情報公開、核物質の取り扱いに関する社会の認識を高める教育など、より重要な課題が山積しているように思われます。
そうした課題をクリアしていかないと、チェルノブイリの悲劇が遠からず世界のどこかで繰り返される事態が懸念されます。


コメント (1)
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