孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ・フランス  共同書簡送付で経済政策の不協和音打ち消し

2010-06-09 23:08:37 | 国際情勢

(ユーロ圏を牽引するメルケル首相とサルコジ大統領 写真は2008年のものですが、欧州各国の財政危機が表面化するなかで、最近は少し風向きも違うような・・・ “flickr”より By Chesi - Fotos CC http://www.flickr.com/photos/pimkie_fotos/2960834497/)

【両国の結束を示す狙い】
欧州各国の財政危機を受けて、国債や株式の空売り禁止、大規模な財政支出削減など財政規律を重視する路線に踏み出したドイツと、巨額の貿易黒字を抱えるドイツに対して内需拡大を求め、ユーロ圏全体を統括する「経済政府」の設立構想を最優先課題とするフランスの間で、このところ路線の違いが表面化していましたが、ユーロ圏を牽引する独仏両国の一応の結束を示す共同書簡が出されました。

****独仏トップ、欧州委員会委員長に共同書簡****
ドイツ政府は9日、メルケル独首相とサルコジ仏大統領が、欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会のバローゾ委員長あてに、国債や株式の空売り禁止に取り組むことを求める共同書簡(8日付)を送付したことを明らかにした。
共同書簡では、国債を含む債券、株式のほか、国家が財政破綻するリスクに賭ける国債の「クレジット・デフォルト・スワップ」(CDS)について、EU全域で空売り禁止対象に含めるように求めた。
ドイツは5月に空売り禁止を単独で実施。フランスは慎重だったが、歩調を合わせた。これまでユーロ危機をめぐっては、ユーロ圏各国の財政規律を重視するドイツと、ユーロ圏全体の経済政策の調整をめざす機関設立を目指すフランスとの間で、立場の違いが浮き彫りになっていた。共同書簡は、EUを主導する両国の結束を示す狙いもあるとみられる。【6月9日 読売】
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今月7日に予定されていたメルケル首相とサルコジ大統領の首脳会談が急きょ1週間延期される(表向きはメルケル首相のスケジュール問題ということですが)など、独仏両国の関係悪化が取り沙汰されていましたが、今回、金融規制の強化で足並みを揃えたことで、そうした懸念が緩和する可能性も指摘されています。

【ドイツ 金融市場規制へ】
ドイツは、5月、ギリシャの財政危機によりユーロ圏の国債が急落した事態を受け、ユーロ圏各国の国債・株式の空売りを禁止する措置を発表しました。
****ドイツ:ユーロ圏の国債空売り禁止****
ドイツ連邦金融監督庁は18日、ギリシャの財政危機によりユーロ圏の国債が急落した事態を受け、ユーロ圏各国の国債空売りを禁止する措置を19日から導入すると発表した。各国債を対象とするクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の空売りも禁止した。また、ドイツ銀行、コメルツ銀行など大手金融機関10社の株式の空売りも禁止した。ドイツ国内が対象で、来年3月末までの時限措置。株式の空売り規制は、08年秋の金融危機時に米国などが導入した例があるが、国債取引に導入するのは初めてとみられる。(中略)CDSは、債務不履行(デフォルト)に備えた一種の保険商品。裏付け資産のない投機的なCDS取引が各国債の大量売りを招き、信用不安を拡大させたとして、独仏ギリシャ首脳とユーロ圏常任議長のユンケル・ルクセンブルク首相は17日、CDSの全面禁止を求める共同書簡をオバマ米大統領に送付。6月のG20(主要20カ国)首脳会議で議題とするよう求めている。【5月19日 毎日】
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クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)というのは門外漢にはよくわからない代物です。
“クレジット・デリバティブの一種で、企業の債務不履行にともなうリスクを対象にした金融派生商品。債務不履行のリスク(Credit risk)に対してのプロテクション(Protection)を商品として売買する。
CDSの契約に基づいて、対象となる企業が破綻し金融債権や社債などの支払いができなくなった場合、CDSの買い手は金利や元本に相当する支払いを受け取るという仕組み。”・・・・といった説明を聞いても、正直なところ私はよく理解できません。

こうした金融規制については、独仏間だけでなく、イギリスとの間でも意見の違いがあります。
****ユーロ危機:英独首脳会談 市場規制などで異論****
英国のキャメロン首相は21日、ドイツのメルケル首相とベルリンで会談し「強く安定したユーロが必要」との認識で一致した。一方、ドイツが単独で実施している国債などの空売り禁止については否定的な考えを表明した。
首脳会談後の記者会見でキャメロン首相は、「英国はユーロに加わらない」としながらも「通貨ユーロの成功を望む」と強調。世界経済の混乱回避にはユーロ圏の安定が不可欠との考えを示した。ドイツが欧州諸国に空売り禁止への同調を求めていることには「取り扱うような問題でない。問題の真の原因である(ギリシャなどの)財政赤字に焦点を当てるべきだ」とかわした。
ドイツが主張するヘッジファンド規制についても「ヘッジファンドが金融市場の問題の原因だとは思わない」と指摘した。独メディアによると、欧州のヘッジファンドの約6割がロンドンに拠点を置いている。キャメロン首相は、規制強化による英国経済への悪影響を懸念したとみられる。欧州連合(EU)は今後、金融規制の具体策を協議するが、英独の不一致が議論の障害になる可能性もある。【5月22日 毎日】
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【歳出削減・財政再建の流れ】
また、ドイツは最後最大規模の歳出削減を明らかにしています。
****ドイツ:4年間で8.9兆円歳出削減 戦後最大規模*****
ドイツのメルケル首相は7日、11年から4年間で、総額816億ユーロ(8兆9000億円)の歳出を削減する財政再建策を発表した。公務員1万5000人、国防軍4万人の削減など人件費に切り込むほか、失業保険などの支給額を減額する。また耐用年数を過ぎた原発への課税制度を創設するほか、同国内を発着する航空機に環境負担金を課し、歳入を増やす。
独メディアによると削減幅は戦後最大となる。生活保護を受けている人に対しては、政府支給金を削減するほか、子育て給付金も取りやめるなど、社会保障分野にも大ナタを振るう。さらに、12年以後にはすべての金融取引に課税する金融取引税の導入を目指す考えも示した。
メルケル首相は会見で、所得税や付加価値税(日本の消費税に相当)の増税は否定した上で「財政は深刻な状況にあり、歳出削減は必要不可欠だ」と強調した。

ドイツは09年の基本法(憲法)改正で、財政赤字を16年までに国内総生産(GDP)の0.35%以内に抑える条項を新設した。だが、リーマン・ショック後の金融危機対策や、ギリシャ救済などで大型の財政出動が続き、10年の財政赤字はGDP比5%に拡大するため、連立与党内には早急な財政再建を求める声が高まっていた。
財政再建策に対しては、野党は「弱者切り捨て政策だ」と反発、労働組合からも強い批判が起きている。大手労組・独労働組合総同盟(DGB)は、削減策に代えて富裕層に対する増税を実施するよう求めている。
一方で、フランスや米国などは、巨額の貿易黒字を抱えるドイツに対し、内需拡大を求めている。ギリシャ危機に端を発したユーロ危機が世界経済にとって新たなリスク要因となる中、ドイツは欧州域内では財政的に比較的余裕があるためだ。周辺国の期待を裏切る形でドイツは緊縮財政にかじを切った形であり、今月下旬にカナダで開かれるG8サミット(主要国首脳会議)などで論議を呼ぶ可能性がある。【6月8日 毎日】
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歳出削減・財政再建は、いまや大きな流れとなっています。
財政危機が注目されているハンガリーのオルバン首相は8日、総額1200億フォリント(約460億円)の歳出削減を実施する考えを表明しました。公務員給与を15%削減するほか、銀行税を3年間の期限で新設し、歳入増を図るとしています。削減額は、国内総生産(GDP)の約0.5%に相当するとか。
イスラム移民排斥を求める極右・自由党の躍進が予想されているオランダ総選挙(9日)も、歳出削減が最大の争点となっています。
欧州だけでなく、アメリカもオルザグ米行政管理予算局長が8日、12会計年度(11年10月~12年9月)予算で、安全保障関係以外の政府部局に5%の予算削減を指示したことを明らかにしています。

また、従来“聖域”とされてきた国防関連支出にも削減が及んでいます。
****国防費にも大なた 欧州各国、NATO装備共有も****
ギリシャ財政危機に揺れる欧州各国は財政赤字の削減に着手したが、国防も聖域ではなくなってきた。ドイツは基地縮小や徴兵制廃止を検討し、財政再建が最優先課題になっている英国も国防費の2割削減は不可避とされる。北大西洋条約機構(NATO)加盟国間の装備共有も現実味を帯びてきた。
基地縮小と徴兵制廃止を唱えるのはドイツのグッテンベルク国防相だ。ドイツでは18歳以上の男子に9カ月の兵役が課されているが、来年から6カ月に短縮される。「(こんな短期間では)国防上の意味がなくなる」と同国防相は与党内の反対を押し切って徴兵制廃止を近く提案する。
総兵力を25万人から15万人に削るとの報道もある。
英国のキャメロン政権は今年こそ国防費は削らないが、20の装備調達計画を見直し、今後10年間で360億ポンド(4兆8千億円)の赤字を削減するとみられる。
アフガニスタンに派兵する9500人の安全確保のためにはヘリコプターや装甲車の増強、偵察機の買い替えは不可欠で、その分、2隻の空母建造と多用途戦闘機調達の計画見直しは避けられない情勢だ。
イタリアは緊急赤字削減策の一環として国防費を1割削減。ポルトガルも13年まで軍事支出を4割削る。
中国などの国防費が増大する中、欧州が大幅削減を余儀なくされることについて、NATOのラスムセン事務総長は英紙タイムズに「各国政府は国防費の過剰削減が長期的にもたらす影響も考えるべきだ」と警鐘を鳴らしている。【6月8日 産経】
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日本でも、国内総生産(GDP)の2倍近くに膨らんだ財政赤字について、組閣を受けて会見に臨んだ菅首相は「財政の立て直しが経済の立て直しの必須要件である」とし、財政再建では「党派を超えた議論をする必要がある」と超党派の議論を呼びかけていますが、どうでしょうか。

当然ながら、財政支出削減は、その内容によっては国民の大きな抵抗を招きます。
“スペインで8日、政府の財政緊縮策に抗議する初めての大規模ストがあった。異例の給与カットに反対して公務員らが主要都市でデモを展開。政府は企業が労働者を解雇しやすくする仕組みの導入も検討しており、労組側は今月中にもゼネストを実施する方向で準備を始めている”【6月8日 朝日】
今回のストでは、大きな混乱は生じていないようです。
いずれにしても、国民の理解が得られるかどうかは、その国の政治への信頼の度合いによります。


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